日経メタバースプロジェクト

メタバース、都市や店舗の機能向上 日経メタバースコンソーシアム特集

ものづくり 地方創生 メタバース AR・VR

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

事業領域や規模を問わず、様々な企業がメタバースに関心を寄せるようになってきた。自治体や公共施設による仮想空間の設置例も増えている。企業や組織のメタバース活用を支えるサービスやソリューションにはどのようなものがあるか。「日経メタバースコンソーシアム未来委員会」にも参画する4社の事例を紹介する。

大日本印刷、XRで挑む地域創生

大日本印刷は2021年3月に「XRコミュニケーション事業」を部署横断で始動。XR(Extended Reality)ソリューションやメタバースの開発を通じ、居住地などにかかわらず、多様なユーザーがリアルとバーチャルを往来する新たな体験や経済圏の創出に取り組んでいる。

中心プロジェクトは「地域共創型XRまちづくり PARALLEL CITY(パラレルシティ)」だ。実在する街や、博物館などの公共施設をバーチャル空間上で再現。そこで行うイベントなどにより実空間の価値や機能を拡張し、地方創生へつなぐ。地方自治体や公共施設の所有者が公認するバーチャル空間である点に特色がある。

パラレルシティという名称には「リアルとバーチャルが並列(パラレル)し、連動する街」という意味がある。実空間は1つしかないが、パラレルシティは同時に複数構築でき、同一日時に異なる用途で活用することもできる。プロジェクトの根底にあるビジョンは、実空間と並列するバーチャル空間で行われる多彩なイベントや文化事業によって新たなコミュニケーションが生まれ、実空間の価値を拡張するというものだ。

21年4月の札幌市公認空間「PARALLEL SAPPORO KITA3JO」の街びらきを皮切りに、23年3月までに全国で5つのパラレルシティがオープン。25年までに30カ所のオープンを目指す。

同社ABセンターXRコミュニケーション事業開発ユニットビジネス推進部部長の宮川尚氏は語る。

「XRは印刷から発展した先端技術であり、既存事業と地続きの領域だ。『P&I(Printing & Information=印刷と情報処理技術)イノベーションで未来の当たり前をつくる。』というブランドステートメントに沿った挑戦を、今後も続ける」

 

PwC、戦略策定まで総合サポート

PwC Japanグループは、企業のメタバース市場参入のためのリサーチや課題の洗い出し、戦略策定までを総合的にサポートしている。PwCコンサルティングのディレクター岩花修平氏は、業界や業種を問わず多様な企業がメタバースに関心を持つ中、同グループが提供するメタバース関連のサービスについて次のように説明する。

「通常のコンサルティングサービスに加え、勉強会や体験会なども実施している。メタバースについて知る機会を求める企業が多いためだ。新規事業機会として期待が寄せられている一方、足元には、基本的な理解が進んでいない、社会受容性が醸成されるまでの期間が不透明といった課題もある」

実証実験や実例を通した知見の蓄積や共有が求められる中、同グループでは、社内でもメタバースを積極的に活用。2022年には、PwCコンサルティングが全社員を対象とする実証実験を実施した。メタバースは、社員のエンゲージメント(会社への貢献意欲)向上に効果があると分かった一方、VRゴーグルに酔う社員が一定数いた。こうした取り組みで得た知見は今後のコンサルティングサービスにも生かされる。

またPwCアドバイザリーは、22年にベトナムで行われたスマートシティーにおけるメタバース活用の可能性を検討する調査にも参画。メタバース事業の海外展開や、あらゆる社会課題解決への貢献を見据えた研究や実証事業にも力を注いでいる。

 

 

凸版印刷、産業利用に堪えるリアルさ

凸版印刷は1990年代の黎明(れいめい)期からVRや3DCGの研究開発に取り組ん できた。ビジネス利用に堪えるリアルさやセキュリティーに一貫してこだわり、高精細3Dデータ処理技術などを磨いてきた。

メタバースは、バーチャル空間から得る情報にアバターによるコミュニケーションが掛け合わされたものと認識。バーチャル空間と実空間をシームレスにつなぐコミュニケーションの実現は、ビジネスの意思決定プロセスにも影響を与えると予見し、産業領域でのメタバース利用拡大に向けたソリューションを開発している。

2022年4月には、メタバースサービス基盤「MiraVerse(ミラバース)」の提供を開始。誰もが安全かつ簡単に、極めてリアルなメタバース空間を構築できる基盤だ。現実に存在する製品や空間を、色味や質感まで忠実に3Dで再現する。現実には存在しないモノや空間の再現も可能だ。実際の利用例としては住宅設備や自動車のシミュレーションなどがある。

22年10月には、ホームページなどのウェブ上に高精細な3Dデータを表現できる「MiraVerse Core(ミラバースコア)」の提供を開始。手軽に高精細バーチャル空間を体験できる環境の提供を通じ、ユーザーの購入の意思決定を強力に後押しする。

同社情報コミュニケーション事業本部先端表現技術開発本部クロスボーダー戦略部部長の半田高広氏は、現状のメタバース市場の課題を次のように指摘する。

「ユーザーの拡大が重要だ。鍵を握るのは、メタバースに人を呼び込む楽しい仕掛けや体験の創出ではないか。メタバースの利用シーン拡大に向け、この課題を突破する道筋を探っていく」

 

 

博報堂DYホールディングス、生活者の可能性を拡張

博報堂DYホールディングスは、メタバース領域の取り組みにおいて「生活者エンパワーメント」を重視する。目指すのは、時空間などの縛りから生活者を解き放つメタバースの強みを生かして新たな体験価値を創出し、生活者の可能性や能力を拡張(エンパワーメント)することだ。グループのテクノロジーとクリエーティビティーを結集し、多彩なプロジェクトを展開している。

メタバース空間での広告サービスを手掛けるグループ内のプロジェクトチーム「arrova(アローバ)」は、2022年5月、全世界に2億人以上のユーザーを持つゲーミングプラットフォーム「ROBLOX」での国内向け広告販売を開始。メタバースでの広告販売として国内初のプロジェクトだ。

同社は、メタバース空間でユーザーの"分身"として動くアバターの可能性にも着目する。

21年11月には、バーチャル空間で同時に複数の試着体験ができる3Dアバター試着サービス「じぶんランウェイ」のプロトタイプを開発。XRによる新たな体験価値やソリューションの創出に取り組むグループ横断プロジェクト「HAKUHODO-XR」により、実装を見据えた実証実験が進められている。

同社マーケティング・テクノロジー・センター研究員の三浦慎平氏は、今後の展望を次のように語る。

「メタバースの浸透や拡がりは、生活者の心理や行動、現実世界にどんな影響を及ぼすか、多様なプレーヤーと議論を重ねて知見を蓄積したい。今後もメタバースと現実世界とのつながりや循環を意識した体験デザインを実践する」

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

ものづくり 地方創生 メタバース AR・VR

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。