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あなたの職場トイレ ダイバーシティに対応してますか 職場トイレのリスク管理 健康企業代表・医師 亀田高志

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日経BizGate読者の皆さんの会社では、人材の多様性を意味する「ダイバーシティ」や様々な人材の一体性を示す「インクルージョン」というメッセージを発信していますか。それを実践できていると感じているでしょうか。欧米各国と比べて、これらのキーワードを国内企業が唱えていても、実際には女性活躍、高齢者と障害者の雇用に留まる傾向があります。政府の方針や法律の定めには従うものの、コスト負担を強いられているだけ、と考える企業等の関係者は少なくないようです。職場のトイレでは、そうしたギャップが浮き彫りになる面があります。今後は健康面や特有の事情から、社員がトイレを利用する際に問題が生じないよう配慮していく必要があります。

「オストメイト」がストレスなく利用できるか

大腸がんや膀胱(ぼうこう)がんの手術後などに人工肛門や人工膀胱を造設した人を「オストメイト」と呼びます。便意や尿意を感じることができず、我慢することも難しく、パウチと呼ばれる便や尿をためる袋を腹部に装着します。一定時間が過ぎたら、パウチの排せつ物を便器や汚物流しに捨てる必要があり、その際にはパウチや腹部も洗浄します。

70歳までの就業機会の確保が求められる現在、50代から60代と大腸がんや膀胱がんと診断され、オストメイトとなる可能性が少しずつ高まってきます。ちなみに直腸がんを含む大腸がんのリスクには喫煙や継続した飲酒の習慣に加えて、肥満も含まれます。膀胱がんでは喫煙習慣が明らかなリスクとされています。

がんと診断され、治療を受けた人が様々な媒体でその経験を語ることが増えています。今後はシニア層の部下やご自身がオストメイトとなる可能性も考えておく必要があります。全ての患者に人工肛門や人工膀胱が必要になるわけではないですが、大腸がん、膀胱がんともに男性に多く、50代以降に増加傾向が認められます。

こうした人々に必要なのが、いわゆる多機能トイレです。大きなビルや駅、百貨店などで見かけることが多いでしょう。働いている7000人の回答を集めた調査では、職場に利用可能な多機能トイレが「ある」と回答した人は約3割に留まります。その利用目的のうち「オストメイト対応」は10.7%とされています(「事業所における労働者の休養、清潔保持等に関する調査」独立行政法人 労働政策研究・研修機構 調査シリーズNo.205)。

急な腹痛、下痢でもトイレに行きやすいか

皆さんの職場にはオストメイトの方が気兼ねなく利用できる多機能トイレがあるでしょうか。一般のトイレでは排せつ物を捨てたり、パウチを洗浄したりするのは難しく、十分なスペースがないために衣服や下着が汚れてしまった場合に強いストレスと困難を感じることでしょう。排せつ物の臭いをさせながら働くわけにはいきませんし、周囲の人はすぐに気づくでしょうから、何らかのトラブルも危惧されます。

政府と厚生労働省はがん等を抱えながら働く人の増加に伴って、「病気の治療と仕事の両立支援」と称する対応を企業等に求めています。その中で重要なのは、職場復帰の際や復帰後に治療や病状に合わせた働き方ができる就業規則や社内規定といったルールが整備されているか、そもそもそうした診断や治療について職場で相談ができるのか、という点です。部下が病気に関して申告しやすいように気を配り、産業医等の専門家から配慮を求められた際には、利用可能な多機能トイレを探して、柔軟に利用できるよう検討する必要があります。

この両立支援の対象には突然の下痢、腹痛を起こす難病も含まれています。あるいは何らかのストレスがかかるとそうした症状を起こしやすい人もいます。多機能トイレでなくとも構わない人もいると思いますが、いずれにおいても、気兼ねなくトイレを利用できることが大切です。職場のルールを尊重しながら、逐一申告しなくてもトイレに行く時間が確保できる休止時間を設けるように配慮することも必要です。

障害者が利用しやすいトイレなのか

近年、障害者の就労支援対策が進められて、障害者雇用率制度として、事業主には身体障害者、知的障害者、精神障害者の割合として「法定雇用率」を民間企業では2.3%以上(43.5人に1人以上)にする義務が定められています(障害者雇用促進法43条第1項)。

管理職としては、車いすを利用する部下がいた場合には、多機能トイレと同様にバリアフリーに配慮したトイレの確保を考える必要があります。先述の調査で多機能トイレがあると回答した2100人余りのうち、その利用実態としては「車いすでの利用」(77.1%)が最多で、「脚の具合が悪いとき」(28.0%)、「腕や手の具合がわるいとき」(17.1%)も少なくないことが分かります。

障害者を雇用した場合には、障害による支障や困りごとを可能な範囲で解消する努力を行う合理的配慮を提供することになります。身体障害者はトイレの利用に関して、配慮を必要とするケースがあります。例えば、肢体の不自由な人には、移動の際の支障がないようトイレの出入り口や中に不要な物を置いたり、放置したりしないこと、席をトイレに行きやすい場所とすること、費用等が許せばバリアフリートイレに改修したり、設置したりすること、顧客用のバリアフリートイレを利用できるようにすることなどの検討が望ましいのです。ちなみにオストメイトの方や難病の人は、障害者雇用の枠組みに含まれるケースもあります(厚生労働省「合理的配慮指針事例集 第四版」)。

LGBTQ+の方が利用しやすいトイレか

性的マイノリティーの人たちの人権が守られていない状況が少しずつ解消されつつある昨今ですが、職場のトイレで問題が生じるケースがあります。例えば、「心の性」と称される「性自認」と、「身体の性」と称される出生時に判断される「生物学的な性」とが異なるトランスジェンダーの人の場合です。

身体の性は女性であって性自認は男性の人、あるいは身体の性は男性であって性自認は女性の人は、男女別のトイレしか設置されていないと、周囲の視線や言葉によって、トイレに行きづらい状況に追い込まれてしまいます。その結果、過度にトイレを我慢したり、水分や食事を控えたりするようになって、体調を崩しやすくなります。

部下からそうした申告があった場合、無用なストレスにさらされたり、体調を崩したりすることがないように配慮することが望ましいのです。男女別トイレで男性が青色、女性が赤色と分けられてきたように、本来は生物学的な性と性自認のパターンに応じたトイレがあるべきでしょう。しかし、スペースや費用あるいは社会的な理解の面から、現実的には性別にかかわりなく利用できるトイレ、例えば多機能トイレ、バリアフリートイレがその代わりになると考えられます。青色や赤色ではない緑色で性自認等にかかわりなく利用しやすいトイレの設置を進めている自治体などもあります。

「ダイバーシティ」や「インクルージョン」をうたう企業の本来の目的は、個人と組織の生産性と創造性の向上であるはずです。今回触れたような課題や事情を抱えた人でもトイレの利用で不都合や無用なストレスの無いように努めつつ、そうした人だからこそ出せるアイデアや工夫を自職場の運営に生かしてゆくことが、これからの管理職には求められるのではないでしょうか。

亀田 高志(かめだ・たかし)
労働衛生コンサルタント、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医
 1991年産業医科大学医学部卒。職場のメンタルヘルス対策、高年齢労働に伴う安全衛生・健康管理及び感染症を含む危機管理対策を専門とし、企業や自治体、人事担当者や専門家向けにコンサルティングと教育・啓発を手掛ける。福岡産業保健総合支援センター産業保健相談員、国際EAP協会日本支部理事、日本産業衛生学会エイジマネジメント研究会世話人を務める。社会保険労務士がメンタルヘルス対策等を学ぶ「健康企業推進研究会」を主宰する。
 著書は『管理職ガイド~はじめてでも分かる若手のトリセツ(令和のZ世代を受け入れ、育て、問題に対処するポイント)』(労働開発研究会)、『第2版 管理職のためのメンタルヘルス・マネジメント』(労務行政)、『改訂版 人事担当者のためのメンタルヘルス復職支援』(同)、『【図解】新型コロナウイルス メンタルヘルス対策』(エクスナレッジ)、『課題ごとに解決!健康経営マニュアル』(日本法令)、『社労士がすぐに使える!メンタルヘルス実務対応の知識とスキル』(同)等。

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