ひらめきブックレビュー

独りで倒れた後を世話するのは誰か 死後事務委任契約も 『あなたが独りで倒れて困ること30』(太田垣章子 著、ポプラ社)

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今どんなにイキイキと仕事をしていても、老いや死のリスクからは逃れられない。ある日突然「倒れる」こともある。死なないまでも、寝たきりになり、意思決定ができなくなる可能性もある。日々悔いなく生きようと考える一方で、倒れた「後」に目を向けることも大切だ。

本書『あなたが独りで倒れて困ること30』は、司法書士である著者の経験を元に、人が動けなくなった後のお金や住まい、家族関係のトラブルを30のケースで紹介。動けるうちに備えたいポイントや知っておくべき知識についてまとめている。書名に「独り」とあるが、本書の対象は「独身者」に限らない。パートナーや子どもがいても、認知症などで判断能力を失ったり自分より早く死んだりする場合はある。そうなれば、誰もが「おひとりさま」だ。

著者の太田垣章子氏はOAG司法書士法人 代表司法書士。著書に『家賃滞納という貧困』『不動産大異変』(共にポプラ新書)など。

疎遠になった相続人

こんな事例が紹介されている。自称「天涯孤独」の大崎さん(78歳、仮名)は、長年の独り暮らしの末、体調を崩して病院で亡くなった。住まいは賃貸だった。この場合、部屋に残る荷物や賃貸借契約は大崎さんの「相続人」に継承されるため、大家は相続人に始末の確認を取る必要がある。相続人はどこにいるのか。

調べると大崎さんには離婚した妻との間に息子がおり、著者が手紙を送ったところ連絡がついた。長年、没交渉だった息子は契約解約や所有物の放棄に淡々と同意。写真すら不要という。事は済んだが、荷物処分の費用は家主が出した。疎遠だった相続人だと、何らかの費用負担が嫌で解約手続きが進まないこともある。それを警戒したのだ。

著者は、こうした事態に備えて「死後事務委任契約」があることを紹介する。自分の死後の葬儀などの手配、事務手続きや遺品整理などを第三者に託して契約しておくことだ。受任者は、遺体を冷暗所などに移すところからその責務がスタートする。家族や相続人がパっと思い浮かばない人が知っておいて損はない制度だ。

家族がいても、その家族が亡くなる、あるいは判断できなくなる時を考慮すべきだろう。今は死後事務委任を受任する会社も出てきているが、生前のサポートはしっかりしているか、預託金の管理は万全かといったチェックすべきポイントがあることも著者は強調している。

周りの人が苦労する

他にも、認知症になった妻の預金の存在を知ったが引き出せない夫、介護サービスの存在を知らない高齢夫婦、父親が植物状態になったが、延命治療を受けるべきか否かで煩悶する家族(著者自身の体験)などの事例を挙げている。人が倒れるとやるべきことは多くあるが、当の本人はそれができない。用意が何もないと、残された側が相当苦労する事実が、リアリティーを持って伝わってくる。

自分の「死後」を考えるのは愉快なことではない。だが、死後を直視することは、周りの人を大切に思うことと同じことなのかもしれない。

今回の評者 = 安藤 奈々
情報工場エディター。11万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。

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