大手転職エージェントの調査によれば、40代になるまでに75%ものビジネスパーソンが転職活動を行っているという。「大転職時代」が到来しており、誰しもが転職を前提としたキャリア設計を考える必要がある。しかし、今ある仕事で手いっぱいで、自分のキャリアを俯瞰(ふかん)する余裕を持てない場合もあるだろう。そんな人を勇気づけてくれるのが本書『これから市場価値が上がる人』だ。
『転職の思考法』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版)など、キャリア形成についての話題本を放ってきた北野唯我氏が、自分の市場価値を高めるために日々の仕事とどう向き合えばよいかについて、自身の経験談を交えて教えてくれる。
著者は、株式会社「ワンキャリア」取締役として、全社戦略、事業開発、広報PR領域を担当。本書が初の新書となる。
市場価値が高いのは「工夫ができる人」
「市場価値が高い人」とはどんな人材なのか。著者は、会社や組織に縛られることなく、どんな環境でも常に必要とされる人だと定義している。そんな人材になるための重要な要素の1つが「努力ではなく、工夫ができること」だ。
努力と工夫の違いは目標があるかないかが大きい。「努力」とは言われたことをその通りにやること、「工夫」は自分で決めた目標に対して、試行錯誤することだ。野球でいえば、「とにかく素振りをしなさい」と言われて素振りをするのが「努力」で、甲子園に出場するために何をするかを考えてピッチングやバッティングの練習をするのが「工夫」だ。ビジネスにおいて、価値があるのはもちろん後者だと著者は説く。
工夫するためには、仕事の「How」に注目するのがよいそうだ。すなわちこれまでとは違うやり方で仕事をする。例えば、普段はメールやSNS(交流サイト)で営業している人なら、勉強会や交流会などに参加して名刺を交換し、新しい関係性を構築する方法などが考えられるだろう。
仕事の進め方を変えるという意味では、著者がよく使うという「マスト1」を決める手法も参考になる。これはその日やその週に、「絶対に行うことを1つだけに絞る」方法だ。マルチタスクを抱えて混乱しているときほど有効で、確実に成果が出せる。仕事の優先順位は「重要度」と「緊急度」で判断するメソッドが有名だが、これでうまくいかない人は、試す価値がありそうだ。
日々成長する機会をつくる
「市場価値を高める」というと資格取得など、何か大きな努力や変化をしなければならないと身構えてしまいがちだ。しかし、著者は1%でも新しいチャレンジや変化を起こすことが大事だと説く。新しいことに取り組んでうまくいけばよいし、うまくいかなくても失敗の要素が見えてくる。仕事の方法の一部を変えるだけで、わずかでも確実に「成長」できるのだ。
つまり、これから市場価値が上がる人とは、成長につながる「工夫の引き出し」をたくさん持っている人なのだ。転職を考えている時はもちろん、毎日の仕事が単調だと感じる時に、本書を開いてみて欲しい。
情報工場エディター。大手製造業を対象とした勉強会のプロデューサーとして働く傍ら、11万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。東京都出身。