SuperDX/SUM(超DXサミット)

農業DXの実現へ 異業種の知見活用を ワークショップ「デジタル技術と金融が照らす農業の進路」

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「農」や「食」への社会的関心が高まるなか、農業関連事業者だけでなく多様なプレーヤーが農業DX(デジタルトランスフォーメーション)へかかわりを深めるようになった。2022年9月に日本経済新聞社が主催したSuper DX/SUM(超DXサミット)でも「デジタル技術と金融が導く新たな農業の進路」と題したワークショップが議論を展開。EY ストラテジー・アンド・コンサルティング バンキング アンド キャピタルマーケッツ(銀行・証券)シニアマネージャーの神瀬功崇氏をモデレーターに、農業支援スタートアップ、金融系シンクタンク、大手プラットフォーマーのパネリストが、それぞれの立場や視点から農業DX実現に向けて意見を交わした。

■取り組みの方向性や資金調達に課題

ワークショップでは、農林中央金庫に在籍した経験があり、農林水産省の関連プロジェクトに名を連ねるEY Japanの神瀬功崇氏がモデレーターを務め、EY Japanが22年に「食の未来創造支援オフィス」を立ち上げ、農と食にかかわる課題解決に取り組んでいることを紹介して議論を始めた。農林中金総合研究所の小畑秀樹常務執行役員が、マクロの課題として過去20年間で日本の農地が1割、農業従事者が5割それぞれ減少し、農業生産力が量の面で縮小していることを指摘した。その上で、「農業DXを進めるには高齢化以外の部分で対処していくのが生産的である」と説いた。

小畑氏はスマート農業に関するPoC(概念実証)の課題にも言及。ハード系では自動走行トラクターやドローン、遠隔で見回りができるセンサーなどの省力化の取り組みが多く、ソフト系も営農管理システムやデータ分析など経営管理の高度化・効率化を強調する取り組みが多いことに触れ、「いずれも農家の売り上げを十分増加させるようなサービスになっていないところがいちばんの問題」と述べた。

続いて農業支援のスタートアップであるノウタス(東京・港)の髙橋明久代表取締役CEO(最高経営責任者)が、毎月の給与を基本とする一般社会と異なり、農家のお金のサイクルは年単位であると解説。収穫前が最もお金のない時期で、「高額な農機具を購入する際に助成金が出るまでのつなぎ融資を受けるのが難しいなど、適切な金融サービスが受けられていない」と現状を訴えた。

カギを握る適切なデータの利活用

次に神瀬氏がビッグデータを活かしきれない現状について提起したのに対し、小畑氏は「まずデータを使って何をするかがあり、それに即して集めるデータを決め、かつ集めたデータがさまざまに処理できるよう粒がそろっていなければならない」と明言。さらにScope3(製品の製造・販売・消費とあらゆるバリューチェーンに関わる排出量)で温暖化ガスを減らしたい金融機関が絡む場合には、関連データをどう取り込むかといった新たな視点もあると解説した。

髙橋氏は農業従事者を支援するPoCとして、農家のデータを収集して金融に活用するサービスをマイクロソフトとも提携して開発していると紹介。一つは事業とプライベートが混在しがちな家族農家の収支をきちんと管理できる「家計簿アプリ」で、もう一つが農業に特化した天気情報の配信を軸に、栽培データとひもづけて正確な作業アドバイスができる「お天気アプリ」だと述べた。そのうえで、「そこから得られたデータを基に農家をスコアリングし、閑散期の生活資金や農機具購入の際の融資促進につなげたい」と目的を語った。

一方、日本マイクロソフトデジタル・ガバメント統括本部の桐戸優作事業開発担当部長は、異業種からの示唆ということで製造業におけるDXの実績を報告。マイクロソフト自体がパソコンなどを作る製造業であり、製造業がDXを行うにはまず工場のなかでやりたいことを設計する必要があると指摘。同社が考える製造現場のDXは既存のOT(制御技術)レイヤーを壊してゼロから作り直すものではなく、それを活かしながらIT(情報技術)レイヤーを構築するものだと述べ、「OTとITの連携により工場の状態をリアルタイムに収集・見える化し、生産の最適化・高効率化を実現していく」と解説した。

匠のノウハウを最大限活かす

ここまでの意見交換を受け神瀬氏は、農業DXでは匠のノウハウといわれるものをどう形式知化していくかも重要になるのではと投げかけた。それを受け、小畑氏は形式知化された匠のデータを最大限生かせるのは自動化や遠隔管理ではないかと提起。「そこまでいけば、生産性を一気に向上させる可能性が広がり、将来的にはAI(人工知能)の分析により匠が経験したことのない温暖化や異常気象への対応も目指せる」と期待を込めた。

桐戸氏は米国やブラジルなどの農地が広大な国では、農家や農業関連の組織、金融機関などによるデータ共有が本格化していると紹介。「金融機関にとっては農作物の状況が予知しやすく融資判断の迅速化につながり、農家にとってはAIの力で熟練者のノウハウに追いつき追い越せる」と述べた。

髙橋氏は食と農の「食」の部分について、農作物を食べた後で価格を決めることができる「ノウタスモール」を9月に開設し、市場価格が下がっている巨峰に1.4倍の価格がついたことも報告。さらに観光農園においても自動化などを進める実験店舗を今秋に開設すると話し、「単にデジタル化を進めるのではなく農業に参画する敷居を少しでも下げていきたい」と語った。桐戸氏はゲームの要素を取り入れた「ゲーミフィケーション」をいかに農業に活用するかを考え、「ゲームを使い教育レベルで農業に親しみを持ってもらえるよう取り組んでいる」と述べた。

神瀬氏は最後に、農業を中心としつつ異業種からの知見もうまく導入し、農業DXを進めるための意見交換ができたことに謝意を表明。融資、決済といった得意分野も含めながら、農業の高度化を支援していきたいと締めくくった。

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