新世代まちづくり・観光 北の大地で多彩に萌芽 日経地方創生フォーラムin北海道 イノベーション for SDGs

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脱炭素への世界的な潮流と共に、コロナ禍に対応したリモートワークも後押しし、新たな地方創生の動きが各地で加速している。その一角を担うのが北海道だ。今回の日経地方創生フォーラムは、北海道の各市町村で萌芽(ほうが)する地域力向上への取り組みにフォーカス。余市町のワインを生かした地元産業の活性化、SDGs(持続可能な開発目標)未来都市として早期の脱炭素を目指すニセコ町の挑戦、小樽市の滞在型観光への取り組みなどそれぞれの魅力を引き出そうとする自治体の先進事例、デジタルトランスフォーメーション(DX)で変わる酪農や医療が紹介されたほか、多彩な分野のリーダーたちによる活気ある議論が展開された。

【ご挨拶】脱炭素の先導役に期待

前・内閣府特命担当大臣(地方創生、少子化対策、男女共同参画) 野田聖子氏

内閣府はかねて地方自治体や各省庁と連携し、安心して働ける仕事づくりや結婚、出産、子育ての希望をかなえる環境づくり、魅力的なまちづくり、地方への人の流れづくりなどを進めてきた。今後はデジタル田園都市国家構想の下、DXを活用した地方創生に取り組みたいと考えている。

本フォーラムはSDGsを原動力とする地方創生の先進事例を発信する意義深いイベントだ。北海道は全国に先駆けて「ゼロカーボン」を宣言し、地域で脱炭素に取り組まれている。北海道が全国の先導役になることを期待し、関係省庁をメンバーとするタスクフォースを立ち上げ、この取り組みを積極的に支援していきたい。

○セッション1 活性化の好機 ゼロカーボン北海道

【基調講演】政治の責任で時間軸提示

北海道知事 鈴木 直道氏

北海道では国に先駆けて2050年までに温暖化ガス実質ゼロを目指す「ゼロカーボン北海道」を宣言した。30年度の目標は48%削減を掲げている。タスクフォースを東京と北海道に設け、国と連携している。国が選ぶ脱炭素先行地域は北海道が3カ所と全国最多。洋上風力とともに、北海道と本州を結ぶ海底送電ケーブルの整備にも力を入れ、30年度までの運転開始を国に要請した。大規模データセンター整備のため、25年度までの太平洋側の海底通信ケーブルの整備も必要。民間が計画を立てられるよう、時間軸を提示するのが私たち政治の責任だと考える。エネルギー、デジタル、食の3つで北海道の価値を上げていきたい。

【基調講演】札幌の魅力を次世代へ

札幌市長 秋元 克広氏

気候変動の影響で雪・氷資源の減少が課題になる中、積雪寒冷地にある札幌市の役割は貴重な天然雪を守ることだと考える。2030年冬季に開催される国際的スポーツイベントの招致を目指し、同年に向けては北海道新幹線の札幌開業などの都心の再開発と環境エネルギー問題をセットにして取り組んでいく。ゼロカーボン都市実現に向けては気候変動対策行動計画を策定し30年の温暖化ガス排出量削減目標値を16年比55%減に掲げた。脱炭素先行地域に向け、建築物の省エネ化や、再エネ設備の導入促進、水素モデル街区などにも全力で取り組む。大都市近傍に天然雪のスキー場がある札幌の魅力を次世代につなぐことが使命だ。

【パネルディスカッション】

パネリスト
佐々木康行氏 北海道コカ・コーラボトリング  代表取締役社長
●鈴木 昭徳氏 生活協同組合コープさっぽろ  組織本部 本部長補佐(SDGs推進担当)
●小林 晋也氏 ファームノートホールディングス 代表取締役
●井澤 文俊氏 北海道ガス 取締役常務執行役員 経営企画本部長
●上野 昌裕氏 北海道電力 取締役 常務執行役員
●小角 武嗣氏 札幌市 まちづくり政策局長
コーディネーター
●高村ゆかり氏 東京大学未来ビジョン研究センター教授

高村 ゼロカーボンを目指す理由の一つが温暖化ガスによる気候変動。世界の平均気温上昇は自然生態系や健康に影響を及ぼしている。一方、ゼロカーボンの取り組みは地域の雇用をつくり経済を活性化させる好機だ。北海道のリーディング企業の取り組みを聞きたい。

佐々木 北海道コカ・コーラの脱炭素の取り組みのポイントは、サプライチェーン全体を網羅、省エネ投資、社員全員の参画、ペットボトルリサイクルの推進だ。具体的には省エネ自販機やペットボトル圧縮機の設置、バイオガスのエネルギー源としてコーヒーかすの活用等がある。使用済みペットボトルを回収して再びペットボトルをつくる取り組みは廃棄物対策に加え二酸化炭素(CO2)排出削減にも大きな効果がある。脱炭素社会実現には再生可能エネルギー供給量を拡大する社会インフラ整備、省エネ投資を促進する仕組み構築、産官連携スキーム構築が重要になる。

■再エネ利用を拡大

鈴木 コープさっぽろでは「北海道の問題を解決し、地域に貢献しよう」を今年度の方針に掲げた。ゼロカーボン北海道に貢献するため、事業で使う電力を再エネ化する「RE100」に加盟し2030年までに60%、40年までに100%を目指す。昨年までにCO2排出量を再エネ電力で50%以上削減した。物流センターのそばにリサイクル施設を設けて自前で資源回収し、運搬経費と環境負荷も低減。マイボトル運動や海岸清掃を通じ環境意識啓発にも貢献している。自治体に代わり昼食を提供するスクールランチは、北海道全体としてエネルギーと人的資源を有効活用できる。

小林 酪農のオペレーション標準化や育種改良を通じ相対的に牛の数を減らすことで環境負荷を軽減したい。Farmnote Cloudという牛の飼育をスマート管理する製品は約1900の日本の農家で導入され、牛の発情や体調の変化をセンシングするデバイスや、牛のゲノム検査サービスも提供している。築30年の牛舎を改築して最先端技術を導入した営農も開始し、乳量で全国や十勝平均を上回る生産性を維持している。離農を考えていた生産者に畑の仕事を続けてもらい、我々は牛と人の管理だけを行う分業モデルも採用。生産性向上による環境負荷軽減のノウハウを蓄積し、プロダクトを磨くサイクルを回すことが我々のビジネスになっている。

井澤 北海道ガスはカーボンニュートラルに向けて機能的で効果的な省エネをまずはしっかり進める。その取り組みの一つがガスマイホーム発電のコレモの普及拡大で、1件当たりの年間CO2排出量を約1.5トン削減し余剰電力は北ガスの電気として活用。家庭のエネルギーを見える化するエミネルというサービスも展開している。6市町と連携協定を結び、脱炭素先行地域の一つである上士幌町では畜産バイオマスからのバイオガス発電を運営しエネルギーを地産地消、新たに40人の雇用も創出した。今年6月には道南の厚沢部町と農業用ダムを活用した水力発電の実現に向けた取り組みを開始している。

上野 北海道は再エネ資源で全国随一のポテンシャルを持つ。現在、化石燃料への依存度が高く、移動や輸送に多くのエネルギーを消費しているので、CO2フリーの電気や水素利用への転換でゼロカーボン北海道の実現に大きく寄与できると考える。再エネを30年までに30万キロワット以上増やす目標を掲げ、石狩湾での洋上風力、バイオマスや地熱、水力などの新規電源の開発に携わっている。ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の普及促進、初期費用ゼロで手軽に太陽光を利用できるサービスも展開。水素の利活用では、水電解による水素製造装置の工事に着手。北海道が水素社会の先駆けになれるよう取り組んでいる。

小角 札幌市の総合計画「まちづくり戦略ビジョン」では、重要概念としてユニバーサル(共生)、ウェルネス(健康)、スマート(快適・先端)を掲げる。ゼロカーボンをスマート社会実現の取り組みの一つと位置づけ、環境分野の基本目標に「世界に冠たる環境都市」を掲げ、省エネ・再エネ、移動の脱炭素化、資源循環、ライフスタイル変革などに取り組んでいる。またエネルギーネットワークへの接続や建物のZEB化推進のために「札幌都心E!まち開発推進制度」を立ち上げ、先導的取り組みには容積率緩和などインセンティブを付けている。さらに今後は、再エネポテンシャルが高い他の自治体と連携して道全体でエネルギーの地産地消を実現したい。

社会全体で取り組む

高村 地域課題を踏まえた次の一手と、北海道の未来について聞きたい。

佐々木 社会全体がゼロカーボンに向かうなか、目指すべき姿は北海道独自の循環型モデルの実現になる。

鈴木 食とエネルギーの自給率向上が大事になる。次世代に「つなぐ」ことを意識しながら取り組みを進めたい。

小林 地球への慈悲を持つリーダーが増えればイノベーションが加速し技術と地球の調和が生まれる。自然豊かな北海道は、それができるリーダーが生まれやすいと思う。

井澤 原料の調達から供給先までのデータを見える化してつなげる情報プラットフォームの構築が、省エネ、その先の脱炭素化には重要。各地域が発展し魅力を広げることが北海道の自力経済力向上につながる。

上野 エネルギーの安定供給が大切だ。再エネを有効活用した電化の推進や農業関係のDX等も進めたい。

小角 地域全体が連携して環境に配慮したモデルを提示するために、都市部が率先する必要がある。環境課題の解決と同時に地域経済の活性化につながればいい。

高村 地域愛が強い北海道だからこそできるゼロカーボンと地方創生に期待したい。

○セッション2 政策奏功し銘醸地へ飛躍

【基調鼎談】

曽我 貴彦氏 ドメーヌ・タカヒコ代表
●齊藤 啓輔氏 余市町長
●白石 小百合氏 元テレビ東京アナウンサー

白石 ドメーヌ・タカヒコと余市町の関わりを伺いたい。

曽我 余市町では1980年代からヨーロッパ系ワイン専用種ぶどうの本格的な栽培が始まった。余市のぶどうは世界レベルの高品質で生産量も非常に安定し、ワイナリーの最適地と感じ、2010年、ドメーヌ・タカヒコを設立した。36年ぶりに設立された2軒目のワイナリーだったが、今は隣の仁木町も含めた直径7キロメートルの範囲に、建設中も含めて24軒のワイナリーがある。

齊藤 余市町が北の銘醸地として大きな飛躍を遂げた転換点がドメーヌ・タカヒコの余市への進出だ。そこで修業した人々が独立してワイナリーを立ち上げ、加速度的に伸びていった。ワイン産業は余市町の成長産業であり、ガストロノミー(美食)や観光など様々な産業の連関性がある。集中的な投資によって日本をけん引する一助になることを目指している。

白石 ワイン特区の指定を受け、余市町はまちづくりにワインを積極的に取り入れている。具体的な取り組みは。

齊藤 1つはマーケティング戦略だ。20年にコペンハーゲンの有名レストラン「ノーマ」でドメーヌ・タカヒコのワインが選ばれるという世界的快挙を成し遂げた。北海道と北欧は狩猟採集から始まった料理という共通点があることから、北欧に焦点を当てた成果と考える。世界的に人気の品種、ピノノワールやシャルドネに改植すると行政が1.5倍の補助金を出す政策も取っている。これらの品種の銘醸地になることで地域や農家の所得を上げることにつながる。人材の確保にも努め、余市を銘醸地としてさらに飛躍させるべく政策に取り組んでいる。

曽我 余市に来た当時、「ぶどう」ではなく「ワイン」の産地として発展させたいと思った。100万本製造するワイナリー1軒よりも、1万本製造するワイナリーを100軒つくるほうがより豊かで楽しくなる。「ワイン特区」によって条件が緩和され、年間2000リットル以上のワインをつくればワイン醸造免許が取得可能になった。私たちも「良いぶどうを生産する農家であれば誰でもワインがつくれる」と示すべく農機具小屋を改造したワイナリーをつくり、研修生を受け入れる取り組みを行っている。原料生産の町からの脱却を図り、グローバルな観点で付加価値化を図ることで地域や産業がもっと面白くなると思う。

【パネルディスカッション】ワインと美食 余市の潜在力最大限に

パネリスト
●曽我 貴彦氏
●齊藤 啓輔氏
●仁木 偉氏 Yoichi LOOP料理長
●手越 祐也氏 アーティスト
●髭男爵・ひぐち君 余市町ワイン大使
司会 白石 小百合氏

白石 余市町のワインとワイン産業についてどう思うか。

仁木 日本ワイン自体が世界各地の著名なワインと比べると認知度は高くないが、ドメーヌ・タカヒコのようなワイナリーも今後どんどん増えてきてさらに盛り上がると感じる。当店では「余市ペアリング」を看板に掲げており、全国から訪れる客も増えてきた。スペインやフランスのワインとは違う「薄旨」で「だし感」のある余市ワインと合わせるために、素材の味を生かした料理を意識している。

齊藤 ワインはトライブ(種族)マーケティングといい、ワインと美食のカテゴリーの人々を誘引するものとして地域の発展戦略として重要なファクターになっている。ワインと高級レストランの余市進出は非常に喜ばしいと考えている。

曽我 私たちのワインを目当てに来た方々が各レストランの料理に驚くことも、またレストラン目当ての方々がワインに驚くこともある。すごい勢いでそのような広がりが生まれていると感じている。

和食との相性も絶賛

手越 僕は大のワイン好きで、今年3月に初めてドメーヌ・タカヒコのワインを飲ませてもらって感銘を受けた。「和食=白ワイン」という先入観がある中で、ドメーヌ・タカヒコの赤ワインを食事会に持参して寿司とのペアリングを提案したら皆絶賛してくれた。日本食と日本ワインは新しいマリアージュ。発信力のある立場として余市のワインなど、良いものを世界に伝えていきたい。

ひぐち君 ドメーヌ・タカヒコのワインから日本ワインにはまり、全国のワイナリーと畑を200軒ほど回っている。なかでも余市は町長自身がワインエキスパートの資格を持つ。町が一つになり、ワインを軸にペアリングとして魚介や野菜、イチゴなど、全ての産業をひもづけてアピールしているところがすごい。魚卵とワインは合わないと言われるが、合うことが分かったのも衝撃だった。

白石 余市のワインを国内外に発信する上で、どのような取り組みやコラボレーションを考えているか。

齊藤 それほど生産量も多くないため、世界に広く発信するのは効果的ではないと考えている。ロンドンやニューヨークなど個室系レストランに重点的にアピールしてワイン好きに広めるなどの戦略を取っている。最近では世界の自治体で初めてワイングラスの老舗、オーストリアのリーデル社と協定を結んだ。今後お互いにウィンウィンの形になる関係を築いていきたい。

いいもの世界へ発信

手越 エンタメ業界の人間として、日本にはすばらしいものがあるのに世界に発信する方法や新しい時代に合う手段に順応できていないのは残念。齊藤町長と初めて会った時に「いいものはどんどん発信していくべき」と伺い、余市の取り組みとパワーは本当にすてきだと感じた。

ひぐち君 余市のぶどう栽培農家の名前はワインラベルに記載されていることが多く、それが農家のブランディングになっている。ワイナリーと農家、双方のモチベーションが上がる効果を感じた。

仁木 当店はワインを楽しめる店として営業しているが、もっと農家を交えたイベントなど、農家にスポットライトが当たる企画にも取り組んでいきたいと考えている。

曽我 ワインにはいろいろな人々が集まる魅力があり、自分たちの責任の重さを改めて感じている。私の出身の長野県小布施町もそうだが、まちづくりは何か一つ突破口を見つけて発展していくことが大事だ。余市は漁業にもすごくポテンシャルがあり、それらの食材は柔らかい日本のワインとよく合う。広くアピールして、町がより良い形で発展していってほしいと思う。

○セッション3

【基調講演】遺産生かし滞在型観光へ

小樽市長 迫 俊哉氏 

市政100年を迎える小樽市は近年、高齢化率が40%を超え、人口減少が著しい。一方、豊かな自然や歴史遺産を擁する人気観光地でもあり、その魅力を引き出すことが、企業人材の移住促進や若い世代の転出抑制につながると考えている。

2030年の北海道新幹線札幌延伸に向け、いま取り組んでいるのが通過型観光から滞在型観光への転換だ。その鍵となるのが小樽の歴史性。商社や銀行、小樽運河の倉庫群など近代建造物の保全・活用と町並み景観向上のため、歴史的風致維持向上計画の策定を進め、人を呼び込むまちづくりを実現したい。

セッション4

【基調講演】自然環境継承し経済自立

ニセコ町長 片山 健也氏 

ニセコ町の人口は約5千人。近年は微増傾向が続いており、現在34カ国の人々が居住している。私たちのような小さな町が持続するには住民自治が重要だと考え、情報共有・住民参加を行い、日本初の自治基本条例も制定・施行した。

町の考え方は「将来を見据えた厳しい『景観・環境規制』が共感に基づく『良質な投資』を生む」だ。農業も観光も環境がキーワードであり、様々な合意形成や事業者への規制を設けているが、それを乗り越えて共にやってくれる事業者には最大限の協力をしながらまちづくりを進めている。

住民自治を基本として自然環境の継承、経済の自立を行いSDGsを回すことが私たちのまちづくりだ。今年度中には林業地域商社を設立し、皆で森を育ててCO2吸収量の最大化を目指す。こうした地方創生の取り組みで、年間6億円強の税収が今年10億円を超えると予測される。気候非常事態宣言やまちづくりの担い手の多様化などで、さらなるニセコの活性化を図りたい。

【パネルディスカッション】SDGs未来都市へ ニセコの取り組み本格化

パネリスト
●片山 健也氏 ニセコ町長
●早田 宏徳氏 WELLNEST HOME創業者/ニセコまち取締役
●村上 敦氏 ニセコまち取締役/クラブヴォーバン代表
コーディネーター
蟹江 憲史氏 慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授

蟹江 国際政治を研究すると、北欧諸国や中小国がフットワークの軽快さやネットワークの強さを生かして国連でリーダーシップを取り、その取り組みが世界に広がっていくことが多いことに気づく。同じことが中小の都市や企業にも言える。SDGs未来都市に初代に採択されたニセコ町から学ぶところは多い。

村上 当社は官民連携のまちづくり会社で、NISEKO生活・モデル地区構想事業の街区「ニセコミライ」に携わる。まちづくりの理念を強化し世帯数の増加による住宅不足の課題を解決しながら脱炭素社会を実現する住宅地を目指す。来年から1棟目を着工し2030年完成予定だ。

早田 12年にウェルネストホームを創業しUA値(外皮平均熱還流率)0.26以下の高性能住宅のみを供給してきた。培った技術で「ニセコミライ」では、戸建て住宅よりも外皮面積が少なくエネルギーロスも少ない高性能集合住宅に注力する。北海道電力と包括連携協定を結んでおり、地域のエネルギーの安定にも貢献していきたい。

■厳しい条例で好循環

蟹江 ニセコ町は住民参加の政策で多様性を重視し、透明性のあるまちづくりを実施している。財政面ではどのように取り組んできたのか。

片山 ニセコ町は農業地帯だが、農業基盤整備事業によって農業所得が飛躍的に上がっている。すぐ近くに観光地のニセコ地区があるので、ダイレクトに運ぶことで運輸にかかるお金もなくせる。そういう効率的な地産地消の仕組みによって地域でお金が循環する要素も相当増えてきた。昔は7割近くのお金が町外に出ていたが、今は3割程度になり税収やまちづくりに直結して経済効果を生んでいる。

村上 街区整備に当たり、景観条例に基づき住民説明会を開く必要がある。私たちは約2時間の説明会を12回ほど開き、開発意図をていねいに説明し反対意見を含めて様々な意見を拝聴し議論した。開発事業者としては労力がかかったが真摯に説明したことで相互理解が進み、中には応援してくれる方も出てきた。良い条例だと感じている。

片山 景観条例や環境基本条例は開発の足かせにはなるだろう。しかし町が持続するには環境と景観が命。市場の草刈り場にはしないと20数年前から決めていた。だからこそ小さなことでも町民が応援するなど、支え合う関係のまちづくりにつながっている。

早田 景観に引かれてニセコに移住する人も多い。だからこそ住民参加型の景観の勉強会を何度も行い、厳しい批判も受けながら妥協点を見いだして建物を建てることがニセコ町というブランドにつながっている。様々な意見を聞いて健全経営を行うことが大事だと感じている。

100年続く住宅を

蟹江 未来に向けてどんな取り組みを考えているか。

早田 ドイツを訪問した時、築100年以上の街並みが残っていた。今でも快適に住むことができ、祖父が建てた家で孫が家賃収入を得て経済が循環している。一方、日本の木造住宅は30~40年で壊れてしまい、日本人の経済力を相当削いでいる。ニセコで当社が目指すのは100年長持ちする賃貸住宅を作り、100年先の子どもたちが幸せに暮らせる社会を作ることだ。

村上 地方創生で人口減の地域に移住してもらおうとしても、古い空き家ばかりで住宅インフラが整っていなければ非常に難しい。高度経済成長期に公団を作って住宅整備したように優れた住宅ストックを安価に提供して夢を与える取り組みが必要だ。ライフワークとして各地に住宅インフラを整えていきたい。

片山 今、地球環境負荷低減と子育て環境の支援という大きな待ったなしが私たちの社会に来ている。これまでの前任主義から脱皮して暮らしを変えていくために、皆の意見を結集していけば面白い社会がきっとできるはずだ。

○クロージングセッション IoTで地域医療が進化

社会医療法人孝仁会 理事長 齋藤 孝次氏 

「地域にあっても世界最先端の医療を提供したい」と考え、釧路で脳神経外科専門病院を開業している。道東地域で初の磁気共鳴画像装置(MRI)を導入するなど、孝仁会は率先して先端医療を地域に提供してきた。

あらゆるモノがインターネットにつながるIoTと医療の発展には密接な関係があり、特にMRIや陽電子放射断層撮影装置(PET)などの画像診断装置の進歩は地域の遠隔医療を飛躍的に進化させた。指定管理者制度で運営する羅臼町の町立病院がその一例だ。釧路まで救急車で3時間かかる知床らうす国民健康保険診療所にもコンピューター断層撮影装置(CT)やMRIを導入し検査ができる状況を整えた。1993年から運用しているCTを持つ医療機関を結んだネットワークを発展させ電子カルテの情報を共有することで、現地の医師の専門外の案件でも羅臼で専門医の診断が受けられるようになった。地域医療でネットワークを最大限活用した情報共有が非常に有効と実感している。

少子高齢化が進む現在、各市町村にとって医療の確保は大きな使命だ。その一方で医師など医療従事者の大都市志向は非常に強く、確保が困難になっているため、よりIoTが必要になっていると感じる。地域で様々な医療・介護サービスを受けながら生涯を全うする地域包括ケアシステムを国が推進しているが、孝仁会も中堅不動産の大倉(大阪市)と提携し、家庭で収集した日々の健康データを遠隔医療に生かすシステムを開発している。

日経地方創生フォーラムin北海道 イノベーション for SDGs
~本気の地方創生と北海道経済の最前線~
具体的事例から考える持続可能な経済循環
【主催】日本経済新聞社
【後援】内閣府 環境省 資源エネルギー庁 農林水産省北海道農政事務所
【協賛】WELLNEST HOME、北海道コカ・コーラボトリング、大倉、フィールドオブドリームス、木村情報技術、生活協同組合コープさっぽろ、北海道ガス、ファームノート、IKEUCHI GROUP、北海道電力、正和電工、北川組鉄工所

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