有識者委員会は2月8日、都内で初会合を開いた。ほぼ全員が経済システムに乗ったビジネスモデルを構築すべきだと提唱。万博開催年までに①海洋ごみ対策②生態系と食の安全確保③気候変動・脱炭素に寄与するブルーカーボン研究―などを重点に提言をとりまとめることにした。
日本が議長国として5月に広島で開く主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)をにらむ国際発信の重要性も複数が指摘。リーダーシップ発揮へ世界動向や企業事例も調査し、提言に生かす。
海洋ごみを巡り、プラスチックの循環利用を目指す連携組織CLOMAの会長も務める花王の沢田道隆会長は「日本の廃プラ回収率は92%と高いが、世界でイニシアチブを取れていない」と指摘。「現状打破には市場化・産業化を図るデザインとスピードが重要」とも力説した。
生態系・食の分野では東北大の近藤倫生教授が「生態系を予測可能な自然資本に変えて企業や非営利組織(NPO)(NPO)、大学とマッチングを進め、情報を価値化すべきだ」と強調。シーフードレガシーの花岡和佳男社長は「持続可能なフードシステム構築へ日本も生産構造再編を」と訴えた。
気候変動に絡んではサラヤの更家悠介社長が海中生物などに二酸化炭素(CO2)を吸収させるブルーカーボンに言及。「国内も研究が進み技術力は高い。国連海洋会議との接続や政策的提言も考えたい」と語った。
国際発信については「国際会議前に関係者の調整ができていない場面がある」(九州大・清野聡子准教授)、「アジアと共に議論を」(BNPパリバ証券・中空麻奈氏)などの声が出た。
発言要旨 ブルーカーボンにも照準
角南氏 国内のリテラシー向上が必要。水産庁や全国漁業協同組合連合会(全漁連)と「海業」を推進すべきだ。漁港を中心にレジャー・教育など新視点で価値を生むモデル地区づくりを考えたい。
沢田氏 日本の廃プラ回収率は92%と高いが、国際的にイニシアチブを取れずにいる。市場化・産業化のデザインと速度が重要。エシカル意識の向上を含む未来デザインにつながる活動にしたい。
石川氏 自分が神戸大の学生と共に発足させたNPO(非営利組織)の目標は「べき論」でなく、実際に容器包装ごみが減る社会をつくること。取り組み推進には様々なセクターの人たちとの協働もポイントだ。
石井氏 地球システムの安定性に関わる海の多面性を念頭に、海とかかわる人の社会・経済システムの新たなあり方を追求したい。特に食料システムの持続可能性を考えると水産業の役割は大きい。
本多氏 国連環境計画(UNEP)の加盟193カ国・地域の廃棄物中、注目されるプラスチックごみは約12%で、海に流れ出るものは0.1%程度。海ごみだけでなく廃棄物全体を見据えた対策を議論したい。
中空氏 世界6位の海岸線の長さは日本の大きな資源。ルールづくりで先陣を切れる可能性もある。岸田政権は脱炭素分野に官民連携で150兆円の資金投入を発表した。具体的提案につなげたい。
花岡氏 食糧問題の中で海洋での持続可能なフードシステムの構築は国際的な緊急課題。世界最大の水産大国だった日本も漁獲量はピークの3分の1、漁業従事者の人口は4分の1に減った。生産構造の根本的再編を考える時だ。
近藤氏 海の持続的利用には、科学を通じて巨大で複雑な生態系を把握し、予測可能な自然資本に変える必要がある。生物多様性観測ネットワーク「ANEMONE(アネモネ)」は水を集めて分析すれば科学者不在でも地域で観測できる。この情報の価値化も課題だ。
清野氏 日本は問題に直面した地域に補助金を投入してきた。海洋ごみも技術開発はしたが実装に課題がある。住民の多世代協働で潜在力を発揮できる状況を確保したい。地域社会の活力を生む経済の仕組み実現が求められる。
更家氏 対馬市は企業などと連携協定を結び、ごみの100%資源化を目指し、生物資源のエネルギー化やブルーカーボンの研究もしている。国連海洋会議との接続や政策提言の作成を期待したい。
青木 20年間で地球環境への企業意識が激変、特に脱炭素の対応が進む。それをビジネスとして継続させるよう後押しする議論をしたい。
藤田 海は気候変動、生物多様性、資源循環でシナジー効果を出せる。産学や投資家の連携でビジネス創出にも期待したい。
有識者委員会メンバー
「海洋問題で存在感が大きい日本、世界の期待に応えるリーダーシップの発揮急げ」
笹川平和財団理事長
角南 篤氏
すなみ・あつし 1988(昭63)年米ジョージタウン大School of Foreign Service卒、2001年米コロンビア大で政治学博士号取得。15年内閣府参与などを経て20年現職。政策研究大学院大学長特別補佐や文科、外務両省の審議会委員も兼務。岡山市出身。57歳
「2050年までに容器包装100%リサイクル目指し、神戸市ではプラ容器の回収実証実験も支援」
クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)会長
花王会長
沢田 道隆氏
さわだ・みちたか 1981(昭56)年阪大院工学研究科プロセス工学博士前期課程修了、花王石鹸(現花王)へ。素材開発研究所室長、サニタリー研究所長を経て2008年取締役、12年社長、21年会長。経団連生活サービス委員長なども兼務。大阪市出身。67歳
「水平リサイクルはネットゼロ社会移行への技術開発・社会変革に有効なツール」
叡啓大学ソーシャルシステムデザイン学部特任教授
石川 雅紀氏
いしかわ・まさのぶ 1978(昭53)年東大工学部化学工学科卒、同大院博士課程修了、工学博士。専門は循環経済学、廃棄物管理政策など。食品や容器包装のリサイクル法を研究し、中国の拡大生産者責任制度導入にも携わる。2020年現職。神戸市出身。69歳
「金融関係者としてESG(環境・社会・企業統治)マーケットの動向などの視点も提起したい」
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部副会長
中空 麻奈氏
なかぞら・まな 1991(平成3)年慶大経済学部卒、野村総研へ。97年野村アセットマネジメントでクレジットアナリストに。モルガン・スタンレー証券、JPモルガン証券を経て、2008年10月BNPパリバ証券クレジット調査部長。20年現職。
「支援で終わらせず、キャッシュフロー生む途上国のビジネスモデル構築を」
国連環境計画(UNEP) プログラムオフィサー
本多 俊一氏
ほんだ・しゅんいち 1975(昭50)年静岡県立大院修了、環境科学博士。専門は廃棄物管理。環境省国立水俣病総合研究センター、同省廃棄物・リサイクル対策部を経て2015年UNEPへ。「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」対策事業に深く関わる。静岡県出身。47歳
「海と人とのかかわり方を転換して地球システムの安定を守るため、自然資本としての価値づけも重要」
東京大学理事、グローバル・コモンズ・センターダイレクター
石井 菜穂子氏
いしい・なおこ 1981(昭56)年東大経済学部卒、大蔵(現財務)省へ。国際通貨基金(IMF)などを経て2010年副財務官。12年地球環境ファシリティCEO。20年現職。人類の共有財産管理の国際枠組み構築に取り組む。博士(国際協力学)、東京都出身。64歳
「中堅・若手を継続的に国際会議に参加させる体制に向け研究者への人的投資を」
九州大学大学院工学研究院 環境社会部門准教授
清野 聡子氏
せいの・さとこ 1991(平成3)年東大院修了、工学(土木工学)博士。同大院総合文化研究科助手などを経て2010年現職。沿岸・流域環境保全学、水生生物学、生態工学の分野で地域の知恵を生かす取り組みを研究、関連の著作多数。神奈川県逗子市出身。58歳
「海を予想可能な自然資本にするため、環境DNAで生物多様性観測ネットワーク構築目指す」
東北大学大学院 生命科学研究科教授
近藤 倫生氏
こんどう・みちお 2001(平13)年京大院修了、博士(理学)。専門は数理・統計モデルや海での生態モニタリングデータなどを通した生態学現象の共通原理の理論的解明で、関連の受賞多数。環境DNA学会(2018年設立)初代会長。18年現職。名古屋市出身。49歳
「世界3位の輸入水産物市場持つ日本、持続性や社会的責任追及が国際成長市場参入の活路」
シーフードレガシー社長
花岡 和佳男氏
はなおか・わかお シンガポールで幼少期を過ごし2001(平成13)年米フロリダ工科大海洋環境学・海洋生物学部卒。15年シーフードレガシー設立、現職。内閣府規制改革推進会議専門委員などを歴任、日本の環境課題解決を探る。山梨県出身。45歳
「ゼロ・エミッション実現へ、ビジネス通じた解決が我々のミッションに」
サラヤ社長
NPOゼリ・ジャパン理事長
更家 悠介氏
さらや・ゆうすけ 1974(昭49)年阪大工学部卒、75年米カリフォルニア大バークレー校修士、76年サラヤへ。98年社長。日本青年会議所会頭など歴任、10年紫綬褒章受章。資源の循環利用を目指すNPOゼリ・ジャパン理事長も務める。三重県出身。71歳
「環境技術の普及へ、カーボンプライシングなど脱炭素技術含む経済的支援も必要」
日本経済新聞社編集委員 青木 慎一
あおき・しんいち 1991(平成3)年名大院工学研究科修了、日本経済新聞社へ。大阪本社編集委員、科学技術部次長、同部長を経て2022年現職。IT(情報技術)や環境問題、自然災害・防災、素粒子物理学や数学などの領域を取材。福岡県出身。57歳
「海は気候変動、生物多様性、資源循環の対策のシナジー効果を出せる場所。成果を世界へ」
日経ESGシニアエディター/東北大学大学院教授
ブルーオーシャン・フォーラム有識者委員会モデレーター 藤田 香
ふじた・かおり 東大理学部卒。日経BPで「ナショナルジオグラフィック日本版」副編集長を経て現職。東北大院教授などを兼任、環境省中央環境審議会委員。著書に「SDGsとESG時代の生物多様性・自然資本経営」。富山県魚津市出身。海洋保全、ビジネス視点で提言へ