ひらめきブックレビュー

ワークマン躍進させた「支援型」 現代のリーダー像問う 『リーダーのように組織で働く』

リーダー論 スキルアップ コミュニケーション

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

「リーダーシップ」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。ひと昔前なら、組織をけん引する力強さやカリスマ性を想像したかもしれない。しかし、今日のリーダーシップは「人を支援する」ことが鍵になる。

本書『リーダーのように組織で働く』は、リーダーシップのスタイルの変遷を概観しながら、今の時代に求められているリーダー像を解説する一冊だ。なかでも、自分や部下の自律的な行動を引き出す「支援型」リーダーシップの重要性を深掘りしている。

著者の小杉俊哉氏はアップルコンピュータ(現アップル)の人事総務本部長などを経て独立。現在は合同会社THS経営組織研究所の代表社員を務め、慶應義塾大学SFC研究所の上席所員としても活躍している。

社員へのエンパワーメント

「理念を共有し、共同体意識を涵養(かんよう)すると同時に、個々と向き合い、地位にかかわらずコミュニケーションを取り、働きかけて、組織や個人のパフォーマンス(能力、成果)を引き出すリーダーシップ」。これが、本書における支援型リーダーシップの定義だ。

なぜこうしたリーダーが求められているのか。それは近年、イノベーションをいかに実現するかが経営課題となっていることが影響している。イノベーションを起こすためには現場の知恵を集め、メンバーの自律的な課題意識のもと試行錯誤を繰り返す必要がある。だからこそリーダーは現場に情報を共有して権限を与え、メンバーとの信頼関係を築き、自律性を引き出すことが有効なのだと著者は説明する。

本書では支援型リーダーの成功例として、作業服大手のワークマンの土屋哲雄専務を挙げている。前の職場の三井物産ではカリスマ型のリーダーだったが、ワークマン入社後は社風を見てスタイルの転換を試みたという。現場の情報を重視し、データに基づいた判断を社員全員が行う経営手法を推進した。さらに、「ちょっと手を加えれば用途が広がるんじゃないか」と投げかけて、後は社員らに自由に考えさせた。こうした「エンパワーメント(社員に権限を持たせやり方を任せる)」の結果、作業服専門店だった同社が、服の汚れに悩む主婦など新しい顧客層を獲得、大躍進につながったのである。

新入社員のリーダーシップ

議論を促進する「ファシリテーション」や集団でアイデアを抽出する「ブレーンストーミング」なども、支援型リーダーシップが発揮されやすい領域だ。そして、リーダーが支援型であり続けると、メンバー各自がリーダーシップを発揮する「自律型組織」が実現すると著者は説く。主に海外企業だが、自律型組織の実践例も紹介している。

個々のメンバーのリーダーシップは小さくともよい。例えば、資料のコピー取りをしていた新入社員が、指示されてもいないのに業界動向をまとめた月報を作って配布し始めることも立派なリーダーシップだ。

役職にかかわらず、人は誰もが「リーダーのように」行動できる。これが著者のメッセージであり、これからのリーダーに必要な考え方なのだろう。

今回の評者 = 倉澤 順兵
情報工場エディター。大手製造業を対象とした勉強会のプロデューサーとして働く傍ら、11万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。東京都出身。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

リーダー論 スキルアップ コミュニケーション

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。