情報収集に効率的 観察学習の機会にも
「日本の場合は、より緩やかな社内のネットワーク。ふわっとしているけれど、そこにいないと情報が入ってこないネットワークだと思う」。組織行動学を専門とする法政大学大学院の高田朝子教授はこう位置づけ、そもそもは働き方改革以前の長時間労働を背景に「『長く一緒にいること』で成立したのが特徴」と説明する。
かつての日本企業はメンバーシップ型雇用が大半。ジョブ型雇用と違って職務要件も明確ではなく評価軸もあいまいなところが多かった。それだけに「一緒にいた仲間」として時間が1つの評価軸となり得た。さらに「飲み会など営業時間外の情報が上司にとってはゆるっとした360度評価の代わりになることも。OBNは情報収集において効率が良かった」(高田教授)。部下側にとっても、組織での振る舞いなどを学ぶ観察学習の機会になる。
企業では上位職になればなるほど職務遂行に幅広い情報が必要になるという。だから、忙しいビジネスパーソンの間では飲み会なども有用な場となって、「意思決定者の周りにはネットワークができる」(同)。
高田教授は「IT(情報技術)系企業のように『仕事そのものの見える化』が進んだ職場」であれば、情報収集での非公式なネットワークの重要度は低下するとみる。とはいえ、そうした職場はまだ一部。さらに日本の場合、会社役員らも含む「管理的職業従事者」の女性比率は22年時点で12.9%と2割足らず(内閣府「男女共同参画白書」23年版)。「おおむね30%以上」(同白書)という諸外国との開きが目立つ。
従って、「現状においては、役職者が情報収集をしようとすると『相手は男性』となりがち。女性を排除する意図がなくてもOBNのように解釈されるものは、まだなくならないと思う」と高田教授は見ている。
初版から30年 まだ読み継がれるビジネス書
コロナ禍によるリモートワークの浸透などで、図表1の2番目「男性だけのネットワークの場」は減ったかもしれない。けれど、同・1番目「男性たちがつくってきたビジネスルール」は変わっていないものも多く、女性たちがモヤモヤを抱く場合も。
そんな状況を映すように、「『賞味期限』は長くて5年」といわれるビジネス書において、1993年のハードカバーでの初版発行から30年たついまも読み継がれている本がある。2009年に文庫版が出た『ビジネス・ゲーム』だ。
「誰も教えてくれなかった女性の働き方」という副題がついたこの本は、企業社会で生きていくためのコツを女性たちに伝授するもの。米国で1977年に出版され、ミリオンセラーになった書籍の邦訳だ。
共訳者の1人でジャーナリストの福沢恵子さんによると、著者の故ベティ・L・ハラガン氏は邦訳の出版にあたり、「自分は(男性たちがつくりあげた)ルールに従え、とは言っていない。『よく理解して賢く行動を』と読者に誤解なく伝わるように留意してほしい」と望んでいたそうだ。「社会に出る女性たちに『こういうこともあるのだと含み置いておくように』とでも言いたげな感じでした」(福沢さん)
「先生、読みました」「自分に必要な本だと分かりました」。日本女子大学はじめ複数の女子大で教壇に立った福沢さんの元には、かつての教え子である30代前後の女性たちから、いまもこうした連絡が入る。職場の「見えざるルール」にモヤモヤを抱いたときに同書を手にする教え子が多いようだ。
「いまの男性上司はかつてと違って女性を『排除しよう』とは思っていないでしょう。ただ、女性ら少数派を『招き入れる』発想がまだ足りていないように思います」。福沢さんはこう課題提起する。
「ここにチャレンジしないと変わらない」
「OBNは成功体験や失敗体験でつながった仲間意識なのでしょう。男性の皆さんにとっては、いじわるをやっている訳でもないし悪気もない。なんのことか気づいていないのでは」。そんな課題共有のしにくさもあり、実はOBNは女性の活躍を阻む一番大きな要因ではないかと内永さんはみている。
実際、こんなデータもある。日本経済新聞社と企業統治助言会社プロネッド(東京・港)が上場企業で社内役員を務める女性の意識調査をしたところ、「女性の役員昇進を阻む障害」(複数回答)のトップは「男性中心の組織文化や人間関係」、いわゆるOBNとなった(日本経済新聞朝刊2023年3月8日付)。
「仮にワークライフバランスの充実とか、女性のキャリア意識の向上とか(J-Winが掲げる3つの課題の残り2つ)が全部できたとしますね。それでもやっぱり、ここにチャレンジしないと(企業文化は)変わらないと考えたんです」。内永さんはJ-WinでOBNの問題に取り組む理由をこう明かす。