ひらめきブックレビュー

やる気を失った日本企業の社員 「縮み経営」が意欲そぐ 『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(渋谷和宏 著、平凡社)

ウェルビーイング 働き方 人的資本

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

新しい年を迎え、あなたはやる気に満ちているだろうか。それとも、意欲がわかないまま仕事に向き合っているだろうか。

本書『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』が示す2023年の調査によれば、日本で「熱意を持って働いている」会社員の割合はわずか5%しかない。仕事満足度を問うた2019年の調査でも、「満足している」と答えた日本人は42%で、最上位だったインド人の89%を大きく下回る。日本の会社員の意欲が低迷しているのは、いったいなぜなのか。本書はその答えが、過去30年間にわたる企業経営の問題点にあるとして明らかにしていく。

著者の渋谷和宏氏は経済ジャーナリスト、大正大学表現学部客員教授。日経ビジネス副編集長、日経ビジネスアソシエ編集長などを経て現職。

低賃金を続けた「縮み経営」

著者が最大の問題とするのが、コスト削減を最優先とする「縮み経営」だ。バブル崩壊後の消費低迷を乗り切るため、企業はまずコストカットに注力。研究や設備への投資は削減され、人は「コスト」と見なされた。賃金は長い間据え置かれた。

縮み経営の代表格として批判されるのは大手家電メーカーだ。1990年代以降、デジタル技術の発展によって誰でも一定品質の製品を作れる時代になった。そこでは独創的な機能やデザイン、ブランディングが決め手となるが、それは創造的に働く人材がいてこそ生まれる。社員に投資し、やる気を高める経営を行う必要があったにもかかわらず、経営陣はコスト削減に目を奪われてしまった。これが大きな判断ミスだったと著者は厳しい見方をする。

さらに様々なデータで、賃金の低さが会社員のやる気を奪っていることを示す。例えば、OECD(経済協力開発機構)のデータでは、2022年の日本の平均賃金は加盟国38カ国中25位。そして著者が2023年に行った独自アンケートでは、「あなたのやる気が下がる原因はなんですか?」の問いに「給料が低い。あるいは上がらない」と答えた人がもっとも多かったそうだ。個人レベルでどれだけ努力しても給料に反映されない。それが仕事へのむなしさや、会社への不信感につながるというのは、誰しも理解できることだろう。

明るい兆しも

仕事やノルマを無理強いし、できなければ人事評価や給与に反映する減点主義的な「脅し経営」、OFF-JT(職業外訓練)にかける費用の低さなど、著者が列挙する日本企業の「人材を重視しない経営」を見るうちに、暗澹(あんたん)たる思いがしてくる。

だが前向きなトピックもある。最近、国内社員の賃金を最大4割引き上げたファーストリテイリングを筆頭に、ガラスメーカーや生命保険会社などで賃上げの動きがある。縮み経営の限界に企業が気づき始めた証左だ。

著者は終始、やる気のなさを個人の責任とすることを否定する。必要なのは社員に報い、エンゲージメント(働きがい)を高める経営を会社が実施することだ。こうしたメッセージを受け、やる気がわかないことへの後ろめたさが軽くなる人もいるのではないか。勤め先の方向性を見定める材料としても本書は有用だ。

今回の評者 = 倉澤 順兵
情報工場エディター。大手製造業を対象とした勉強会のプロデューサーとして働く傍ら、11万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。東京都出身。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

ウェルビーイング 働き方 人的資本

関連キーワード

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。