佐賀県、佐賀市、園芸施設機器メーカーの誠和(栃木県下野市)の三者が連携した、脱炭素を推進しながら農業を活性化する資源循環の取り組みが期待を集めている。2022年9月に日本経済新聞社が主催したSuper DX/SUM(超DXサミット)では「経済産業省中小企業庁のGo-Tech事業で取り組む、佐賀の事例をもとにした農工連携脱炭素技術について」と題するセッションを開催した。誠和の大出浩睦代表取締役がモデレーターとなり、佐賀県農業試験研究センターの石橋泰之副所長、佐賀市役所企画調整部バイオマス産業推進課の江島英文課長が、農業振興への取り組みや農工による産業横断的な脱炭素への取り組みを紹介した。
■脱炭素と農業発展に貢献する清掃工場の技術
誠和の大出浩睦代表が佐賀県、佐賀市と取り組む、経済産業省中小企業庁の成長型中小企業等研究開発支援事業(通称Go-Tech事業)について解説。工場などが排出するエネルギーを農業で活用する資源循環を進める取り組みで、誠和が産業横断的に脱炭素を推進するための循環型エネルギー活用ソフトウエアの開発を担っていることを紹介した。
大出氏は、現代に求められているのは持続可能性であり、脱炭素は重要な課題であると明言。「二酸化炭素(CO2)の巨大な吸収源である農業は極めて重要な産業で、工業界では捨てる部分の多かったCO2を植物に吸収させることで脱炭素と農業発展に貢献できる」と述べ、先進的な事例に取り組んでいるのが佐賀であると解説した。
佐賀市の江島英文課長は、同市のごみを焼却する清掃工場で発生するCO2を活用するための施設を16年に建設したと紹介。「アミン吸収法という方法により、食品添加物の基準をクリアするほどの純度99.5%以上のCO2を、1日10㌧回収できる能力を持っている」と話した。タンクに貯留したうえでパイプラインを通じ近隣の事業者に送っているという。供給を受けているのは藻類の培養事業者と環境配慮型のバジル栽培事業者、環境配慮型のキュウリ栽培事業者の3社。「かつては水田しかなかった清掃工場周辺に企業が進出したことで、50億円以上の経済効果を生み出すことにつながった」と江島氏は語った。22年度はさらに2社が進出する予定だという。
■「稼げる農業」で目標達成を目指す
江島氏は下水処理センターの処理水などを活用していることにも言及。のりの養殖期である冬場には栄養源となる窒素濃度の高い処理水を有明海に放流しているほか、「汚泥は全量肥料化し、ウクライナ情勢もあって完売する状況になっている。下水処理時に発生する消化ガスを使って発電することでセンターの電力自給率は約40%になっており、ここでも資源循環が進展している」と述べた。
一方、佐賀県農業試験研究センター副所長の石橋泰之氏は、同県でも農業への取り組みに注力していると語った。米の価格や需要量が減少するなかでも産出額が年間600億円前後で推移している園芸に着目した「さが園芸生産888億円推進事業(さが園芸888運動)」だ。28年に園芸農業の生産額を同888億円にするという高い目標を掲げ、「収益性の高い園芸生産が所得向上につながれば新たな担い手を確保でき、その好循環の延長線上に目標達成が見えてくる」と石橋氏は期待を寄せた。
JAさが杵藤(きとう)エリアでは農業ハウス内の環境を適切に制御する技術に加え、新規就農者を育成する取り組みによって、施設キュウリの販売額を6年で1.6倍、栽培面積を1.5倍に増やした実績があると説明した。新品種の開発も進めており、「イチゴは18年に出した『いちごさん』が1kgあたりの単価で過去最高を記録。かんきつ類では21年に出した『にじゅうまる』が従来品種の1.3倍の収量をあげている」と紹介した。新規就農者の確保・育成のためのトレーニングファームも順調で、修了生32人が佐賀県内で就農し、新たなトレーニングファームの設置準備も進めている。
■資源循環の好事例として全国に拡大
佐賀市と佐賀県の取り組みの紹介を受け、誠和の大出氏は同社がハウス栽培分野で施設園芸用の機器・設備・サービスを農家に提供しており、「トマト、ナス、キュウリ、パプリカ、イチゴではアジアトップレベルの栽培技術を有しており、ハウス栽培に使う機器等の製品化やハウスの建築支援、スマート農業の技術やデジタルサービスを提供している」と述べた。さらにエネルギーと植物成長の相関の知見を得て「投入エネルギーからトマトの収穫量予測を行うサービスも提供している」という。
大出氏はGo-Tech事業において佐賀市の農工炭素循環事例、誠和の予測技術、佐賀県の農業振興戦略を組み合わせ、「施設園芸を軸に資源循環の取り組みを推進するソフトウエアを開発し、ごみ処理施設を持つ日本全国の自治体に広げていきたい」と意欲を表明。工業や農業の脱炭素化にとどまらず、農業振興や地方創生、技術革新などにつなげて持続的社会実現に貢献することだと述べた。
石橋氏は今後について、農業試験研究センターとして生産者の所得向上につなげたいと話し、新品種や新技術開発に取り組むことを明らかにした。江島氏はCO2の提供にはまだ余裕があるとして、新たな企業の進出を呼びかけるとともに、バイオマス由来のCO2に興味のある企業との連携にも期待を示した。最後に大出氏は今後の取り組みも念頭に「地域の課題解決の好事例を他の地域に広げていくのは誠和の重要なミッション」と話し、自社の実証農場や、佐賀市の清掃工場、佐賀県の農業試験研究センターなどの視察も呼びかけ、機運の広がりに期待を示した。