「頑張っているが、努力が結果につながらない」「考えているが、なかなか前に進まない」。このような曖昧で漠然とした悩みを持つ人は多いだろう。
曖昧な悩みは、分けると具体的になり、解決しやすくなるようだ。本書『小さく分けて考える』は、仕事やキャリアにおける課題を分解することで解決策を見いだす「分解思考」を紹介する。「売り上げを増やす」とか、「あんなふうになりたい」といった目標も、大きな塊を小さく分解すれば、達成までの道筋が見えてくる。
著者の菅原健一氏は起業家でマーケター。企業のアドバイザー業を手掛けるMoonshot(ムーンショット、東京・渋谷)代表取締役CEO(最高経営責任者)である。本書は同氏がかつて、ITエンジニアとして働いた際、サービストラブルを問題の切り分けによって解決した経験がベースとなっているという。
売り上げをできるだけ簡単に2倍にする方法
分解思考とは、問題を分けることで具体化・明確化し、本当に重要なポイントを発見する思考法だ。例えば、「来期の売上高を2倍に」というミッションが与えられたとする。このままでは、何から手をつけたらいいかわからない。そこでまず「売上高」を「客数×客単価」と分解する。ここまでは、教えられなくても自然と試みる人もいるだろう。
しかし、著者はさらに分解を進める。「客数」を分解すると「見込み客数×アポイントの率×提案率×受注率」という式が見えてくる。つまり、見込み客数、アポイントの率、提案率、受注率、客単価のいずれかを2倍にすれば、売り上げも2倍になる。著者はこのうち、できるだけ簡単に2倍にできる要素として、追加人材が不要な「受注率」「客単価」を挙げる。具体的な行動としては、提案の質を上げるなど受注率を上げる方法、あるいは単価を2倍にする方法を考え、そのために障害となる課題を取り除いていく。
分解思考を活用すれば、ミッション達成に向けてやみくもではない道筋を見いだすことができそうだ。
悩む時間を考える時間に変える
本書では、豊富な具体例が紹介されていて実践的だ。例えば、目標達成までのスケジュールを分解し、「最初の4カ月は客数を増やす」「次の4カ月は客単価をアップする」などと分ける方法。また、顧客の購入動機を「商品」「買いやすさ」「ポイントがつく」などに分解し、どの購入動機の顧客を重視するか決めることで良いお客さんを増やす方法などだ。他にも、自分の「理想の人」や「やりたいこと」を分解して具体化するなど、キャリアを考える際に使える分解思考もある。
著者も指摘するが、分解思考は問題をツリー状に分解していく「ロジックツリー」に似ている。ただ、ロジックツリーが腰を据えて取り組む思考法とすれば、分解思考はもっと手軽な印象を受ける。困ったらとにかく分解して整理することを第一とする。分けることで、悩む時間を考える時間に変換する、いわば普段使いの「型」と言える。大きな課題だけでなく、日常にある小さな課題にも分解思考が効果を発揮するだろう。
情報工場エディター。大手製造業を対象とした勉強会のプロデューサーとして働く傍ら、11万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。東京都出身。