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風通しの良い職場へ まずは女性部下とランチを

実は宮原さんは職務として、女性のキャリア意識向上や職場のダイバーシティ推進といった研修の講師も務める。だから10カ条で初めてOBNについて考えたという訳ではない。ではなぜ、個人として職場のダイバーシティ推進に関心を持つようになったのか。宮原さんに尋ねると、「04年にキャリアカウンセラーの資格を取得したことが転機になった」という。

「第4条に『話の腰を折らない』とありますね。実は私自身も、話の腰を折ってすぐに結論を言ってしまう性格だったんです」。現在はキャリアコンサルティング技能士2級の資格も保有する宮原さんだが、「人の話を聴くのが本当に苦手だった」と苦笑する。

資生堂時代のことで職場は女性が多かった。チームのパフォーマンスを高めるには彼女らとの向き合いが欠かせない。そこで「これではダメだ」と一念発起。資格取得を思い立ち、「最後まで話を聴くスキルを身につけたい」と傾聴のスキルを身につけた。その結果、メンバーの仕事を見る目や上司としての自身の認識が変わったそうだ。

「あくまで経験値ですが、女性は真面目な方が多く『すべて伝えたい』と考えて大事なことは話の最後に、という方が多い。一方、男性の多くは『最初に結論を3つ』などと教えられていて、それを実践しているように思います。だから勘違いしやすいのですが、女性に多いパターンで見られるように『解決策提示より、まずは上司に聴いて欲しい』というニーズも部下にはある」

傾聴スキルが身についたことで、宮原さんはそう気づいたという。「悪気なく、純粋に役に立ちたいと考えて問題解決にばかり重きを置いてしまう、男性管理職に見られがちなコミュニケーションは通じない場合もある。そのことも広めていきたいと思います」とも語る。

ところで、これから初めて女性の管理職が誕生するといった職場の男性幹部なら、10カ条のどれから着手するといいだろう。宮原さんに聞いてみた。「まずは第10条のランチタイムですかね。コミュニケーションの機会をとりましょうということで、ランチに誘うのが1番簡単じゃないですか」

宮原さんがこう語るのには理由がある。資生堂時代の経験から、「たとえば育児中の人でも『この時間なら一生懸命取り組めます』『私は残業もできます』など家庭環境その他で状況はさまざま。『育児は大変だから早く帰らないと』と全員が思っている訳ではない」と学んだからだ。

育児はあくまで一例だ。育児以外にも上司として目配りすべき部下の状況があるかもしれない。「そこはやっぱり対話してみないと。先々、どんな仕事をしたいと考えているかも含めて、本人と話してみなければ分からないですよ」(宮原さん)。その際は、第4条の「話の腰を折らない」を忘れないようにとアドバイスする。

もっとも、「いまは『配偶者は子どもを見てくれないの?』と聞くのもパワハラだと言われかねない。男性管理職はハラスメントの問題に加え、課題解決にどんなリソースがあるか家庭環境などを理解しておきたくても部下の個人情報に踏み込むことにならないかなど悩みがち」(組織行動学に詳しい法政大学大学院の高田朝子教授)。宮原さんは、ランチで心理的なハードルが高いようならば、コロナ禍で広がった1on1を取り入れることを提案する。

女性の意欲を高める上司からの働きかけ

ここまで、管理職が脱OBNのインクルーシブな職場をつくるには、どんな工夫ができるかを見てきた。ただ、根深いOBNを解消していくうえでは、それと同時並行で役員にしろ、管理職にしろクリティカルマス(存在を無視できなくなる分岐点)とされる30%を女性が占める状態に高めていくことも不可欠だろう。

となると、まずは管理職層での3割達成が期待されるが、そのための取り組みを考えるうえで気になる調査結果がある。前出のパーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」報告書によると、同調査からは「従来の育児との両立支援施策は、男性より低い女性の昇進意欲を高めて両者の差を縮小させるようなものではなかった」との結論が導き出された。重回帰分析などをした結果をみると、むしろ、両立支援策は男性の昇進意欲向上を促している、と分かったそうだ。

それではどうすれば、女性の昇進意欲を高められるのだろうか。同研究所シンクタンク本部研究員の砂川和泉さんは、「(図表3で見た)職務経験における男女差を縮めること」を挙げると同時に、「上司にあたる管理職層の働きかけ」がカギになると説く。

図表4は管理職昇進で上司から働きかけを受けたと答えた課長職の女性349人を対象に、どんな働きかけが有効だったかを「見える化」したもの。縦軸は「現在の役職をやってみようという気持ちにつながった」と回答した割合(有効度)、横軸は内容別の働きかけの実施率となっている。

砂川さんはこの結果から、上司の働きかけの具体的な内容として、「管理職候補となった理由の説明、そのことに対する期待感、管理職のメリット(給与・手当の増加のほか裁量余地が広がることによるプラス面など)」を伝えることを挙げる。同時に、有効度は高いと目されるのにまだ実施率が低い働きかけとして、「管理職登用の前後で女性の部下が不安に直面した際にどういうフォローができるかなどを伝える」といった伴走、さらに「上層部とのコネクション形成のサポート」などを挙げ、その実践を説く。

「女性は職務経験の差から男性との意欲格差を生じがち。上司が何も働きかけをしなかった場合はその意欲格差が温存されてしまう」。砂川さんはこう指摘し、「面で展開する人事施策とは違って、上司からの働きかけはより個別に実施できる。効果もデータに表れている」とそのメリットを説く。

折しも、いまリーダー像は上意下達のトップダウン型から、周囲をフォローしながら物事を進めていくサーバント型へと変化しつつある。上司の働きかけで砂川さんが挙げた「理由・期待感・メリットを伝える」といったことは10カ条の第6条とも重なるとあって、若手社員の育成にも有効だろう。変化の激しい時代にふさわしい多様性を生かした職場に変えていけるか。OBN解消は上司力アップの取り組みにもなりそうだ。

(佐々木玲子)

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