ウェルビーイング学会は、日本に生きる一人一人のウェルビーイング実感を明らかにする目的で21年に設立された。産官学金が連携し、医学や心理学まで含めた専門家が結集して様々な角度から幸福度を研究している。
GDWとは、国内におけるウェルビーイング実感を示す新しい指標だ。GDP が「客観的な豊かさ」を示す指標だとすると、GDWは「主観的な豊かさ」を示す指標で、相互補完的なものになる。例えば英国ではGDWの悪化が見られた後でブレグジット(EU 離脱)が起こるなど、GDP だけでは予測できなかった社会的混乱の先行指標ともなっている。
今回のウェルビーイング実感調査は、国際標準とされる「キャントリルの階梯」という測定法で行われた。質問は0から10のハシゴがあり、10点が最も理想的な生活、0点を最悪の生活として、「今現在どの段にいると感じるか」「5年後にどの段にいると思うか」の2問を用いた。ウェルビーイング実感は、現在7点以上かつ5 年後が8点以上を選んだ人を「高い」、今が4 点以下かつ5 年後が4 点以下を選んだ人を「低い」とした。
日本の22 年7~9月期は、ウェルビーイング実感が高い人が27%。前期比では3ポイント下降した。一方、ウェルビーイング実感が低い人は、前期比で2 ポイント増え12%となった。22 年7~9月期のGDP が前期比0.2%減少したことも考慮すれば、日本人のウェルビーイング実感は下降傾向にあると受け取れる。
同様にウェルビーイング実感が高い人の割合を47 都道府県別に推定したところ、神奈川県が30.7%で1位。2 位は東京(29.4%)、3 位は兵庫(28.3%)だった。神奈川は21年4 ~ 6月の四半期調査開始以降、6 期連続で1 位となった。
ウェルビーイング学会副代表理事の鈴木寛氏は「このデータを材料に様々な議論が起こることを期待している。政府がウェルビーイング測定に動き始めたこともあり、主観的ウェルビーイング向上への意識が高い地方自治体も出はじめた。この動きを加速していく意図もあって都道府県別データを公開した」と述べ、今回の発表開始をきっかけに主観的ウェルビーイングに対する関心が高まることへの期待感を表明した。また、ウェルビーイング学会はじめ学術界から、様々な分析や政策づくりの方法構築の可能性をさらに広げていく考えも明らかにした。
ウェルビーイング学会代表理事 前野 隆司氏(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授)
GDWの公開は幸福度の優劣比較ではなく定点観測により各地域の幸福度向上を目指すための道標にしてもらうことが目的です。時系列変化を把握することで、人々のウェルビーイング実感の向上の一助になることを願っています。
鈴木 寛氏(東京大学公共政策大学院教授 兼 慶應義塾大学政策・メディア研究科教授)
主観的ウェルビーイングを継続的にモニターすれば、従来の社会指標では得られなかった分析、予想が可能になります。例えば、全国1位となった神奈川県は「未病政策」、コロナ対策などの推進に努めたことで、県民が健康の維持向上についてポジティブな意識を持ったと推測されます。こうした分析は日本全体のウェルビーイング向上に寄与するはずです。