ひらめきブックレビュー

斬新なアイデア実現やイノベーション阻む4つの「抵抗」 『「変化を嫌う人」を動かす』

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変化の時代といわれる昨今、私たちは、あらゆる環境変化への対応を迫られるとともに、より良い未来をめざし「新たな変化」を自ら作り出す気概と柔軟性を求められている。ところが、急激で革新的な変化であるほど、多少なりとも「抵抗」にあうことは避けられない。

例えば、これまでにない斬新な機能を盛り込んだ新製品を市場に出しても、すんなり消費者に受け入れられるとは限らない。あるいは新製品の市場投入以前に、開発者の社内プレゼンテーションが通らずアイデアがお蔵入りになるかもしれない。

本書『「変化を嫌う人」を動かす』(船木謙一監訳、川﨑千歳訳)は、魅力や利点があるはずの新しいアイデアや提案、新商品・サービスなどの開発や導入、普及を阻む「抵抗」の正体と対処法を、豊富な事例とともに解説する。著者のロレン・ノードグレン氏とデイヴィッド・ションタル氏は、ともにノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授である。

他者に動かされるのを嫌う「心理的抵抗」

著者は、私たちが打ち出すアイデアや取り組みにストップをかける「抵抗」には、4つの種類があると指摘する。「惰性」「労力」「感情」「心理的反発」だ。惰性は不確実なものや変化よりも、なじみのあるものや安定を好む傾向のこと。労力は文字通り、変化を起こすのに必要な労力を惜しむ気持ちである。

感情というのは、変化に対する思いがけない否定的な感情のこと。例えば、ケーキやクッキーの材料があらかじめミックスしてあり短時間で焼ける「ケーキミックス」は、米国で発売された当初はあまり売れなかった。ケーキを「時間をかけて丁寧に焼く」ことが、「おもてなし」の表現と思われていたからだ。

心理的反発とは「変化させられまい」とする衝動。つまり、変化を強いられ、行動の自由が奪われると感じると、人は素直に従わない。自分の自由を担保、あるいは取り戻そうと抵抗する。

4つ目の心理的反発については、組織心理学者のアダム・グラント氏による実験に意外性があった。ある大学の卒業生に、母校への寄付をお願いするメールを3パターンに分けて送った。1つ目は「あなたからの寄付で学生や教職員の生活が変わる可能性があります」という、利他の精神に訴えるメッセージ。2つ目は「寄付してくださった卒業生の皆さんは、いい気分になったとおっしゃっています」と利己心に訴えた。3つ目は両方のメッセージを伝えるものだ。

結果、もっとも寄付が増えなかったのは3つ目だった。両方の内容を送ったことで、メールを受け取った人は、寄付をさせるためにたくらんだもの、というイメージを強く持ち、寄付を強いられているような気がしたという。メールの送り手は、卒業生に「寄付をする自由」が奪われているという感覚を抱かせ、心理的反発を招いてしまったのである。

この実験結果は、誠実に相手を尊重しながら話を進めることで、抵抗を乗り越えることができる可能性を示唆している。アイデアや提案を相手がどう受け取るか想像することが、まずは重要なのだろう。

今回の評者 = 吉川 清史
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。11万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。

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