商品・サービスを売るためには「営業力」が必要です。これまで企業における営業活動とは営業パーソンがやるものだとされてきました。しかし、デジタル時代になって顧客はウェブを使って自分で好きなように情報収集し、購買プロセスを進めるようになっています。情報が簡単に、大量に入手できるようになったことで、かえってどう判断してよいか悩み、専門知識を持ったプロに「相談相手」としての役割を求めるようになってきています。
この連載では、書籍『両利きの営業力 デジタル×アナログで勝つ4つの思考術』(日本経済新聞出版)をもとに、デジタルとアナログの両方を利き腕のようにうまく使いこなすことで、新たな顧客、新たなビジネスを継続的に創出できる「両利きの営業力」に必要な思考術について解説します。
営業におけるDXとは
新型コロナウイルス感染症まん延の影響もあり、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は多くの企業における重要課題になっています。ちなみにそのDXとは「企業がデータやデジタル技術を活用し、組織やビジネスモデルを変革し続け、価値提供の方法を抜本的に変えること」とされています。
ここで着目すべきポイントは2つ。1つ目は「変革し続け」というところ。目新しいデジタルツールを導入しただけでは変革をし続けることにはなりません。そして2つ目は「価値提供の方法を抜本的に変える」です。顧客、社会、そして自社で働く社員に対する価値提供の方法を抜本的に変えるという高い目標になっています。これができないとDXにはならないと考えると、DXというのはとても難しいものであり、日本企業の多くがうまくいっていないというのも理解できます。
営業においても、コロナの影響でリモートワークが進む中、デジタル技術を活用して営業活動の生産性向上を実現しようとする取り組みに注目が集まっています。
しかしながら、「抜本的に変える」というのが言葉としては理解できても、実際にやろうとすると、「うまくいかなかったらどうする?」「エビデンスはあるのか?」「そもそもどう変えたらいいのかわからない」などという声がどこからともなく聞こえてきて、結果としてイメージしやすく、既存の営業活動に大きな影響を与えないSFA(営業支援システム)の導入に取り組む企業は少なくありません。また、すでにSFAが導入されていて、現場の声を聞きながらスマートフォン対応の新しいものに入れ替えるだけ、というケースも多いと思います。どちらにしても、DXのコンセプトの「価値提供の方法を根本的に変える」ということではなく、とりあえず「目新しいITツールを導入する」ということにしかなっていないのです。
組織としてデータ活用ができているか
ある企業では定期的にSFAに入力された内容をハイパフォーマーとそれ以外で比較分析し、活動内容やコメントの内容にどのような違いがあったかを営業パーソンとマネジャーにフィードバックしています。そして、全員で意識した方がよい情報項目はパターン化し、SFAの情報項目として追加・修正を行い、常に意識するように促す工夫をしています。
このように自分たちが入力した情報が客観的に分析され、営業活動をより良くするための気づきが得られたり、しくみが改善されたり、必要なスキルを身につけるための研修が行われたりと、営業パーソンにとって役に立つものが戻ってくるという明確な「メリット」を体感できるサイクルができあがっており、SFAが不可欠な道具になっています。
これは現場の努力ではなく、会社として営業活動データを使って営業生産性を向上させていく取り組みができていることを意味します。しかしながら多くの企業ではそうなっておらず、「データを活用するのはマネージャの仕事」とし、大した教育も行わずに「マネージャなんだから、自分で考えて、自分のマネジメントに活用せよ」としてしまっています。
このような状況の中で、「とりあえずできることから……」とボチボチやっていていいのでしょうか。