ひらめきブックレビュー

トットちゃんの変わらない魅力 国民的名著の「その後」 『続 窓ぎわのトットちゃん』

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映画『窓ぎわのトットちゃん』が話題になっている。原作は俳優の黒柳徹子さんが1981年に著した同名の自伝的小説。累計発行部数が国内外合わせて2500万部超といわれる、世界的ベストセラーだ。40年以上を経てなお注目を集める「トットちゃん」の魅力はどこにあるのか。

前作『窓ぎわのトットちゃん』ではトットちゃんこと幼き日の黒柳さんが過ごした小学生時代が描かれたが、本書『続 窓ぎわのトットちゃん』は「その後」を記す。太平洋戦争の激化に伴い青森に疎開したこと、戦中戦後の日々、東京の女学校や音楽学校への進学、将来に迷いつつも売れっ子女優への道を歩む姿などをみずみずしい筆致でつづっている。

黒柳さんは司会者、エッセイストとしても活躍中で、84年よりユニセフ親善大使として飢餓や戦争、病気などに苦しむ子どもたちを支える活動を続けている。

トットちゃんらしさは健在

本書の主人公は「トットちゃん」ではなく「トット」と書かれる。その呼び名通り、社会を知り少しずつ大人になり、時に傷つきながらも自分の道を見つけていく様子が読みどころの一つだ。

オペラ歌手になりたいと音楽学校で学ぶも身の振り方が決まらず、悶々(もんもん)としていたトットが、ふと見た人形劇に心を奪われたエピソードがある。子どもたちが大喜びする顔を見て、人形劇をしたり絵本を上手に読んだりできる母親になりたいと考えた(当時は結婚も女性の大きな進路だった)。そこで朗読の仕方を習おうと、たまたま新聞で見たNHKの専属俳優の採用試験に挑戦したのだという。つまり目標は「女優」ではなく、絵本をうまく読めるようになること。トットちゃんらしい天真爛漫(らんまん)さは健在だ。

個性的すぎるゆえの苦労も多かったようだ。ラジオやテレビで「ガヤガヤ」(その他大勢の役)を演じた時は、声が大きすぎるとか動きが妙だと言われ、ただ一人帰らされた。何度やってもガヤガヤは苦手だったと本人は言うが、周囲に合わせずに自分の個性を貫いたトットはさすが、と読者としては感心してしまう。

物語を通してトットは自然体で、卑屈な所がまったくない。演出家や先輩から叱られても、悲しみこそすれ相手を恨んだり自分を卑下したりはしない。要所で師や友人に恵まれるが、世間の価値観に縛られず自由闊達に生きようとする精神が、人を惹きつけるのだろう。

戦争体験を残す

驚くべきはその記憶の鮮やかさだ。疎開するために乗った汽車の中でもらったゆでたジャガイモの味や初恋の人を見送る時に着ていた服、出征する父の手の感触がどんな風だったか。ささいな事柄が丁寧に書き込まれ、情景がはっきりと目に浮かんでくる。

戦争を感じさせる描写が多いのも特徴だ。あとがきで「戦争のことを書き残しておきたかった」と明かされるが、自由を愛する少女が経験した戦争の切なさも、本書の底を流れている。前作をずいぶん前に読んだという人、読んでない人も、悲喜こもごもある大人のトットに、ぜひ対面してみてほしい。

今回の評者 = 安藤 奈々
情報工場エディター。11万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。

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