子どもの頃、暇つぶしと言えば本や漫画を読むことだった。だが、現代の若い世代では「本離れ」が進んでいるとよく耳にする。ゲームや動画など様々な娯楽があるのだから、それも当然だろう。
ところが本書『「若者の読書離れ」というウソ』では、小中高生の本離れは「進んでいない」ことが明かされる。全国学校図書館協議会が毎年行う「学校読書調査」から得られるデータを見ると、2022年の小学生の月平均読書冊数は過去最高の13.2冊。中学生は月平均4.7冊、高校生は1.6冊と差があるが、過去と比べて微増、あるいは横ばいの傾向にある。
この一見意外な事実を端緒に、本書は若者の読書の「実態」に迫る。10代がよく読んでいる本を著者自身が読み、分析し、好まれるカテゴリーやジャンル、内容を考察する。人気の作家と作品を豊富に紹介しながら、現代の若者が「読書に求めているもの」をあぶり出す。
著者の飯田一史氏は出版社勤務を経て独立。ウェブカルチャー、出版産業、子どもの本、マンガ等について取材、調査、執筆している。
10代のニーズ
先に紹介したデータの通り、小中高生の本離れは確かに「ウソ」だ。1980年代から90年代にかけて、平均読書冊数と不読率(1冊も本を読まない人の割合)が「史上最悪の数字」になったことはある。だが、その後は「朝の読書」などの読書推進運動のおかげで2000年代にはV字回復し、以降は大きく減ってはいない。「本を読まない若者」イメージは過去のものだと著者は強調する。
本題はここからだ。では今の若者、10代の中高生はどんな本を読んでいるのか。著者は10代特有の発達上の特徴と、中高生から長いスパンで支持されている本のデータを重ね合わせながら、若者の読書への「3大ニーズ」を見いだす。「正負両方に感情を揺さぶる」「思春期の自意識、反抗心、本音に訴える」「読む前から得られる感情がわかり、読みやすい」がその3つで、人気作品にはこうしたニーズに応える一種の「型」があるのだと論じている。
例えば、中高生に支持されている作家、住野よるの作品はこのニーズによく応えているという。感情のアップダウンがあり、主人公の自意識と外の世界とのズレが描かれ、タイトルや表紙などから内容が類推しやすい。映画化もされヒットした『君の膵臓をたべたい』(2015年、双葉社)は、「余命もの」であることが周知されていた。
受け手視点で
読む前に感情が分かるのはネタバレのようなもので、読書の面白さが減るのではないか。また、読みやすい文章にばかり親しんでいては、読解力が育たないのではと気がかりにもなる。
だが、そうした読書に対する先入観こそ改めるべきだというのが本書のスタンスだ。まずは評価を抜きに、若者の読書傾向をそのまま受け入れる。受け手の視点に立って初めて、若者と本に関する対話ができると著者は説く。
読書は本来、理想論や規範から離れて自由に楽しむものだ。上記の著者の指摘はそれを思い出させてくれる。子どもたちに本を薦める前に、ぜひ本書を一読されたい。
情報工場エディター。11万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。