最近、カプセル自動販売機「ガチャガチャ」を街中で見かけることが増えた。ショッピングモールや駅、書店にもガチャガチャが置いてある。子どもと並んで親が熱心にハンドルを回していることも珍しくない。
なぜ今、ガチャガチャ熱が広がっているのか。本書『ガチャガチャの経済学』は、そんな疑問に全方位から答えてくれる。約30年間、ガチャガチャ業界で仕事をしてきた著者が、ガチャガチャの市場動向や歴史、ブームの背景などを説明。カプセルトイ(玩具)のメーカーやクリエイターらに取材し、進化するガチャガチャの最前線も伝えている。
著者の小野尾勝彦氏は、一般社団法人日本ガチャガチャ協会代表理事、株式会社築地ファクトリー代表取締役。
規模はレトルトカレー超え
本書によると、2023年に発表されたガチャガチャの市場規模は過去最大の610億円。これはレトルトカレーの市場を超える規模だ。マシンの設置台数は推定60万台強で、郵便ポストの18万台を大幅に上回る。
これまでにブームは何度かあった。第1次ブームは1980年代、『キン肉マン』の消しゴム通称「キンケシ」が流行った頃だ。第2次ブームは90年代、フル彩色の「HG(ハイグレード)シリーズ ウルトラマン」のフィギュアから火がついたという。友人とトイを交換した思い出を持つ人も多いだろう。
第3次ブームの主役は2012年発売の「コップのフチ子」だ。コップのフチに引っ掛けられる「OL風」のフィギュアで、若い女性の心をわしづかみにした。現在のガチャガチャ購入層の中心は20代〜30代の女性だというが、女性ファン流入のきっかけをつくったのがフチ子だった。有名キャラクターものではない、新興メーカーによるオリジナル商品である点も、フチ子の画期性だったと著者は強調する。
現在は第4次ブームで、千台以上ものマシンが置かれた「ガチャガチャ専門店」が登場している。店内は女性が入りやすいよう清潔で明るい雰囲気で、接客スタッフまでいる。「大人の女性向け」が、ガチャガチャの盛況ぶりを読み解く1つのキーワードだ。
固定観念を壊す
右肩上がりのガチャガチャ業界からは、他分野にも通じるヒントが見いだせる。例えば、ガチャガチャ専門店の先駆となった運営会社の社長は「固定観念からの脱却」の大切さを語る。自分たちは子どもやマニア向けトイといった「モノ」ではなく、大人女性も楽しめる「コト」を売る発想で新業態を生み出した。
従来にはない発想といえば、トイのデザイン自体がそうだ。「神獣ベコたち」というシリーズは、福島県の郷土玩具「赤ベコ」をペガサスなど世界中の神獣と合体させ大ヒットした。石にしか見えない小物入れ、カプセルが貯金箱になるトイなど、「どうしてこんなことを思いつくのか」と言いたくなるアイデアがトイにはある。眺めるだけで頭が柔らかくなりそうだ。
昔から日本人は小さくてかわいいものが好きだったと著者は語る。確かに、遊び心あふれたトイにはうきうきするような魅力がある。本書をめくれば、仕事へのヒントと活力が得られるだろう。
情報工場エディター。11万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。