医心館が提唱する「医療施設型ホスピス」は、終末期と重度な慢性期の医療ニーズの高い患者に医療サービスを続けながら、安心・安全に暮らしてもらうための療養場所を提供している。
大柴「医療技術の進歩によって長期間の入院が必要なくなったことや、高齢化で膨らみ続ける医療費を抑制するため、国は入院日数の短縮と在宅への復帰を推進しています。ただ、その中でがん末期の人や人工呼吸器の装着で呼吸管理が必要な人などの中には、退院後の療養場所に困る方がいます。在宅で訪問診療や看護を受ける手はありますが、家族の負担は大きく、介護施設でも夜間に看護師が常駐している施設は多くありません。医心館はこうした方々を受け入れ、安心して暮らすことをお手伝いしてきました」
大学病院でがん患者の看護に携わってきた高橋氏は、日ごろの看護業務で気づいた医療現場における社会課題を医心館が解決できると話す。
高橋「大学病院でがんの治療を終えて自宅や老人ホームに戻る患者の中には、十分に体力が回復しないうちに戻っていく人が少なくありません。例えば、消化器がんの治療を終えたけれど、十分な食事をとれないうちに退院しなければならない患者もいました。そのため退院したけれどもまた具合が悪くなって入院する方がいました。一通りの治療を終えた患者をいかに在宅で受け入れていただくかが大きな問題であり、医心館のことを聞いたとき、在宅でも手厚いケアを受けられるのはすてきだなと感じました」
ホスピスというと積極的な治療を終えた方が入居する「みとり」に特化した施設というイメージが強い。
大柴「医心館は決しておみとりに特化した施設ではありません。積極的な治療の継続を希望し、抗がん剤治療や放射線治療等を通院で受ける方もいます。患者本人の希望、意思決定が大切ですので、本人や家族とよく話し合った上で、主治医、ケアマネージャーと連携します」
診療機能は外部の医師、調剤機能は外部の薬剤師にアウトソーシングしており、かつ、ケアマネージャーも原則として外部にお任せし、看護師、介護士ならではのプロフェッショナルなケアを24時間365日提供している。
大柴「看護師は訪問診療の医師と連携を取り、看護師ならではの観察力で入居者の状態を評価し、医師の指示に沿った適正な医療処置を行います。看護師と介護士は密に情報共有を行い、入居者に質の高いサービスを提供できるよう工夫しています」
医心館には医療を必要とする重度な患者が多く入居することから、通常の介護施設に比べ、慎重なケアが必要になる。看護師が関与する業務の範囲も拡大し責任も重くなる。
高橋「医心館の看護業務では容体の変化にいち早く的確に気づくための知識や経験が求められます。業務は大変なこともありますが、看護師が主体的に取り組めることがやりがいにつながっています。通常の医療機関に比べると、患者や家族と深い関わり合いが持てることも大きな魅力です」
地域医療を支えるプラットフォームへ
現在、医心館は東日本を中心に63施設(2022年11月時点)を展開している。23年9月期までに76施設、定員3,795人を達成する見込みだ。業績は好調で、アンビスホールディングスの22年9月期の連結売上高は約230億円と5年前から10倍以上に増えた。
大柴「現在の開設地域は東日本が中心です。選定にあたっては専門部署が事前に入念なマーケティング調査を行います。そして医療リソースの偏在などの理由による満たされない医療ニーズを見つけ、それをサポートするよう医心館を開設してきました」
医療・介護の財源には限りがある。日本は公的保険制度を維持しつつ、世界に類を見ない少子高齢化社会に突入した。医療資源の偏在に苦しむ地域医療の強化、再生のプラットフォームとなることが医心館には求められている。