日経SDGsフェス

危機的状況 打開へ サステナブルに挑む 23年12月SDGsフェス 日経SDGsフォーラムシンポジウム

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SDGs 採録 エシカル消費

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2030年を達成年限とするSDGs(持続可能な開発目標)は、その中間年を過ぎた。気候変動や感染症、紛争、景気低迷など、世界は複合的な課題に直面し、その達成は危機的状況にある。日本経済新聞社と日経BPは、23年12月4、5日の2日間にわたり、「日経SDGsフォーラムシンポジウム」を開催した。企業経営者を中心に、各分野の専門家を集め、SDGs達成に向けた取り組みや課題解決の方策などを紹介。危機的な状況を打開するため、取り組みを加速させる必要性を訴えた。

【講演】街とともに産業育む

植田 俊 氏 三井不動産 代表取締役社長

街づくりを通して社会課題の解決を図る──。この理念を具現化するのが、当社グループが標榜する「産業創造プラットフォーマー」としての事業だ。

東京・日本橋の街づくりは、その代表例。同地区には江戸時代から薬種問屋が集まり、現在も製薬会社をはじめとする様々なライフサイエンス領域の企業が集積する。しかし、同領域は細分化が進み、分野間の交流に乏しい。そこで当社グループは、アカデミアや産業界と連携。ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)を設立し、コミュニティーの構築を進めた。

具体的には、同領域に関わる人々の交流・連携、育成・支援を目的としたプログラムを実施。コミュニティーの構築を図る。同時に、これら企業に賃貸ラボやオフィスを提供。さらに投資も行う。「コミュニティー、場、資金」の3つの提供による、生命科学分野のエコシステムの構築に取り組んでいる。

一方、神宮外苑地区では、総面積28.4㌶に及ぶ大規模再開発事業を展開。①老朽化した大規模スポーツ施設の建て替え②緑の保全と創造③地区内の回遊性の向上④広域避難場所としての機能維持と向上──に取り組む。次の100年に向けて、憩いとにぎわいにあふれ、誰からも愛される魅力あるウェルビーイングな街づくりを目指したい。

【講演】金融力で多角的に貢献

佐藤 浩 氏 東京センチュリー 取締役執行役員副社長

リース業を祖業とする当社グループは、リデュース(省資源化)、リユース(再使用)、リサイクル(有効利用)による循環型経済の実現に長年、取り組んできた。現在は金融機能を持つ事業会社として、SDGs関連事業に積極的に取り組む。

SDGsにかかるマテリアリティー(重要課題)の第1が脱炭素社会への貢献だ。再生可能エネルギー事業はその代表であり、グループの太陽光発電による発電容量は現在、拠出持分出力で750㍋㍗を越える。第2が技術革新に対応した新事業創出。水素資源の開発や製造事業、供給網の構築などに特化した投資ファンドへの出資、蓄電池関連事業への出資が挙げられる。

第3が社会インフラ整備への貢献。22年2月に開業したホテルインディゴ軽井沢は建物を木材主体とし、使用した木材量に応じた植林を行っている。環境配慮型の物流センターやデータセンターの整備も手がける。

第4は持続可能な資源利用への対応だ。IT(情報技術)機器の処分やリサイクルを、適正な管理下で行うITAD(IT資産の処分)サービスはその一例である。第5は人材力強化につながる職場環境の整備。具体的には女性の活躍推進や、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材育成などを行う。

これらマテリアリティーをパートナー企業との協働によって、強力に推し進めていきたい。

【講演】森を育て、生かす

鎌田 和彦 氏 王子ホールディングス 取締役専務グループ経営委員

森林は再生可能な資源であり、これが化石燃料に取って代われば、持続可能な社会が実現できる。こうした認識から「森林を健全に育て、その森林資源を生かした製品を創造し、社会に届ける」との文言を、パーパスに盛り込んでいる。

森づくりは、木材生産だけでなく、二酸化炭素(CO2)の吸収や水源の涵養(かんよう)、生物多様性の保全につながる。また地域社会の発展に向けた活動を通じ、多くの点でSDGsの達成に貢献できる。当社が保有する森林は、国内外に東京都の約3倍にあたる約60万㌶。うち約25%が環境保全林である。生産林では、成長の早い優良系統の育種によって、植え付けから収穫、生産、出荷までのサイクルを短縮している。

育てた森林資源は製紙原料に加え、様々な用途に使われる。食糧との競合が生じない非可食の木質由来新素材として、バイオマスプラスチックやバイオ燃料の開発を推進。30年度の本格事業化を目指している。また、鉄に勝る強度を持ち、かつ軽量なセルロースナノファイバーを、建設材料やスポーツ用品の材料として、すでに供給している。

メディカル&ヘルスケア分野では、木材成分のへミセルロースを使用した医薬品開発に着手。抗炎症作用や血液凝固阻止作用が確認されている硫酸化ヘミセルロースの合成に成功している。

【講演】成長投資で課題解決

黒部 隆 氏 TOPPANホールディングス 取締役常務執行役員 CFO 財務本部長/グローバルGRC本部担当

TOPPANグループはDXとSX(サステナブルトランスフォーメーション)で社会課題解決を目指している。新中期経営計画では2023年度から25年度までを成果獲得フェーズと位置付け、事業ポートフォリオの変革、経営基盤の強化、ESG(環境・社会・企業統治)の取り組み深化を重点施策として進めている。

新中計達成に向け、メリハリの利いた投資を行うために、3カ年の営業キャッシュフロー4000億円以上をすべて成長投資に振り向ける予定だ。

成長投資は事業投資、研究開発投資、人財投資の3つを実施する。その戦略は新中計の考え方であるESGの取り組み深化と連動して推進。研究開発投資における5つの重点投資領域も社会課題や技術トレンドを踏まえて定義した。新中計では25年度には営業利益の内の成長事業の割合を52%にまで増加させる計画だ。

一方、サステナブル経営に向けた全社活動では、環境ビジョン拡充のほか、人的資本・多様性の取り組みも目標を設定。TOPPANグループの強みは人財であり、人が持つ感性とイノベーションが事業成長の源泉と位置づけ、積極的に投資している。

TOPPANグループは積極的な成長投資とベンチャー精神でイノベーションを創出し、持続的な企業価値向上に努め、SDGs達成に貢献していく。

【講演】〝将来の夢〟実現に総力

石﨑 順子 氏 大和ハウス工業 常務執行役員 人事・人財組織開発・Well-being統括担当

大和ハウスは、2055年のグループ創業100周年に向けて、22年に「生きる歓びを、未来の景色に。」というパーパス(存在意義)を掲げた。従業員だけでなく、社外ステークホルダーなど、約4万人にアンケートをとり、22回に及ぶ対話を経て策定し、創業者精神を継承するため、パーパスを〝将来の夢〟と表現している。

その実現のために、組織、人財の基盤をつくりながら、社会価値・事業価値の最大化を図っていく。その中心には夢を語り、実現に向けて行動する個人と組織、ウェルビーイングがある。

3つのパーパス浸透活動を紹介する。1つ目が、過去に開発した郊外型住宅団地(ネオポリス)の再耕事業「リブネスタウンプロジェクト」。地域住民と協働し、まちに活力を取り戻し持続発展する取り組みを、8カ所のネオポリスから全国へと拡げていく。

2つ目が、従業員が対話しながら、地域の未来の景色に思いを馳せる「ミライマチ宣言」。群馬支店では絵のワークショップや交流会を実施している。

最後が奈良市に開所したみらい価値共創センター「コトクリエ」。共育、共創、社員教育を中心に、世代や立場を超え、地域の人々と共に学ぶ場をつくっている。

大和ハウスは人々と世代を超えて対話を重ねてつながり、新しい価値を創り出していくことで、〝将来の夢〟を実現していく。

【講演】「省・小・精」で価値創造

小川 恭範 氏 セイコーエプソン 代表取締役社長 CEO

エプソンは2022年、「『省・小・精』から生み出す価値で、人と地球を豊かに彩る」というパーパスを策定した。パーパスの実現に向け、社会課題の解決とイノベーションによる経済価値の創出とをつなげる価値創造ストーリーを掲げている。

取り組むべき社会課題は「環境負荷の低減」「労働環境の改善」「分散型社会をつなげる」「インフラ・教育・サービスにおける質の向上」「ライフスタイルの多様化」の5つだ。「省・小・精」の技術から生み出す価値でイノベーションを起こし、事業成長を果たす。事業成長することで、より多くの社会課題の解決を図る。社会のサステナビリティーとエプソンのサステナビリティーを同期化させ、サステナビリティー経営を推進していく。

価値創造戦略の一例としては、インクジェット方式のプリンターや乾式オフィス製紙機「PaperLab」による環境負荷低減の取り組みがあり、このような「お客さまのもとでの環境負荷低減」に経営資源の多くを投入する。また、環境への取り組みとして、使用電力の100%を再生エネルギー化するなどの「脱炭素」、製品の小型軽量・長寿命化などの「資源循環」、使用済みの紙や布、金属などを独自技術で再原料化する「環境技術」を推進。産官学連携による共創も積極的に行っている。こうした取り組みを通して、サステナビリティー経営を実践していく。

【トークセッション】消費行動の変容促す

髙橋 ゆき 氏 ベアーズ 取締役副社長 CVO&CLO
篠田 沙織 氏 コークッキング 取締役COO
モデレーター 牛窪 万里子 氏 メリディアンプロモーション 代表取締役

牛窪 本セッションでは、ライフスタイルを通じたSDGsの達成について考えていく。最初に自己紹介をお願いしたい。

髙橋 暮らしの困りごとをお手伝いする家事代行サービスを提供している。香港で受けたメイドサービスの原体験から、家庭からウェルビーイングを高めていくことが日本でも必要だと考え、25年前に「ベアーズ」を起業した。

篠田 カフェでアルバイトしていた時の経験から、廃棄を前提とした発注管理に疑問を抱き、飲食業が構造的に抱える食品ロス問題を解決したいと、事業を立ち上げた。国内最大級の食品ロス削減サービス「TABETE」を提供している。

牛窪 近年の消費者変化をどう受け止めているか。

髙橋 2011年の東日本大震災をきっかけに、掃除や洗濯、買い物などの家事を依頼することは、富裕層の特権のような考え方から、自分の時間を有効に使うための手段と受け取るような変化が起きた。新型コロナウイルス禍を経て、働き方や暮らし方に対する考えが変化したこともあり、政府の骨太方針2023では家事代行・シッター利用普及が盛り込まれた。

篠田 「自分にもお店にも地球にもみんなが心地よい食の選択を」をコンセプトに事業を推進してきたが、消費者は食品ロス対応なのだから安くて当たり前という意識が強かった。それがコロナ禍で応援消費という言葉が生まれ、自分の消費がお店を助ける手段になるとポジティブな意識へと変わった。つくり手のサステナブルを応援するという立場から、ユーザーを「レスキュー隊員」と呼んでいる。

牛窪 事業を展開する上で意識していることは。

髙橋 人を幸せにする商品やサービスを提供しているという意識が大切。そこに幸せを感じる担い手と消費者が結び付いたときに、ウェルビーイングを感じられる循環型社会が構築できる。

篠田 食品ロス対応だけでなく、事業者の利益も踏まえた仕組みでなければいけない。消費者側にも事業者側にも経済的なメリットが感じられなければ、取り組みは広がっていかない。

牛窪 今後の展開は。

髙橋 必要とする一人でも多くの人に安心安全・快適便利に使ってもらえるように、家事代行を文化にしたい。

篠田 食のサプライチェーンの中で、買い手側がいかにつくり手側を尊重した消費行動をとれるか、行動変容を積極的に促していく。

牛窪 二人の話を聞いて、消費者が幸福感を得られるサービスの提供が、社会貢献の意識を高め、SDGsにつながっていくことが理解できたと同時に、たくさんのヒントを頂けた。

【トークセッション】逆境を力に変えて輝け

菅沼 名津季 氏 bacterico 代表取締役
松本 めぐみ 氏 Star Compass 代表取締役/松本興産 取締役
モデレーター 蟹江 憲史 氏 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授

蟹江 2030年の達成を目標に、15年に始動したSDGs。23年はその折り返し点となったが、コロナ禍や気候危機、戦争などの影響もあり、進捗状況はかんばしくない。その半面、SDGs達成の萌芽(ほうが)といえる活動も多く見られる。そうした取り組みを聞きたい。

松本 2つの会社で事業に取り組み、SDGsを推進している。松本興産は、産業廃棄物を出さないことがモットー。鉄くずのリサイクルはもちろん、工業油のろ過にも力を入れる。また、社内設置の冷蔵庫には総菜を常備。社員が安く購入し、持ち帰って夕飯のおかずにできる。子どもを持つ女性の就労を支援する仕組みだ。

一方スターコンパスでは、「風船会計メソッド」の普及に取り組む。同メソッドでは、損益計算書を風船や気球で表現。会計の本質をわかりやすくした。仕事で結果を出すには、決算書の分析能力がものをいう。女性がこれを学ぶことは、ジェンダー平等の実現につながるはずだ。

菅沼 腸内細菌の研究と、その社会実装に取り組んでいる。ヒトの腸内には約1000種、40兆個もの細菌が生息する。細菌が密集する腸内フローラでの細菌のバランスが人の健康を左右する。とりわけ妊娠中の女性にとって腸内細菌は大切だ。生まれる子どもは母親の腸内細菌を受け継ぎ、その後の健康に影響するからだ。ママフローラでは、妊活中や妊娠中の女性の腸内細菌を検査し、それをもとに一人ひとりに合わせた栄養指導を行う。事業を起こすきっかけは、出産・子育てで、思うように社会で活躍できていない管理栄養士の友人の存在だ。そうした人々のキャリアを生かしたいという思いが起業を後押しした。

蟹江 取り組みを進める中、SDGsという枠組みが役立ったことはあったか。

松本 事業の意義を説明するとき、話が早い。SGDsの4番と5番を狙っていますといえば「質の高い教育」「ジェンダー平等」に貢献する取り組みだと、相手に理解してもらえる。

菅沼 海外でも同様だ。書類にSDGsのマークを付けておけば、説明はいらない。17のゴールは共通言語として機能している。

蟹江 展望を聞かせてほしい。

松本 東日本大震災の時、被災した住民がスーパーに整然と並ぶ姿は世界の人々から称賛された。現在、生成AI(人工知能)を倫理的にどう扱うかが世界で議論されている。そこで注目されているのが日本の倫理観だ。こうした点で日本は貢献できると思う。

菅沼 出産・育児でキャリアを生かせていない女性の声を聞き、その活用を考えて事業が生まれた。事業の種は逆境の中にあるし、SDGsの達成につがるものだ。

蟹江 物事の普及は、はじめは緩やかに進むが、ある点を超えると一気に加速する。現在、達成が危ぶまれているSDGsだが、その萌芽はそこここにある。逆境を力に変えて輝いてほしい。

【講演】ネイチャーポジティブ実現

最勝寺 奈苗 氏 KDDI 執行役員常務 CFO コーポレート統括本部長

KDDIは2030年を見据え、「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる。」とする「KDDI VISION 2030」を掲げ、事業変革に取り組んでいる。その中で、中期経営戦略の軸にサステナビリティー経営を据え、事業戦略の推進と経営基盤の強化を図っている。

「つなぐチカラ」の例が、ネイチャーポジティブ(自然・生物多様性を守り増やす活動)に関する取り組みだ。通信事業において、生物多様性に関わる課題解決に取り組むことが、企業成長につながる。23年6月には業界初となる「TNFDレポート」を開示。12月にはTNFDバージョン1.0公開に伴い、内容を更新した。同レポートはTNFD開示の枠組みに基づき、ガバナンス、戦略、リスクと影響の管理、指標と目標を、外部の専門家と共に分析している。

以前からリスク低減に取り組んできた。屋久島の基地局や海底ケーブルなどの通信設備を自然環境に配慮して設置し、生態系の保護を進めている。生物多様性を取り巻く課題解決への貢献では、藻場の保全に向けた海洋DX、スマート農業・漁業、生物多様性の可視化にも取り組んでいる。

「つなぐチカラ」とパートナーの強みを掛け合わせることで、生物多様性にまつわる課題を解決し、社会全体のネイチャーポジティブの実現に貢献していく。

【講演】価値連鎖の道筋検証

勝木 敦志 氏 アサヒグループホールディングス 代表取締役社長 兼 CEO

コーポレートステートメント「Cheer the Future」の実現には、サステナビリティーと経営とを統合し、事業および社会インパクトの創出が欠かせない。その推進に、サステナビリティー活動が生み出すインパクトの定量的な可視化が不可欠となる。可視化なしに取り組みは評価できず、コントロールもできないからだ。

インパクトを可視化するため、まず「価値関連図」の作成と検証を行った。マテリアリティーとして定める環境、コミュニティー、責任ある飲酒と、人的資本の高度化の4テーマに属する具体的施策が、どう価値連鎖の道筋をたどり、企業価値向上へと結びつくか。仮説を立ててチャート化し、数学的手法を用いて検証した。

事業インパクトの可視化の例として、ラベルレス商品がある。ラベル使用量の削減がCO2排出削減につながり、コミュニケーションを通じて顧客満足度、ブランド価値、売上・利益に結びついていく。各々のつながりにおいて、ロジックを作成し、事業インパクトを試算した。

一方、社会インパクトの可視化では、インパクトを金銭的な価値に置き換える「インパクト加重会計」を採用。環境、製品、従業員の3つの側面からの算出を試みている。

インパクト可視化の取り組みは緒に就いたばかり。今後も先駆者として推進していきたい。

【講演】都心部の住宅需要に対応

若旅 孝太郎 氏 オープンハウスグループ 専務取締役CFO

オープンハウスグループの主力事業である戸建て事業では、土地の仕入れから設計、建設、販売、管理まで一気通貫で行える体制を構築し、住宅を安く提供できる強みがある。コンパクトな土地を最大限に活用するノウハウ、設計が難しい形状の土地に建築できる技術を持つ。製販管一体とコンパクト空間活用の掛け合わせで、グループミッション「都心部で手の届く価格の住宅を提供」が可能となる。

現在首都圏の人口推移は右肩上がり。近年共働き世帯が増加し、多くの世帯が通勤時間を短縮できる都心部を指向する傾向が高まっている。これらのニーズに応える住宅供給を通じて、ESGに関わる様々な社会課題解決に取り組んでいる。例えば、環境負荷の少ない木造住宅の提供や、耐震基準や防火性の高い建物への建て替えによるまちの災害対策への貢献――などだ。

また企業の持続的発展には社会の持続的発展が不可欠であり、地域共創・脱炭素・ダイバーシティー(多様性)などにも取り組んでいる。地域共創では群馬県みなかみ町や同太田市での「地域共創プロジェクト」などを通じて地域活性化を推進。脱炭素プロジェクトでは再エネ電力の供給、太陽光ファンド運用、森林保全といった活動を展開している。

事業を通じたESG経営の推進で、グループミッションと社会的責任の両立を図っていく。

【講演】選ばれるブランドを創る

柴田 陽子 氏 ブランドプロデューサー/柴田陽子事務所 代表取締役/BORDERS at BALCONY 代表取締役

ブランドとはファンがつく、〝らしさ〟を持った「かたまり」のことだ。それが好き、好きだから選ぶ、憧れる、買う、応援する――などの強い感情を持つファンがついていて、それによって商売やビジネスが成り立つ状態にある「かたまり」である。

高品質なモノであふれている現在、人は好きか嫌いか、共感できるかどうか――など感覚的な判断基準やストーリーの有無でモノやサービスを選ぶ。

企業がSDGsや社会貢献に取り組むことは当たり前だ。大切なのはどのような取り組みをしているか、どうしてそれに取り組むのかという理由である。

私たちはある「かたまり」の価値を高めて、ブランドとして成立させるため、魅力的な個性=コンセプトを設定する。その実現に向け、顧客が感想を持つすべての接点=ブラインドタッチポイントをコントロールし、戦略的かつ計画的に取り組んで行く。その活動は、事実を捉えるマーケティングリサーチ、唯一無二のコンセプトを創り出すコンセプト開発、タッチポイントを形にしていくブランディング実行の3つのステップで行われる。

人々は理由に共感するので、SDGsでも、なぜそのテーマに取り組むのかという理由が大切だ。そこに企業の個性とその会社の本質を表現することで、選ばれるブランドを創ることができる。

【講演】資源、環境、社会を下支え

亀山 康子 氏 東京大学大学院 新領域創成科学研究科附属サステイナブル社会デザインセンター センター長/教授

持続可能と訳されるサステナブルだが、英語圏の人がサステナブルという言葉から受ける印象は、持続とはニュアンスが異なる。サスは「下から」を、テインは「支える」を意味する。つまり「落ちないよう、懸命に下支えする」イメージだ。この切迫感の違いが、彼我の取り組みの差に表れている気がする。

サステナブルな未来に必要なのは「資源の安定供給」「水や大気などの健やかな環境」「格差や貧困のない安定的社会」の3つである。人間の健康で幸せな人生、健全な経済活動はこの3基盤に支えられている。しかし今、これらは揺らぐ。資源は枯渇し、環境は劣化し、社会には不安が広がっている。

サステナブル経営とは、この3基盤の下支えを意識した経営である。事業の遂行に当たっては、それが3基盤に与える影響と、3基盤から自分たちが受けている恩恵をしっかりと可視化し、常に意識する必要がある。

急速な気候変動に対しては、学び直しも大切だ。東京大学大学院新領域創成科学研究科では、これに対応すべく、社会人対象の4つのスクールを開校した。「サステイナブル・ファイナンス・スクール」もその1つ。気候変動や生態系保全、人権問題などの最新の知見を学び、ファイナンスについての経済的理論を学ぶ場だ。こうした取り組みで、サステナブルに対する社会全体の底上げに寄与したい。

 

事業通じた解決推進

【講演】人的資本経営を推進

小池 広靖 氏 野村アセットマネジメント CEO 兼 代表取締役社長

非財務資本である人的資本を企業がどう活用して持続的成長を目指すのか、投資家は注目している。人的資本は2023年3月期、有価証券報告書で開示の義務化が始まり、企業価値算定の上でも重要な情報となった。

人的資本経営における当社の資産運用会社としての取り組みを紹介する。まず運用戦略では 「野村日本働きやすい企業戦略」というファンドをお客様に提供。従業員を重要な経営資源と位置付け、人的資本経営に精力的に取り組む企業に投資を行う。2つ目はエンゲージメント(建設的な対話)活動。投資先企業と対話を行い、持続的成長と中長期的な企業価値向上につなげている。3つ目はファイナンシャル・ウェルビーイングの推進。従業員の資産形成や投資サポートによる老後の経済的不安の払拭が、政府主導の資産所得倍増プランとつながり、注目されている。長期投資を通じた資産形成が期待される今、良質な商品の提供に注力していく。

金融経済教育の提供にも力を入れている。「取り組みたいけど具体的な方法がわからない」という企業に、企業型DC(確定拠出年金)や教育コンテンツを提供。知識を身につけて長期にわたりお金を育てることが当社の金融経済教育の根本にある。

資産運用ビジネスを通じて人的資本経営を推し進め、資産運用立国、そして投資を通じた豊かな社会を実現していきたい。

【講演】グリーン戦略を加速

古谷 孝之 氏 丸紅 代表取締役専務執行役員 CFO/サステナビリティ推進委員会 委員長(CSDO)

現在推進中の中期経営戦略GC2024において、丸紅グループはグリーン戦略を基本方針の一つに掲げている。グループが目指すグリーンとは、ネイチャーポジティブだ。あらゆる事業活動においてCO2排出量を極力減らし、直接的にCO2削減に貢献するグリーンビジネスを主導していく。これらをパートナーと共に取り組み、グリーンのトップランナーを目指す。

グリーン事業の強化と全事業のグリーン化に向けた取り組みは、現場レベルで着実に伸長している。営業本部別のグリーン戦略を作成し、取り組むべき対象と方向性を明確化。社内推進体制の強化として、新エネルギー開発推進部の新設や、サステナビリティー関連情報のデータプラットフォーム開発など、グリーン戦略の推進を加速させている。

さらに全事業でグリーン化に取り組むため、国際社会の目標である「自然と共生する社会」実現に向けたアクションが不可欠な全ての領域を、脱炭素化・循環経済への移行・自然との共生の3テーマに分類した。ビジネスそのものの差別化、高付加価値化を追求している。

グリーン戦略の推進において、人権の尊重は最も優先されるべき前提事項だ。丸紅グループ人権基本方針を定め、グループ企業および取引先に人権尊重の考え方の共有を図るなど、協力基盤の醸成に努めている。

【講演】削減と循環の両輪で

榊田 雅和 氏 千代田化工建設 代表取締役会長兼社長

千代田化工建設は70年以上にわたりエンジニアリングの力で時代の変化を捉え、社会とともに歩んできた。「エネルギーと環境の調和」を経営理念に、グローバルな課題の解決に取り組み、2023年7月に「社会の〝かなえたい〟を共創(エンジニアリング)する。」をパーパスとして策定した。

気候変動対応は経営理念と密接につながる重要な経営課題であり、エネルギー転換期にある今、重要な社会課題と位置付けている。22年4月にカーボンニュートラル宣言を行い、CO2排出量を30年度に20年度比50%削減、50年度にはネットゼロを目標に掲げた。スコープ3では高度な技術と社会実装力を生かし、削減と循環の両輪で脱炭素社会構築に貢献していく。

21年に発表した中期経営計画では、30年のありたい姿として事業ポートフォリオ革新を掲げた。「低炭素・カーボンリサイクルの取り組み」「水素事業」「エネルギーマネジメント事業」「ライフサイエンス事業」という4つ事業分野にDXをかけ合わせて、エンジニアリングの新しい価値を創出し、パーパス実現を目指す。

事業を通じた社会課題解決に加え、人権尊重および人財育成強化に向けた人的資本経営を推進し、ステークホルダーと共に人と地球の持続的で豊かな未来をつくることを、エンジニアリングの力で挑戦し続ける。

【講演】ESGと事業成長の同軸化

大山 晃 氏 リコー 代表取締役社長執行役員 CEO

リコーは創業から「三愛精神」を掲げ、事業を通じた社会課題の解決に取り組んできた。三愛精神はSDGsの「誰ひとり取り残さない社会の実現」に通じるものがある。この精神の下、1998年には環境保全と利益創出を同時実現する環境経営を提唱。以来、ESGと事業成長の同軸化に取り組んできた。具体的には7つのマテリアリティーを達成するための16の全社将来財務目標(ESG目標)を設定。これを各部門にブレークダウンし、社員一人ひとりの仕事にひも付けている。ESG目標は役員報酬にも連動する。利益額や資本収益性に加え、ESG目標の達成度合いを役員報酬に組み込んでいる。

新型コロナウイルス以降、労働環境は大きく変わった。生成AIの登場は人の役割も変えつつある。リコーは「はたらく」に寄り添い、はたらく人の生み出す力を支えるデジタルサービスの会社へ変革している。例えば、リコーのスクラムパッケージは少子高齢化による労働力不足、中小企業のデジタル化をサポートする。デジタルの力で中小企業のDXを支え、行動変容に伴う温暖化ガス排出量の削減に貢献している。

SDGsに関する社員意識調査では、92%が業務を通して社会課題解決に取り組めており、90%が働き甲斐につながっていると回答した。自分事として取り組めていることが重要だ。

【講演】正負の影響を総合評価

村上 芽 氏 日本総合研究所 創発戦略センター エクスパート

SDGsの社会への浸透によって、企業のSDGsへの取り組みが常識化している。そこで評価されるのは、定量的で透明性のある具体的成果だ。それがない場合、形だけのSDGsと見なされ、かえって評判やブランド価値を損ないかねない。この点を踏まえ、SDGs推進のうえで企業が今後、考慮しなければならない点を3つ挙げたい。

第1は、負の影響評価が十分なされているかどうかだ。SDGsは科学技術を善と捉えており、技術革新が課題を解決するという思想が組み込まれている。とりわけITについては、情報へのアクセスや、効率化といった点で期待が大きい。しかし、生成AIなどの登場によって、ITの負の側面が顕在化している。その点の考慮が必要である。

第2は、バランスシート全体でネットポジティブを目指せているかだ。事業と、そのための資金調達の双方をSDGsの視点から総合的に捉え、企業活動全体を評価していくべきだ。

第3は、次世代の声に耳を傾けているかである。子どもも企業のステークホルダーである。親の労働環境はもちろん、企業の製品やサービスも子どもの生育には大きく影響する。そして子どもは将来の大人である。23年に生まれた子どもは、22世紀を迎える年にまだ78歳だ。こうした時間軸の感覚を持って、SDGsに取り組むべきである。

【トークセッション】エシカル消費で変わる未来

エバンズ 亜莉沙 氏 エシカルコーディネーター
末吉 里花 氏 エシカル協会 代表理事/日本ユネスコ国内委員会 広報大使
聞き手 羽生 祥子 日経xwoman 客員研究員

羽生 エシカル消費はSDGsの12番目「つくる責任、つかう責任」に関わる重要テーマだ。

末吉 エシカルは英語で「倫理的な」という意味だが、私たちが推進活動を行うエシカルにおける意味は「社会や地域に配慮した考え方や行動」を指す。消費者庁はエシカル消費をただのブームではなく日本の文化として推進している。日本が大切にしてきた「お互い様」「思いやり」などの価値観と非常に親和性が高いものだ。

エバンズ 私はエシカルコーディネーターとして、地球に優しいライフスタイルを自分自身が実践しながら周りにも伝える活動をしている。米ポートランドと千葉・柏の葉のまちづくりプロジェクトや、事業者から出た端材を使ってウェディングドレスを作る蒲郡市の新規実証事業プロジェクトなどに関わってきた。

羽生 エシカル消費について、企業はどのように取り組む必要があるか。

末吉 今後企業にますます情報開示が求められる。2023年8月に不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)が動き出した。人権や社会関連の枠組みができると、自社だけでなくバリューチェーン上の労働者のことも考えなければいけない。グローバル企業のみならず国内企業もこうした国際的なルールへの注視が必要だ。

エバンズ 欧州ではサーキュラーなデザインを取り入れたブランドが増え、消費者の意識も高まっている。しかし海外に比べて日本はサステナブルな商品を購入する割合が低い。どういうものが環境にいいのか分からないという意見も多く、企業側がどうコミュニケーションをとるかが課題だ。

日本では若い世代ほど社会問題に関心を持ち、情報を積極的に入手している。コミュニケーションを多くとるブランドを「信頼できる」と感じ、商品を購入したいと考える人が増えているようだ。

羽生 企業も正しい情報を学ぶ機会が必要になっていると感じるが、好事例はあるか。

エバンズ 私はソーシャルグッドプロダクト・アワードの審査員を務めているが、様々な専門家や消費者が審査員としてアワードを決めている。受賞に至らなくても翌年すばらしい商品にアップデートされることもある。様々な視点で意見交換をすることが良い商品を生み出す。

末吉 エシカル消費が進んでいるスウェーデンでは、客が賢い選択を簡単に行えるよう壁面に認証ラベルの情報を掲載するスーパーや、生涯無料で修繕してくれるデニムブランドの店がある。生活の質を高める、わくわくする未来につながるメッセージを伝える企業もある。日本企業の伸びしろに大いに期待したい。

【トークセッション】パーパスやミッションこそが夢

ボーク 重子 氏 Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表/ICF会員ライフコーチ
市川 太一 氏 World Road 代表
聞き手 藤川 明日香 氏 月と文社 代表取締役

藤川 ESDとは持続可能な社会のつくり手を育む教育。二人の活動内容を教えてほしい。

市川 地球を一つの学校にするというコンセプトの下、世界とつながりあったSDGs関連の人材教育を展開している。

ボーク BYBSコーチングは非認知能力を伸ばすメソッド。自己肯定感や失敗を恐れない力、やり抜く力など数値化できない能力を育むことで子どもの生きる力を育てている。

藤川 ESDの重要なポイントは。

市川 SDGsとは未来に嫌なものを残さないこと。世界問題を自分事として考えられる子どもの育成がポイント。目標となるロールモデルの提供が大切だ。

ボーク 自分にできることから始める。そのためには自分が属するコミュニティーに興味を持つこと。まず家庭で自分にできることは何かを話し合おう。我が家では一緒に夕飯を食べながら話し合っている。子どもには理解力がある。ただ問題を知らないだけ。まず家族からだ。

藤川 ESDにグローバルや多様性の視点が必要なのはなぜか。

市川 グローバルな視点を持てば自分事として問題を捉えられる。インド洋に浮かぶセーシェルの海岸に中東の文字が入ったペットボトルが大量に流れ着いているのを見れば、環境問題が世界とつながる課題であることが一目で分かる。危機意識がイノベーションの第一歩になる。

ボーク 非認知能力教育は、学力オンリーに、生きる力を育むことを持ち込んだ。これは多様性の提供でもある。評価軸を広げることで多様性を受け入れる社会にできる。

藤川 企業や学校でESDをどうスケールアップしていけばいいのか。

市川 夢と目標は違う。なりたい職業は目標であり、どういう世界にしたいかが夢。企業目線で言い換えればSDGsは目標で、パーパスやミッションが夢だ。なぜそれをやるのかを学びほぐし、ビジョンの共有が大事だ。

ボーク 海外で「なりたい職業は」という質問をしない。「将来何をしたいか」と聞けば、「小麦アレルギーでも食べられるパン屋を開きたい」と答えたりする。これが教育だ。企業は何のためにビジネスをしているか。人々を幸せにするためだろう。パーパスをみつめながら何をすべきか考えることが必要だ。

市川 学び続けることで新しい自分に出会える。人への貢献を生きがいと感じる機会を創出していきたい。

ボーク つながることでパーパスやミッションを共有する。それには家庭、企業、教育、自治体がつながることが重要だ。

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※本シンポジウムのアーカイブ視聴はこちらから

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SDGs 採録 エシカル消費

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