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職場トイレで具合が悪くなった時、助けを呼べますか? 職場トイレのリスク管理 健康管理編(上)健康企業代表・医師 亀田高志

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日経BizGate読者の皆さんは職場内に限らず、トイレの中で具合が悪くなった経験はありますか。新型コロナウイルス感染症の流行前は飲み過ぎた人が駅や飲食店のトイレで嘔吐(おうと)したり、動けなくなったりしている様子を見たことがあるかもしれません。

■排便・排尿後に失神してけが

トイレ内で排便や排尿した後に特段の病気がなくとも失神することがあります。失神とは一時的に意識を失うことを意味します。排便や排尿をきっかけに失神が起きる原因は「血管迷走神経反射」と呼ばれるものです。食べ物を飲み込んだ後やせき込んだ後、朝礼のように長時間立ちっぱなしの状態も失神のきっかけになり得ます。過労や脱水、恐怖を覚える体験も失神を起こす契機になります。脳への血流が減少して気を失う前には冷や汗が出たり、気持ち悪くなったり、むかむかと吐き気を催すこともあります。

血管迷走神経反射による失神は、経過が良好で繰り返し起きない限りは問題ないことが多いのです。ただドラマや映画のシーンと異なり、失神した人は重力の影響で壁や床に頭や背中、肩などを叩きつけられます。意識が戻った後、頭にできた傷口からの出血、手指や腕の打撲、骨折などで激しい痛みを感じることになるかもしれません。

■排便に伴う急激な血圧上昇も

排便の際、いきむことで血圧が変動することをご存じでしょうか。排便した後もしばらくの間、血圧が高めに留まる可能性も医学的に指摘されています。特に便秘の傾向のある人ほど、血圧が変動して脳卒中や心臓発作を起こしやすくなる可能性があると考えられています。これから冬場になりますが、オフィスや事務所の中と違って、職場内のトイレはあまり暖房が効いていないかもしれません。トイレの中で冷たい便座に座った時に急激に血圧が上昇し、脳卒中などを起こしやすくなることもあります。

事業主には現在、70歳までの雇用の努力義務が課せられており、60歳以上のシニア層の働く人が増えています。動脈硬化は通常は加齢で進行します。その結果、動脈硬化の進行に伴う脳出血や脳梗塞等の脳卒中、狭心症や心筋梗塞といった心疾患を患う人が職場に増えていくことが懸念されます。

脳卒中を起こした人は経験したことのない激しい頭痛や手足のまひ、強いめまいなどの厳しい症状を感じることになります。狭心症や心筋梗塞では"胸を締め付けられる"と表現される、脂汗が出るほどの強い胸の痛みや苦しさを味わいます。心臓を養うための血管である冠動脈の流れが遮られる部位や範囲によっては、重症の不整脈を起こして、あっと言う間に意識を失ってしまうケースもあります。

■助けを呼べるかがポイント

トイレの使い方を工夫するだけで脳卒中や心臓発作を完全に防ぐことはできません。排便の時にいきまないわけにはいかないと考える人も多いでしょう。それよりも、血管迷走神経反射に伴う失神やけが、あるいは激しい頭痛や胸痛が発生した際に、トイレの外にいる誰かに向かって助けを呼ぶことができるのかがポイントになります。

言うまでもなく、極めてプライバシーの保たれた環境でなければ、落ち着いて用を足すことはできません。けれども大きなけがを負ったり、脳卒中、狭心症や心筋梗塞になったりした時には、大声を出してトイレの外にいる誰かに助けを呼ぶのは難しいでしょう。他方、一刻も早く医療につながらなければ、命に関わる事態となります。

そうした事態に備えて、オフィスや事務所、工場等のトイレに関する事項を含む法的な定めである「事務所衛生基準規則」と「労働安全衛生規則」の改正に伴って発出した通達の中で、厚生労働省は次のような説明を行っています。

・便所の中に簡単に押すことができる非常用ブザーを設置すること
・救護のために外部から解錠できるマスターキーを用意しておくこと

これらは前回の記事(「あなたの職場トイレは安全ですか? 増加するリスク」)で説明した「独立個室型の便所」に対する例外的な取り扱いの観点から強調されているのです。しかし、多機能トイレ、バリアフリートイレ、ユニバーサルトイレといった設備が整い、空間的に遮られたトイレ以外の通常の便房でも、けがをしたり、重病になったりした際に誰かを呼ばなければならない事態を想定しなければなりません。

読者の皆さんは普段、職場のトイレを利用する際に失神してけがをしたり、脳卒中や心臓発作に襲われたりすることを考えたことがないかもしれません。これからは万が一のケースに備え、独立固定型の便所を含めて日常的に利用している職場のトイレの設備を確認してください。職場が入居するビルの管理部門や職場の同僚に知らせる術がないと感じたら、上述の2点を自社の担当部署の方に相談してみてもよいでしょう。

(「職場トイレのリスク管理」は随時掲載します)

亀田 高志(かめだ・たかし)
株式会社健康企業代表・医師・労働衛生コンサルタント。1991年産業医科大学卒。大手企業の産業医、産業医科大学講師を経て、2006年から産業医科大学設立のベンチャー企業の創業社長。16年に退任後、健康経営やメンタルヘルス対策等のコンサルティングや講演を手がける。著書に「【図解】新型コロナウイルス 職場の対策マニュアル」「【図解】新型コロナウイルス メンタルヘルス対策」(エクスナレッジ)、「健康診断という『病』」(日経プレミアシリーズ)、「課題ごとに解決! 健康経営マニュアル」(日本法令)、「改訂版 人事担当者のためのメンタルヘルス復職支援」(労務行政)などがある。

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