日経メタバースプロジェクト

小室哲哉氏「360度音響が高めるメタバースの没入感」 第2回日経メタバースシンポジウム対談から

対談 メタバース AR・VR

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メタバースにおける視覚体験の没入感を高めるデバイスとして、拡張現実(AR)の世界を体験するためのヘッドマウントディスプレー(HMD)が注目されている。聴覚体験や音楽体験の没入感を高めるためには、どのようなテクノロジーが開発されているのか。「第2回日経メタバースシンポジウム」では、ソニーの360立体音響技術を用いた音楽体験「360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティーオーディオ)」の特長や可能性について、同社の社員と音楽家の小室哲哉氏が語り合った。音楽体験の未来を展望した対談の内容を紹介する。

小室 哲哉氏 音楽家/TM NETWORK
渡辺 忠敏氏 ソニー 360 Reality Audioコンテンツ制作スペシャリスト
原田 しずお氏 ソニー・ミュージックスタジオ エンジニア
聞き手 山田 剛 日本経済新聞社 日経イノベーション・ラボ 上席研究員

360度から音が降り注ぐ新しい音楽体験

山田 360度から音が降り注ぐような音楽体験を可能にする「イマーシブオーディオ」が、音楽の聴き方やつくり方、さらにはメタバースの没入感にも影響をもたらすといわれている。最新のイマーシブオーディオ技術について触れる前に、「第1回日経メタバースシンポジウム」で話した内容を簡単におさらいしたい。前回、メタバースの発展により、アーティストとファンの関係、距離感が変わるという話が出た。

小室 メタバース空間でのライブなら、それぞれのファンが自分にとって最高の場所で楽しめる。席の抽選結果に一喜一憂することもなくなり、アーティストはファンの応援により丁寧に応えられるようになるだろう。アーティストが提供するのは、楽曲のみならず映像まで含めたものへと変化する。総合的なアートとして、音楽を含めた体験を提供するアーティストもすでに増えている。また、音楽体験そのものがアップデートされ、音響設備の整ったスタジオやホールにいるような豊かな音の体験を多くの人が享受できるようになるだろう。音楽の再生技術の進化の恩恵も大きい。

渡辺 360 Reality Audioは、自分の周り360度から音が降り注ぐような音楽体験を実現する。音楽再生の技術やデバイスはこれまで、単一スピーカーで再生するモノラル、2つ以上のスピーカーで再生するステレオへと進化してきた。そして現在、360度すべての方向から音が降りそそぐ音楽体験 360 Reality Audioが登場した。ボーカルやギター、ドラムなど、楽曲を構成する一つひとつの音を、聞く人を囲む球状の空間のどこにでも配置できるサウンドフィールドを構築することで没入感と臨場感ある音を実現できる。

小室 まるで自分が球体の中に入って音楽を聴いているような感覚を味わえる。どの音がどこからどのように鳴るようにするかを精度高く設計できるので、アーティストの表現の選択肢も広がるのではないか。従来はライブでしか実現できなかった音の響きを、リリース時から再現するといったことも可能になるだろう。

渡辺 聴き手のハードルを極力低くすることにもこだわった。ソフトウエアの再生技術を活用しているので、手持ちのヘッドホンでも高品質の音楽体験を味わえる。全メーカーのヘッドホンで楽しめるが、良い体験を求めるユーザー向けに360 Reality Audio認定ヘッドホンも販売している。これらを使用する場合、専用アプリから耳の写真を撮影してクラウドにアップするとユーザーの耳の形に合わせてヘッドホンの音響特性を最適化することも可能だ。

聞く人を包むような包容力

小室 1989年にリリースしたソロデビュー曲「RUNNING TO HORIZON 206 Mix」を360 Reality Audioで聞いてみた。一つひとつの音の存在感が際立つ楽曲本来の持ち味も相まって、360 Reality Audioでの再生に向いていると感じた。当時、おもちゃ箱をひっくり返すようなイメージでつくった曲だ。

原田 360 Reality Audio楽曲は現在、1万5000曲ほどあり、Amazon Musicなどのストリーミングサービスを通じてダウンロードできる。普段、360 Reality Audioで配信する楽曲の音のオブジェクト(要素)の編集を担当しているが、マウスのドラッグや数値の入力など、簡単な操作で直感的に一つひとつの音を配置でき、操作もスムーズだ。TM NETWORKの「Get Wild」も、360 Reality Audioのために編集した。いわずと知れた名曲であり、この曲に深い思い入れを持つファンも大勢いる。そうしたことも踏まえ、楽曲の世界観を壊さぬように注意しながら、高い臨場感と没入感が味わえる360 Reality Audioの価値も発揮できる編集を試みた。

小室 低音の安定感があり、一つひとつの音のピースがかちっとはまっている。当時、自分でミックスした時よりも、音のまとまり感が高いのではないか。聞く人を包むような包容力を感じる。ユーザーの持つ音響設備に関係なくこれだけの音を再現できる360 Reality Audioがあれば、音楽の創造の可能性も広がるだろう。例えば、川の音や鳥の声といった自然音を360 Reality Audioで聴くと、これまでにないリラックス感が味わえそうだ。ミュージシャンでなくても、音を通じて表現したいものがある人にはうってつけのクリエーティブツールともいえる。

課題は「移動による音の変化」の再現

小室 メタバース時代の到来や音響技術の進化により、音楽体験は確実に変化している。今後の課題は、「移動の音」の再現ではないか。例えば現実世界でも、一歩前に進むごとに、自分の後方にいる人の話し声が遠のいたり、前方にある踏切の音が近づいたりと、音の聞こえ方が変わる。メタバース空間でも、こうした移動による音の変化を再現できるようになれば、没入感はさらに高まるだろう。音の位相は、臨場感やリアルさと深く関わっている。

【日経からのお知らせ】第2回日経メタバースシンポジウム(2022年12月14〜15日)の模様は日経チャンネルからアーカイブ動画をご視聴いただけます。
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