ひらめきブックレビュー

ビタミン飲料は本当に健康的か 飲み物の効能の裏側暴く 『DRINK あなたが口にする「飲み物」のウソ・ホント』

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梅雨時だからか体がだるい。手っ取り早く元気を出そうと、ビタミン飲料を手に取ることがあるだろう。だがちょっと待ってほしい。本当にその飲み物は体に良いのだろうか。

本書『DRINK あなたが口にする「飲み物」のウソ・ホント』(井上大剛訳)は、水、ミルク、アルコールなどの日常的な飲み物に含まれる成分を科学的に説明し、体への影響を解き明かした一冊だ。取り上げる飲み物は100種類以上。製法や飲み方といった逸話も多く、さながら「飲み物百科事典」だ。著者のアレクシス・ウィレット氏はケンブリッジ大学のMRC人間栄養学研究ユニットで研究をするサイエンス・コミュニケーター。

健康に悪い健康ドリンクも

「健康に良さそうだけれど実はそうでもない」という事例が、本書には次々と出てくる。例えば赤ワイン。ブドウの皮に含まれるポリフェノールは抗酸化作用が高く健康によいとされている。中でもポリフェノールの一種である「レスベラトロール」は注目の成分で、抗炎症、抗酸化、抗がん作用などの効能があるとの研究結果があるそうだ。しかし、この結果は実験室でのもの。普通にワインを飲む時よりも極端に多い量が使用されているため、人に効果があるとは言えないと著者は指摘する。

いちばん効果が期待されるのは心臓の健康に対してだが、55歳以上の女性が週に赤ワインを2杯飲んだときだけその健康効果が認められる。つまり、かなり限定的な条件のときにしか「体に良い」とは言えないのだ。ワインにはアルコールが含まれており、大量に飲み過ぎると体に悪いのは言うまでもない。

ではビタミンを添加したビタミンウオーターならどうだろう。水溶性ビタミンであるビタミンBとCは、長時間水の中にあると分解してしまううえに、熱や光でも分解されてしまう。だからどれだけビタミンを摂取できているかは誰にも分からない。しかも、大量の糖分(ある商品は1本あたり32グラム程)が入っていることが多い。ビタミンウオーターはお金の無駄であるばかりではなく、健康に悪影響を与えかねない、と著者は一刀両断する。

飲む前に「健全な懐疑心」を

結局のところ、飲み物の「効果」はマーケティングのなせるもので、科学的に裏付けられているものは少ない、というのが本書のスタンスだ。コカ・コーラ社といった社名を出し、ソフトドリンクメーカーは自前の研究機関や、研究プロジェクトへ金銭的支援を行って自社製品に都合の良い論文を書かせていると警告する。私たち消費者は「健全な懐疑心」を持った方がいいと著者は言うが、健康的なイメージをまとっている飲み物ほど、本当にそうか、なぜそう思い込んでいるのか、いま一度立ち止まって考えてみるべきなのだろう。

私が愛飲するミントティーも、健康に良いという証拠は残念ながらなさそうだ。しかし、飲み物は成分だけでなく味わいや雰囲気を楽しむものでもある。お気に入りの1杯をさらに深く知るためにも、本書を読んで損はない。

今回の評者 = 高野 裕一
情報工場エディター。医療機器メーカーで長期戦略立案に携わる傍ら、11万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。長野県出身。

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