よく知られるように、英国では紅茶が文化として根付いている。出張で英国に行くと、取引先も同僚も、仕事が一段落するたびに「Tea?」と聞いてくれる。こんな国はほかに知らない。ありがたい一方で、基本的な紅茶のマナーを身につけておく必要も感じる。
本書『ビジネスエリートが知っている 教養としての紅茶』は、英国在住18年で、英国式紅茶教室を主催する花井草苗(さなえ)氏が、紅茶の歴史や文化、ビジネス周辺で求められる紅茶のマナーや基礎知識を紹介する。
宮廷から始まったアフタヌーンティー
英国で仕事中にも紅茶を飲む習慣は前に触れた通りだが、本書によれば、英国の労働者は平均1日24分のティーブレイクを取るという。座りっぱなし防止になるほか、リフレッシュや同僚と情報交換する時間となる。
歴史をさかのぼると、17世紀にポルトガルから英王室に嫁いだキャサリン妃が、当時は金銀に匹敵するほど貴重とされたお茶と砂糖を持ち込んだのが、宮廷喫茶の最初という。紅茶文化はその後、19世紀の産業革命で大きく変化する。生活が豊かになり、オイルランプが普及したことで、夕食の時間が遅くなった。空腹に耐えかねて紅茶とパンをこっそりベッドルームで食べ始めた、ある公爵夫人の習慣がアフタヌーンティーの始まりだそうだ。やがてサンドイッチやお菓子を用意し、友人を招き、応接間で行う形に発展していった。人々の生活の変化の中で、紅茶文化も変化を続けてきたことがわかる。
茶道に通じる「おもてなし」の心
紅茶に付随するマナーは、もてなし、もてなされて楽しい時間を過ごすための約束事という。例をあげれば、アフタヌーンティーのティーポットを触っていいのは、ホストか使用人のみで、ゲストは触ってはならない。砂糖を混ぜるためのスプーンは、繊細な茶器を傷つけず、音を立てないために、前後に動かす。ぐるぐる回すのはマナー違反だ。
ドレスコードも重要なので、基本を知っておくと良さそうだ。現代のビジネスシーンでは、イベントやセミナーの合間にネットワーキングの一環としてティーパーティーが行われることがある。こんな時のドレスコードは、襟付きのテーラードジャケット、パンツスタイルなどスマートカジュアルが一般的。ただし、エグゼクティブの社交の場では、より厳格となる。
著者も指摘する通り、英国において紅茶が国の文化として根付いている点は、日本の茶道に通じる。背景にある「おもてなし」の心も共通だ。そう考えれば親しみもわく。紅茶の種類、アレンジなどの知識だけでなく、紅茶をめぐる歴史上のエピソード、茶器のそろえ方や主なメーカーなども紹介されていて興味深い。
国際社会では、紅茶のほかにも、スーツやジェントルマンシップなど、英国発祥の文化が標準になっているものは多い。紅茶文化を中心にこれらのマナーを身につければ、ビジネスでも私生活でも生かせる財産となるだろう。
情報工場エディター。医療機器メーカーで長期戦略立案に携わる傍ら、11万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。長野県出身。