昨今、職場環境が大きく変化していることに異論を持つ人はいないだろう。若い頃、連日の残業や休日出勤、一見無駄に思える作業をこなしながら成長してきたと自認する人は、現代の職場環境において、若手をどう育成したらよいのか戸惑っているかもしれない。
本書『ゆるい職場』は、さまざまなデータをもとに職場環境の構造変化を解説し、現代の若手を分析。若手育成に悩む管理者層にヒントを提示する。著者の古屋星斗氏は、リクルートワークス研究所主任研究員。学生・若手社会人の就業や価値観の変化を研究している。
ゆるい職場とキャリアへの不安
意外に感じるのは、「労働環境が急激に改善しているにもかかわらず、離職率は上昇している」ことだ。大手企業の大卒・大学院卒、入社1〜3年目の新卒正規社員を対象とした調査によれば、新入社員期の労働時間は減少し、「仕事負荷感」は減り、休みの取りやすさは増している。当然、彼らの職場に対する好感度は高まっている。タイトルの「ゆるい職場」とは、こうした職場認識を指す。
ところが同じ調査によると、若手のストレス実感は高止まりしており、キャリアへの不安を感じている人は多い。そして、「このまま所属する会社の仕事をしていても成長できない」「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないか」などと焦燥感が増している。厚生労働省によると、大手企業の新規大卒就職者の3年以内離職率は上昇傾向にあるが、その背景にキャリアへの不安があるようだ。
長時間労働を強いるようなきつい職場では、不満を持って辞めていく。かといって、ゆるい職場では不安を募らせて辞めていく。では、若手を辞めさせずに、どう育てていくべきか。
著者は一案として「職場の外を使う」ことをあげる。若手が職場外での活動をオープンにできるようにすれば、彼らがそこで得た知見やノウハウが職場に還元され、業務がブラッシュアップされる。具体例も紹介している。副業で中小企業の新規ブランド立ち上げに参加した総合電機メーカーの若手社員は、マーケティングの上流から下流まで全体の工程を経験し、大きな成果をあげた。その経験をアピールして、社内の新規ブランド立ち上げメンバーに抜てきされた。
行動を起こせるように背中を押す
ゆるい職場の広がりは、今後も止まらないに違いない。管理者層には今後、若手が抱くキャリアに対する不安を解消することが求められる。若手がやりたいことに耳を傾け、彼らが行動を起こせるように背中を押すことで、成長実感を与えられるかもしれない。
若手社員は多様化が進み、一律な方法で育成することが難しいという問題もある。最近、1on1ミーティングやコーチング、傾聴などの手法が注目されているのは、このためであろう。ゆるい職場時代の若手育成にまつわる難問に、明確な答えはない。それでも本書は、若手を理解し、生かすための貴重な手がかりを与えてくれる。
情報工場エディター。機械部品の専門商社を経て、仲間と起業。東京農業活性化ベンチャーを掲げ、小売店・飲食店の経営、青果卸売りなどに取り組む。徳島県出身。