ひらめきブックレビュー

起業の知識と心構えを解説 3つの「間」にビジョン描く 『いずれ起業したいな、と思っているきみに 17歳からのスタートアップの授業』

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文部科学省は2023年度から、小中高生への起業家教育を強化する方針を打ち出した。これまで大学生が主だった対象を広げ、起業家を早期に育成する狙いだ。イノベーション創出を担う「アントレプレナー(起業家)」にいま、熱い視線が注がれている。

本書『いずれ起業したいな、と思っているきみに 17歳からのスタートアップの授業』は、アントレプレナーへの期待が込められた書だ。エンジェル投資家として起業家を見いだしてきた人物が、学生や若者に向けて、起業とはどういう風に行うのか、アントレプレナーシップとはどういうものかをかみ砕いて解説。新しくビジネスを創るためのエッセンスがまとめられており、起業したい人や起業家を育てたい大人世代にとって示唆に富む。

著者の古我知史氏はベンチャーキャピタリスト。ウィルキャピタルマネジメント(東京・港)を設立し、80社の起業、事業開発や投資育成の現場に投資も含めて直接参画してきた。

RIZAPをヒットさせた着眼法

起業と言うと一見ハードルが高そうだが、著者が示す起業・事業化の原則はいたってシンプルである。「着眼・突入・徹底」だ。

着眼とは「どんな世界や未来にしたいのか」というビジョンを思いつく瞬間だ。事業機会を発見するとも言える。突入とは、着眼の後、試作品を作って顧客に問いかけること。徹底は、そのフィードバックを受けて業務プロセスを磨き上げる段階だ。この三原則をしっかりと覚え実行することが、起業家のすべきことである。

このうち着眼のステップこそ、起業の生命線だろう。事実、着眼の技法に多くのページが割かれて説明される。その中に、時間と空間、人間(ジンカン、人と人の間)に注目して事業機会を見つける方法がある。

例えば「人と人の間」をつないだ代表がTwitter(現X)などのSNS(交流サイト)だ。トヨタ自動車は「空間と空間の間」をつなぐ手段を進化させてMaaS(次世代移動サービス)を掲げている。スポーツジムで知られるRIZAPは、現在の自分と未来にいる「理想の自分」をつないでヒット。「時間と時間の間」に着目したのだ。

日経MJが毎年発表する「ヒット商品番付」から、10年後に「化ける」ものを予想して着眼力を磨く演習も紹介する。世の中が「こうなる」「なったらいいな」といったイメージを持ってビジョンを描くことは、起業において特にワクワクする部分だろう。

早いうちに失敗しろ

方法論を学ぶだけではビジョンは描けない。理想の社会を目指す大志と成長意欲、そして挑戦心からなるアントレプレナーシップこそ、魅力あるビジョンの大前提だと著者は説く。

ではアントレプレナーシップはどのように育むのか。著者が「Fail Fast(早く失敗しろ)」と強調するように、失敗を恐れず挑戦を続けることが一つだろう。とすれば、若者をむやみに萎縮させず、失敗を称賛することが大人世代にできることではないか。

日本には起業家が生まれにくいと言われる。そんな風潮を変えるためにも、多くの人に手に取ってほしい1冊だ。

今回の評者 = 安藤 奈々
情報工場エディター。11万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。

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