日経Well-beingシンポジウム

多面的な指標を作り活用 施策の検証・開示が重要 第4回 日経Well-beingシンポジウム㊤

ウェルビーイング 講演 パネル討論

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日本経済新聞社が10月6、7日の2日間にわたって開催したシンポジウムでは、企業経営や事業創生、自治体運営やまちづくり、投資やイノベーションといった多面的な観点から専門家がウェルビーイング向上のための施策を論じ合った。多くの議論で共通していたのは、幸福度や暮らしやすさの実現には単に事業や政策を実行するだけでなく、その効果を測定・検証しプロジェクトの改善につなげる不断の努力が必要との認識だった。

討論 人的資本】

<写真右から>
パーソルホールディングス 代表取締役社長 CEO 和田 孝雄氏
ロート製薬 取締役 CHRO 髙倉 千春氏
一橋大学CFO教育研究センター長/人的資本経営コンソーシアム会長 伊藤 邦雄氏
【モデレーター】
パーソル総合研究所 シンクタンク本部 主任研究員/慶應義塾大学大学院 特任講師 井上 亮太郎氏

兼業・副業も認め人材育成

井上 人的資本は人の持つ能力を資本として捉えた経済学用語で、個人の知識や技能、資格、意欲などを指す。人的資本への投資は、個人の健康状態の改善や幸福感の向上、社会的結束の強化など非経済的な利益をもたらすと言われ、最終的には経済的利益につながるとも定義されて注目されている。 

伊藤 私は人的資本経営を中心に置き、人材の中長期的な成長を支援して会社の成長につなげる「循環型経営」を推奨している。人的資本経営においては「人的資本への有効な投資」と「ステークホルダーへの情報開示」が大事だ。人的資本情報には、女性管理職比率などの比較可能な情報と、独自性のある自社の取り組みの2つがある。8月に「価値共創ガイダンス2.0」を公表したが、これに沿い価値創造ストーリーを作り、人的資本情報を組み込んでほしい。 

髙倉 今年、当社は20年ぶりに人事制度を改定。多様な個に重きを置かないと次の事業展開はできないと、「全員参画」を掲げて個人と会社の共成長を目指す。「ロートバリューポイント」で仕事の価値を全社・社会視点で評価し、半期ごとの各自の「ウェルビーイングポイント」を可視化していく。10年前から兼業・副業を広く認めているが、社内外での経験がウェルビーイングを高め、新しい視点を醸成している。個に焦点を当てたウェルビーイング経営の実現を目指している。

和田 当社は50年間人材ビジネスに携わっているが、人は仕事を通じて必ず成長することを学んだ。だからこそ個人の選択の幅を作り、可能性を広げることが重要だ。社内では副業・兼業制度に加え、自由に応募できる社内異動などにも一層力を入れていく。 事業としては、個人のはたらく選択肢を拡大し、偏在する「仕事と人材の能力のミスマッチ」を解消していくことで「はたらいて、笑おう。」のビジョンの実現につなげる。

 

【討論 投資】

BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長 中空 麻奈氏
みさき投資代表取締役社長 中神 康議氏
【モデレーター】
日経ESG経営フォーラム事業部長 田中 太郎

三位一体の経営を提案

田中 投資の観点からウェルビーイングと経営をどう考えているか。 

中神 ここ30年間の実質賃金の推移を見ると、各国は1.5倍前後実質賃金が上がっているが、日本はほとんど上がっていない。労働分配率も社員の熱意も非常に低い水準で、日本の経済的・精神的豊かさが危機にさらされている。もう一度経営を見直してウェルビーイングを目指すべきだ。 投資家をサステナブル経営のパートナーに迎え入れてはどうか。まず経営者と社員が十分に自社株式を持って経営への参画意欲を高め、そこに投資家の思考と技術を組み合わせ企業価値を上げる。その成果を3者で享受する「三位一体のサステナブル経営」を提案したい。 

田中 ウェルビーイングを投資の尺度として取り入れることは可能か。 

中空 ウェルビーイングには自己資本比率などのように決められたルールがあるわけではない。ROE(自己資本利益率)が上がった、信用力が改善したといっても収益への反映や、財務内容への影響までは完全にチェックできないのが現状だ。 ただ、少なくともウェルビーイングは「働き方」や「働きやすさ」などの質を担保しているため、そこに企業が気付いているかどうかが一つの線引きになるのでは。例えば社員が働く気満々の会社とそうでない会社では、今後確実に収益に差が出るだろう。タイムラグは発生するが、非財務情報が充実している会社は、これから確実に財務情報も良くなっていくと思う。 

田中 長期的にESGやウェルビーイングに取り組むことは重要だが、例えばPBR(株価純資産倍率)が1倍割れをしている会社が取り組むべきなのかという疑問もある。 

中空 企業は収益を上げてこそ存在意義があるので、PBR1倍割れの場合、ESGよりもまずはその問題点に向き合い、知見を出し合って改善していくことが大切だ。本業で利益を上げることを中心に、多くの人に幸せをもたらそうという心意気でやれば、企業として成功するのではないか。 

中神 オックスフォード大学のコリン・メイヤー教授が「利益とは、社会課題を解決した派生物だ」と発言していた。かつて日本で「三種の神器」の家電の供給が企業に利益をもたらしたように、時代ごとの切実な社会課題を解決すれば利益になる。ただ、その場合も他社とは異なるユニークなアプローチをしなければ利益は生まれないだろう。 そういう点に配慮しなければESGと利益は両立しないのではないか。

 

【討論 事業創生】

住友生命保険取締役代表執行役社長 高田 幸徳氏
慶應義塾大学 医学部医療政策・管理学教室教授 宮田 裕章氏
【モデレーター】日経BP総合研究所主席研究員 藤井 省吾

データ共有でベター・コ・ビーイング

藤井 事業を通じたウェルビーイング実現について議論したい。 

宮田 世界は持続可能な未来、多様な豊かさを考える方向に変わり、GDP(国内総生産)とGDW(国内総充実)の両輪で、ウェルビーイングという視点で社会を見る必要性が出てきた。さらに、一人だけのウェルビーイング追求ではなく、人々、社会がつながり互いのウェルビーイングを実現していくことを我々は「Better‐Co‐Being(ベター・コ・ビーイング)」と呼んでいる。 

高田 当社が2018年に発売した生命保険「バイタリティ(Vitality)」はリスクに備えるだけでなく、加入者の日常に寄り添い、健康増進活動をサポートしてウェルビーイングの実現に貢献することを目指している。行動経済学に基づく仕掛けがいくつも入っている。ベースはスマートフォンによるデータ共有がある。 今後、健康増進だけでなく、さらに広い領域でウェルビーイング実現を支援するWaaS(ウェルビーイング・アズ・ア・サービス)への進化も目指す。 

藤井 ベター・コ・ビーイング実現にはデータ共有が重要だと思うが。 

宮田 今までの社会は平均的な人に合うプロダクトを作って配り、中には合わない人もいるが、それはやむを得ないと考えてきた。しかし、データを使い人工知能(AI)と組み合わせれば、個々人に寄り添いつつコストを抑えられる時代になってきた。データをつなげば様々なことができる。 

高田 「バイタリティ」加入者の健康診断結果を見ると、血圧の数値が高めの人のうち10mmHg以上下がった人が約半数いた。累計販売数は120万件超だが、加入者の毎日の歩数や心拍などのデータを取得している。既に健康レポートの形で加入者のスマホアプリにフィードバックしているが、産官学の連携も生かし、さらに活用していく。 死亡率、入院率が低下することは、加入者だけでなく、保険会社にとっても望ましい。 

宮田 今まで社会、文明を動かしてきたのは、石炭や石油のように使うとなくなる資源だった。しかし、データは共有できる。奪い合いではなく共創、共生が大事だ。 高田 「け」「と」という2つのひらがながキーワードだ。「け」とはハレとケのケで、非日常を意味するハレに対し日常を意味する。生命保険も日常の健康データを取得、蓄積してウェルビーイングに役立てていく。「と」は「ともに」の「と」で、人と人、人と社会などの間を取り持つこと。加入者同士がSNSで交流するなど、実際に「バイタリティ」で様々なつながりが生まれている。「け」と「と」がベター・コ・ビーイングな社会を表している。

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