「ゴーゴーカレー」のカレーを食べたことがあるだろうか。濃厚なルーにソースのかかった大きなカツがのる「金沢カレー」の代表格だ。食べたことがなくても、黄色い背景にゴリラというインパクトのある看板に見覚えがあるかもしれない。
本書『カレーは世界を元気にします』は、ゴーゴーカレー創業者である宮森宏和氏が、これまでの波乱の道のりをまとめた自伝的経営論だ。創業のきっかけやニューヨークでの成功、資金繰りの苦労などを率直に明かしながら、経営や生き方について独自の哲学を語る。
金沢市の農家に生まれた著者は現在、ゴーゴーカレーグループ取締役会長。グループ店舗数はフランチャイズ含めて国内外で100程度に上る。
松井秀喜に憧れて創業
巨人からニューヨーク・ヤンキースに移籍し、引き続き背番号「55」を付けた松井秀喜選手が、2003年の本拠地デビュー戦で放った満塁ホームラン。それが著者の人生を変えるきっかけだったという。地元石川県の英雄、松井選手のファンだった著者は大感激し「自分も同じニューヨークで成功したい!」と発奮したのだった。
そんな折、金沢の街中を歩いているときにスパイスの香りに気づき、「カレーでニューヨークを目指す」というアイデアが浮かんだ。そこからの行動力がすさまじい。まず、地元のカレー店「ターバン」に修業を申し込む。勤めていた旅行会社を辞め、東京で店舗用の物件を探す。開店直前は内装や設備工事も手がけ、手作りチラシを配り歩くなど、不眠不休で動いた。
記念すべき1号店は「1皿55円」セールが奏功し、結果的に成功を収めるのだが、場所は西新宿にある雑居ビルの地下1階。周囲からは「どうせ失敗する」と言われていた。そんな声には耳を貸さず「やる!」と腹をくくったのだと著者は振り返っている。
著者のモットーは「パーフェクトポジティブ」だ。逆境にも「ダメだ」と考えない、むしろ無理だと言われるほど奮起し挑戦する。英語もさほど話せず、ツテのない状況で米国出店が成功したのは「できる」と可能性を見いだす姿勢が貫かれていたからだろう。
辛い時期を経て謙虚に
常に順風満帆だったわけではない。店舗数の拡大とともに、グループの財務状況が悪化して資金繰りに苦しむようになる。人材育成が追い付かず赤字店舗が増えたのだ。取引先の銀行の信用を失い、スタッフを削減するなどつらい思いを味わった。同時期に、長女を生後2カ月足らずで亡くすという悲痛な出来事も経験している。
だが、ここで著者は謙虚に自らを省みる。経営について学びなおすとともに、他者を思いやる気持ちを抱くようになったという。「カレーのプラットフォーマー」として、自店のカレーにこだわらずおいしいカレーを伝え業界の発展に貢献しようという哲学も、こうして生み出されたのだ。
「最近、どうも仕事への情熱が失われているな」と感じたら、本書を開いてみてほしい。コッテリと辛いカレーを食べた時のように、活力が湧いてくるはずだ。
情報工場エディター。11万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。