■背景にある技術の発展
本書が指摘する通り、技術の発展に伴って行動様式や習慣が変わるのは必然かもしれない。倍速で見てもセリフを完全に聞き取れる技術ができたからこそ、倍速視聴が普及したともいえる。
本書を読んで、20年ほど前に初めて電子辞書を購入した時のことを思い出した。いつも紙の『広辞苑』を引いていた大正生まれの祖父に電子辞書を使って見せた。感心してくれるかと思いきや、祖父は「そんなものには、辞書を引く楽しみがない」と言った。便利さに気を取られていた私はハッとしたが、同時にデジタルのメリットを理解してもらえない寂しさも感じた。
「映画を早送りで見て楽しいの?」と感じる私は、「見る」という「プロセス」を重視するという意味で「辞書を引く」ことを重視した祖父と同じだろう。一方で、語句の意味や映画の内容を「知る」という「結果」を重視する人もいる。どちらが正しいとか、豊かとか、比べることはナンセンスだ。楽しみ方、価値観はさまざまでいい。
価値観の異なる人との相互理解や共感が難しいとしても、大切なのはそれぞれのメリットを知り、互いに敬意と関心を持ち続けることではないだろうか。映画の見方を通して世相を問い、多様性の在り方を考えさせる一冊だ。
今回の評者 = 前田 真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。