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経営と技術の進化が未来つくる 23年12月SDGsフェス 日経SDGs/ESG会議 開催レポート

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SDGs 採録 脱炭素

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2023年12月6日、「日経SDGs/ESG会議」が開催された(主催:日本経済新聞社、日経BP)。持続可能な社会の実現に向けた世界的な挑戦が続く中、企業はESG(環境・社会・企業統治)経営の高度化に努めている。経営や技術の進化、さらには領域を越えた協働の先にどのような未来が描けるのか。国際潮流や最新事例を踏まえた展望を、識者らが語り合った。

従業員の幸福度、中核課題に

伊藤 邦雄 氏 TCFDコンソーシアム 会長/人的資本経営コンソーシアム 会長/一橋大学 CFO教育研究センター長

上場企業の人的資本情報開示が義務化された23年は、人的資本開示元年だった。人的資本経営の土台は従業員の幸せ、つまりウェルビーイングの追求だ。

資本主義の限界が指摘され始めたことなど、ウェルビーイングが重視されるようになった要因はいくつかある。いずれにせよこれからの時代、企業経営においてはウェルビーイングが不可逆的かつ、中核をなすテーマとなる。今後10年以内に、どの企業も当たり前にウェルビーイング向上施策に取り組む時代が必ず来るだろう。だからこそ今から着手して対応力を高めておくべきだ。

ただ、ウェルビーイングは抽象的で多様性の高い概念だ。そのことが一部の経営者にウェルビーイングを中核的経営課題に据えることをちゅうちょさせてきた。だが多様性あるウェルビーイングの中にも、全体に共通するコア要素がある。それらを指標化すれば、ウェルビーイングを測定することは可能だ。そして、測定できるものはコントロールできる。

その思いから、日本経済新聞社を事務局とする「Well-being Initiative」の一環として、「日経統合ウェルビーイング調査」の開発に当たった。調査項目は、総合的ウェルビーイングのほか、組織風土、キャリア自律、健康安全、経済自立からなる。項目ごとに設けられた設問への回答を踏まえ、従業員の主観的ウェルビーイングを可視化する。

上場企業の正社員約1万人を対象としたベンチマーク調査から、興味深い結果がみえてきた。

全体の結果として、最もスコアが低かったのはキャリア自律だ。スキルの可視化などが進んでおらず、人材活用や育成環境が十分整備されていないといった課題がみえた。加えて、40〜50代の男性、それも課長以上の役職につく従業員のウェルビーイングが目立って低かった。こうした傾向は、Well-being Initiative参画企業に対して行った調査の結果とも共通する。

また調査を通じ、ウェルビーイング施策の意義や重要性を従業員に積極的に発信している企業ほど、従業員のウェルビーイング実感が高まることが分かった。認知が高いほどウェルビーイング実感も高まるこの状況を「ウェルビーイング・コンシャス・プレミアム」と名付けた。多くの企業と共有したい発見だ。

ウェルビーイングの可視化は、人的資本経営や人的資本情報開示の進化にも寄与する。ウェルビーイング施策が影響を与えうる領域は、従業員の働きがい・生産性の向上や、自律的キャリア形成など実に多様だ。それらの実現を通じ、従業員のウェルビーイング向上と会社の持続的成長を同時に達成することが、人的資本経営の本旨である。

ウェルビーイング施策を中核に据えたサステナビリティー経営を実践することで、企業価値の持続的成長を実現することを期待したい。

非財務インパクトの開示へ

三和 裕美子 氏 明治大学 商学部 教授 博士(商学)

アカデミアによる研究の蓄積は、人的資本などの非財務資本が企業価値向上にプラスの影響を与えることを実証してきた。今日では多くの企業が、ESG経営や、それに関する非財務資本の活用が企業価値に及ぼす影響を経営情報として開示している。

今後はさらに一歩進み、企業活動が社会や環境に与える正負の影響、つまり非財務インパクトを織り込んだ経営情報の開示や、企業価値評価の枠組みが必要となる。

すでに、非財務インパクトの可視化やそれに基づく意思決定に取り組んでいる企業もある。

食品飲料会社のネスレは、高炭素ストック保全林を保有するパーム油供給業者との取り引きが、脱炭素などにもたらす貢献を経済的価値として算出。パーム油の責任ある調達に関する合理的な意思決定に役立てている。

消費者はサステナビリティーに高い関心を寄せており、非財務インパクトは収益を含む企業価値全般に影響を与え得る。投資家との対話においても、非財務インパクトや情報開示のあり方が重視されるようになるだろう。これからの時代、企業に求められるのは非財務インパクトマネジメント経営の実践だ。

技術で大胆な変革起こせ

ティム・レントン 氏 英エクセター大学教授 気候変動・地球システム科学専門

物事には、そこを越えるとシステム全体に急展開が起こるようなティッピング・ポイント(転換点)がある。転換点を越えると元の状態に戻ることは難しい。

たとえば北極の氷河が溶ければ大西洋全体に多大な影響が出るだろう。気候変動関連課題には状況を急激に悪化させ得るネガティブな転換点が数多くある。

一方で、脱炭素に資するグリーンテクノロジーの普及を急激に進めるような、ポジティブな転換点もある。政策立案者や民間事業者がこの転換点に先んじて手を打つことで、普及は加速的に進むだろう。

電気自動車(EV)市場にも、ポジティブな転換点が迫っている。プレーヤーの拡大が低価格化と量産化を実現し、全世界販売台数は1年半ごとに2倍に増加。中でも、現在世界有数のEVの普及大国であるノルウェーでは、1990年ごろから登録料免除などの普及奨励策を実施してきた。

産業革命以前からの温度上昇を2度未満に食い止める「パリ協定」達成には、極めて迅速なグリーンテクノロジーへの移行や大胆な変革が必要だ。変革を技術力でけん引するプレーヤーの登場を世界が待ち望んでいる。

化石燃料からの脱却を共創する

光武 裕 氏 アストラゼネカ Japan Sustainability Director

革新的な医薬品を世界に提供するアストラゼネカは、人々の健康は社会、地球の健康と密接に関連しているとの考えのもと、気候変動への取り組みを進めている。当社は脱炭素目標「アンビション・ゼロ・カーボン」を表明し、2045年までにネットゼロを目指す。

野心的な目標の背景には、気候変動は人々の健康に深刻な影響を及ぼすという危機感がある。第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)で初めて「気候変動と健康」がテーマとなり、「気候変動関連死」はコロナ死亡者数を超える予測が発表され、21世紀最大の公衆衛生上の課題という認識が共有され始めている。世界の温室効果ガス排出量でヘルスケアセクターの排出量は約5%に及び、命を守る産業に携わる企業として化石燃料からの脱却のための具体的な行動を示す責任がある。

日本法人では、既に国内全拠点でクレジットによらず、100%再エネ電力へ切り替えを実現。国内最大級の規模で営業車の電気自動車(EV)化を推進する。今後はバリューチェーン全体での二酸化炭素(CO2)削減に向け、取引先企業との対話や協調を進めていく。

将来世代へも価値届ける

藤井 慶一郎 氏 ビュージックスジャパン 代表取締役

スマートグラスの開発を手掛ける当社は1997年、米国で操業した。日本でも2007年より事業を開始している。

スマートグラスは、遠隔地にいる人同士の視点の共有や、リアルタイムコミュニケーションを支えるツールだ。ビジネス領域では、人材育成のためのソリューションの一つとしても利用されている。たとえば若手技術者が、スマートグラスを通じて熟練者の指導や助言を受けながら作業をすることなどが可能だ。

技術の継承支援や場所にとらわれない働き方の推進以外にも、社会に提供したい価値がある。企業としてSDGs(持続可能な開発目標)やESGに貢献する上で、今後は子どもや若い世代への価値提供にも注力する。

たとえばコピー機の保守サービスなどを手掛けるリコージャパンは、職場体験などでスマートグラスを活用する。子どもが体験できることの幅が広がるほか、機械の保守点検作業など、社会に不可欠だが日ごろ目にすることの少ない仕事を、子どもたちが知るきっかけづくりにも貢献している。地球の未来を担う世代を支えるスマートグラスソリューションの可能性を、一層広げていきたい。

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