最近世間をにぎわせているものと言えば対話型の人工知能(AI)「Chat(チャット)GPT」だ。米オープンAIが開発した、チャットを自動で生成するAIである。すでに使っている人達からは、その応答の滑らかさ、中身の深さを驚嘆する声が上がっている。
チャットGPTを支えるのは自然言語処理という技術だが、その実力を知るのに格好の一冊が本書『AIが「答えの出ない問題」に答えてみた。』である。本書は、本文の大半を「GPT-3」という言語処理モデルを活用したAIが執筆している。
立て付けはこうだ。徳川家康、渋沢栄一、アインシュタイン、孔子、エリザベス1世といった歴史上の偉人の人格をAIで生成し、肩書を与え、世界平和からキャリアアップのコツまで大小さまざまな難問をぶつけて、答えを求める。例えば、聖徳太子に日本の内閣総理大臣の地位を与え、「どうしたら貧困率を下げられるのか」という問いに回答させる、といった具合だ。人格と立場を持ったAIが、どこまで説得力のある受け答えができるのか、検証しようというのが本書の狙いである。
著者のCatchyは2022年にリリースされたAIライティングサービス。監修の伊藤新之介氏はCatchyを運営する株式会社デジタルレシピの創業者で最高経営責任者(CEO)。成田修造氏は元株式会社クラウドワークス副社長、エンゼル投資家だ。
多様な視点で回答
多少の引っ掛かりはあるものの、文章自体はなかなか自然である。肝心の回答の中身も、視座が高く「もっともだ」と感じられるものが多い。
例えば、アインシュタインが環境大臣として気候変動対策について述べているが、再生可能エネルギーの必要性のみならず、過去の伝統的な農業のやり方を提起するなど、多角的な視点での解決策が示される。大きな探求心を持っていたとされるアインシュタインらしさが感じられるし、特定の分野に偏らない回答を導き出すAIの本領が発揮されている。
「AかBか」でどちらかを選ぶ
印象的なのは「AかBか」を問われたときにどちらかを答える潔さだ。「アリストテレスが父親だったら」の章では、「子供の得意なことを伸ばすか、苦手をなくすか?」との質問に対して、AIは「得意なことを伸ばす」を優先すべきだと答えている。理由は、弱点をなくすことだけに集中していると「総合的」になり、得意なことを伸ばして得られるやりがいや成長の機会を失うからだという。
マザーテレサが母親となった場合でも、高校を卒業して働くのと、大学に行くのとでは後者の方が良い、と言い切る。その是非やマザーテレサらしさはともかく、判断の誤りを恐れずに「AかBか」を決められるのは、AIの利点なのだろう。人間にとって二者択一の局面はストレスがかかりやすいが、AIに背中を押してもらうこともできそうだ。
ただ、本書の中にも事実かどうか不明瞭な記述があるので、AIの言葉をうのみにせず、最終的に自分で判断したほうが良いだろう。AIの欠点を受け入れつつ、相談相手になってもらう日がそこまで来ていることを、本書は実感させてくれる。
情報工場エディター。11万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。