会議中に難しい議題について沈黙が続いている。こんな時、あなたならどうするだろうか。さっさと切り上げたり、話題を変えたり、とりあえず結論を出したりできる人はきっと仕事のできる人だろう。一方で、じっと考え続ける人は「ネガティブ・ケイパビリティ」の持ち主だ。
一般的に社会やビジネスにおいては、まず行動し、意思決定し、素早く問題を解決する能力「ポジティブ・ケイパビリティ」が必要とされる。これとは逆に、ネガティブ・ケイパビリティとは「何かをしないでおく能力」のことだ。簡単に反応しない、判断しない、結論を出さないことなどがこの能力にあたる。心理学や芸術の分野で扱われていた資質だが、近年はリーダーシップや組織論、教育の分野でも注目されている。
本書『答えを急がない勇気』は、ネガティブ・ケイパビリティについての包括的な解説書である。ネガティブ・ケイパビリティを発揮するための方法や個人における高め方、チームや組織の中での効用などを子育てからビジネスまでの具体事例とともに説明する。著者の枝廣淳子氏は大学院大学至善館教授で有限会社イーズ代表取締役。
「わからなさ」に留まる
ネガティブ・ケイパビリティの本質をよく表す言葉が「わからなさの中にとどまり続ける能力」だ。私たちは未知や「わからなさ」に接した時に、別の作業で気を紛らわしたり、すぐに結論を出したりしがちだ。そこをこらえて、「自分はわからなくて不安なのだなあ」と受けとめ、「自分がわかる領域やわからない領域はどこか」「わかっていることは本当にそうか」などと考え続ける。
このように向き合うと物事が多面的に捉えられ、対象への理解がより深まり、共感や寛容さ、創造性が得られると著者は説く。現代はインターネットなどで調べれば簡単に「答え」らしい情報にたどりつけるが、自らの理解の程度を突き詰めることはしない。「わからなさにとどまる」ことは非効率だが、考え抜くスキルを鍛えられるという著者の主張も理解できる。
あえて判断のスピードを遅くする
こうした態度を組織で活用した事例も紹介している。例えば、元昭和シェル石油会長の新美春之氏は経営陣の考えに反対する「ネガティブ・チーム」を設け、判断する前に立ち止まれるようにした。英ユニリーバは、株主からの短期的な業績向上のプレッシャーがかかる四半期決算報告を廃止したところ、長期的な視野で事業を展開できるようになって業績も向上したという。
どちらの事例も「即時対応」や「スピード」を減らし、組織に熟慮や葛藤、新しい認識が生まれるようにした。これこそがネガティブ・ケイパビリティの効用だ。こうした仕組みは、激しい変化の中で質の高い解決策を見いださなくてはならない現代の組織運営への良いヒントになりそうだ。
あなたのスキルや姿勢は「ポジティブ」に偏っていないだろうか。思い当たるところがあれば、ぜひ本書を手に取ってみてほしい。
情報工場エディター。11万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。