ひらめきブックレビュー

コンビニ仕事の舞台裏 過酷だが「人間的成長」の一面も 『コンビニオーナーぎりぎり日記』

ウェルビーイング 働き方 人的資本

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

少し前、コンビニエンスストアの時短営業が話題になった。背景にある過重労働や人手不足といったコンビニの苦境に耳目が集まったが、実際の現場はどうなのか。

本書『コンビニオーナーぎりぎり日記』は、24時間365日営業するコンビニの現役オーナーによる日々の記録だ。1990年代に大手コンビニとフランチャイズ契約し、夫とコンビニを経営する著者が、仕事内容や店で起こる様々な出来事を日記形式でつづっている。

著者の仁科充乃氏は60年代生まれ。プロフィルには「2023年7月10日で、1057連勤」とある。過酷な勤めぶりとは裏腹に、吹き出してしまうようなユーモラスな描写が本書の持ち味だ。

クリスマスイブの因縁

大方の予想通り、著者の働き方は大変だ。21時から勤務に入り、22時からは「ワンオペ」で接客や品出し、店内清掃を行う。翌朝4時には夫が来て交代するが、何かトラブルがあれば責任者として残って働く。1日平均10〜13時間、長い時は16時間も店にいる。親戚の葬儀の骨上げの最中に、店から電話がかかってきたことなども明かされる。

だが、コンビニを始めた頃、著者を苦しめたのは長時間の仕事ではない。来店客だ。「早くしろ!」「どうしてくれる!」と怒鳴られ続け、人間不信にすらなったという。クリスマスイブに若い男女のアルバイトに入ってもらったら、男性客に「イチャイチャするな!」と因縁をつけられたこともあった。他にも執ようなカスタマーハラスメントを経験している。

理不尽きわまりないが、長年の経験で鍛えられた著者は、「経験値が上がった」「ものの見方が(柔軟に)変わった」などと自身の変化を喜んでいる。本書の刊行が決まってからは、客とのトラブルは「ネタ」だと言うからたくましい。

引きこもりを雇う

ほろりとする話もある。ある時、頼まれて常連客の息子をバイトで雇った。その子は中卒の引きこもりで、最初はレジに入るのも怖がった。敬語もろくに使えない。普通なら雇いたくないだろうが、著者は付き添って仕事を覚えさせ、数字が苦手な彼に課題を与えるなどして育てた。

やがて自らレジに走るまでに成長。「お荷物」だった彼が率先して気づくことで周囲の従業員も刺激を受けたという。彼は建築士を目指して専門学校へ入学し、コンビニを卒業していった。店には学生バイトも多く、若者が社会へ踏み出すのを応援したいのだと著者は胸の内を語る。

ある学生から、人と接するのが苦手だったが、アルバイトを経て人を好きになれたと言われた著者は、自分も同じだと告白している。不特定多数の様々な年齢、職種の人と接する仕事だ。清濁を併せのんで人間を面白がるような、懐の広さを獲得できるのかもしれない。

もちろん店舗によって事情は異なる。著者の店も最近は経営が苦しく「ぎりぎり」のようだ。それでも人間を成長させる場になったことは確かだ。本書をきっかけに、身近なコンビニが、ただ「便利」なだけではない役割を果たしていることに気づけるだろう。

今回の評者 = 安藤 奈々
情報工場エディター。11万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

ウェルビーイング 働き方 人的資本

新着記事

もっと見る
loading

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。