ひらめきブックレビュー

海外留学で「勇者」育成 人気の校長が挑む新しい教育 『東大よりも世界に近い学校』

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時代の変化がどんどん速くなり、20〜30年後の社会がどうなっているのか想像もつかない。将来に向けて子どもにどんな学びを与えればよいか、悩んでいる人も多いだろう。

これからの時代の教育に対し、明快な指針を示しているのが本書『東大よりも世界に近い学校』だ。「いまの学校はオワコン(終わったコンテンツ)」と喝破し、日本で一番学校説明会に人が集まる校長と言われる著者・日野田直彦氏が、実践した学校の改革を自ら紹介する。同氏は民間人校長の公募により最年少(当時)の36歳で大阪府立箕面高校(地域4番手のごく普通の公立高校)の校長に就任し、3年間をかけて補習補講、夏期講座、受験対策を全廃しながら、多数の教え子を海外の大学に送り出した。現在は武蔵野大学中学・高校の校長をはじめいくつかの校長を兼務しながら、日本中の学校を再生しようと活動している。

ボストンで起業家にプレゼン

著者が見据えているのは、今の子どもたちが親世代となる2050年だ。現在は世界第3位の日本のGDP(国内総生産)は、その頃にはメキシコやナイジェリアと同程度の中堅国になっている。世界と関わらなければ生きていけない経済規模だ。

国籍、言語、文化、習慣などが異なるメンバーと同僚になったり取引したり、互いにリスペクトしながら対等に渡り合っていくことが当たり前となってくる。そこで仕事にあぶれず活躍できる人材が、指示待ちの従順な「犬」タイプではなく、「自ら問題を解決できる人」となることは明らかだろう。自分の頭で考えて動き、責任をもって結果を引き受けながら身の回りの問題を解決していく「オーナーシップ」のある人材こそ、著者の教育が目指すものだ。

だからこそ「普通の」生徒たちを続々と海外へ留学させる。例えば、箕面高校で実施した起業家精神養成プログラムはすごい企画だ。米ボストンで2週間にわたって、商品やサービスのアイデアを現地の起業家にプレゼンし、フィードバックをもらいながらビジネスプランに練り上げる。もちろんすべて英語だ。厳しい指摘や議論に泣きごとをいっていた生徒たちが、帰国する頃には全員が目を輝かせていたという。

オーナーシップを持った「勇者」たちを輩出

「英語を」学ぶのではなく「英語で」学ぶ中で、オープンで成長志向のグローバル人材が育っていく。結果的に偏差値が大幅に上がったのも当然だろう。

オーナーシップの育成は日本でも徹底している。武蔵野高校では、校則がおかしいと生徒たちが校長室に直談判に来ることがあるという。著者は内心うれしいそうだが、あえて「『変えてください』というのではなく、『どこがどういう理由でおかしいから、どう変えよう』という企画書を持ってきなさい」と指導する。

主体的に社会をより良くしていく精神を持った人を著者は「勇者」と呼び、誰でも勇者になれると子どもたちの背中を押し続ける。過去や現在の学校の仕組みに疑問を感じたら、本書を手に取ってほしい。教育の未来に希望が感じられるはずだ。

今回の評者 = 戎橋 昌之
情報工場エディター。元官僚で、現在は官公庁向けコンサルタントとして働く傍ら、11万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。大阪府出身。

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