気候変動への懸念から、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料の使用を減らす動きが加速している。代替、あるいは補うものとして再生可能エネルギーへの取り組みが、日本では半世紀も続く。現状、その中心となっているのが太陽光発電である。
しかし、周知のように、太陽光発電にはいくつかの課題がある。発電量が天候に左右され不安定、太陽光パネルの設置には場所をとる、導入コストがかさむ、といったデメリットだ。
これらの課題を一気に解決する次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」が世界的に注目されている。実はこの太陽電池に使われている根本の技術を開発したのは日本の研究者だ。
本書『大発見の舞台裏で!』では、開発者の1人である桐蔭横浜大学特任教授・宮坂力氏が、ペロブスカイト太陽電池の特徴や用途、仕組みなどを解説するとともに、その開発ストーリーを明かしている。
薄くて軽く、曲げられる
一般的に太陽光発電パネルに使われているのはシリコン太陽電池だ。使われるシリコンウエハーの厚さは、コピー用紙と同じくらいの約0.1ミリメートル。一方、ペロブスカイト太陽電池に使われるペロブスカイトという材料の厚さは1000分の1ミリメートルよりも薄い。
この薄くて軽い次世代太陽電池の大きなメリットの1つが、「しなやかに曲げられる」ことだ。設置場所を選ばず、建物の屋根や屋上に重いパネルを設置しなくても、外壁に貼り付けたり、光透過型にして窓のように使ったりできる。電気自動車の外装に使えば、充電が不要な超軽量のソーラーカーを開発できるかもしれない。
薄くて軽いというと侮られがちだが、その発電効率はシリコン太陽電池の最高値(26%)と肩を並べるところまできているそうだ。しかも、曇りや雨の日、室内照明などの弱い光でも発電可能だという。製造工程はインクを印刷するように「塗って乾かす」だけなので、コストも抑えられる。
メリットだらけの「夢の材料」といっても過言ではないペロブスカイトとは、もとは鉱物の名前である。太陽電池に使われるのは、似た成分を人工的に作った合成物だ。
シリコンとの組み合わせが最強
著者の宮坂氏によると、ペロブスカイト太陽電池は「人の交流」で生まれたのだという。詳しい経緯は本書を読んでいただきたいのだが、宮坂氏が「ハブ」となって大学院生や研究者をつなぎ、このノーベル賞級とも言われる発明が生まれた。
唯一の課題は「耐久性」だというが、宮坂氏は心配していない。シリコンの代替とは考えていないからだ。シリコンが使えない場所に貼って、両者を相補的に組み合わせて使えばいい。両者は太陽光の吸収領域がずれているため、組み合わせて使った多層型の太陽電池であれば、それぞれよりも効率よく太陽光を利用できる。
ペロブスカイト太陽電池の用途を考えることが、画期的なイノベーションにつながる可能性もある。日本人が生んだ次世代太陽電池の今後の普及に期待したい。
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。11万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。