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細田守監督「現実世界をより良く変えるメタバースに」 第2回日経メタバースシンポジウム 講演から

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20年以上にわたり、インターネットやデジタルの世界と人間社会との関わりをテーマとするアニメーション映画を製作してきた細田守監督は「デジタルは現実世界に影響を与えるからこそ価値がある」と語る。社会は若者の絶望をあおるなどのインターネットの負の側面にいかに対応し、拡大するメタバースとどう向き合っていくべきか。2022年12月に開催した「第2回日経メタバースシンポジウム」で、細田監督とカヤックアキバスタジオ天野清之CXO による講演を紹介する(司会は山田剛 日本経済新聞社 日経イノベーション・ラボ 上席研究員)。

閉塞感を打ち破る鍵は「公共性」

山田 細田監督は第1回日経メタバースシンポジウムの講演で、「そもそもテクノロジーとはSFが具現化したものであり、テクノロジーとSFとは相互に影響を及ぼし合いながら進化していく」と語った。テクノロジーの進化の源泉は、人間のイマジネーションやクリエーティビティーであるという指摘は非常に重要だ。今日、進化するテクノロジーの代表例はメタバースだが、熱狂的なブームが一段落した現状には閉塞感もあるように感じる。メタバースを取り巻く現状をどうみるか。

細田 今は大きな転換点であり、進化の過程にあるからこその停滞や閉塞なのかもしれない。メタバースの拡大や普及により、現実の補佐としてではなく、それだけで独立した世界としてデジタルが認識されるようになった。これは前向きな変化。私たちは現実世界と仮想世界とを生きられる。ところが、現状では自由な場であるはずの仮想世界が現実の足かせになっている。現実から飛躍できるデジタルだからこそ可能なことはたくさんあり、そこに大きな夢があるはずなのに、メタバースで具体的に何をやるのか希望ある答えを導き出せていない。

天野 開発者としても、「メタバース」という言葉に引っ張られすぎた結果、方向性を見失う、あるいは閉塞的な状況を作り出していると実感する場面がある。細田監督の映画では、インターネットやデジタルが、社会にとって必要なもの、生活に欠かすことのできないものとして多くの人に受け入れられている様子が描かれている。

細田 インターネットは若者のものであるというイメージを持っている。インターネットはいつの時代も、若い世代が主体的によりよい世界を創っていくフレッシュな場所であってほしい。こうした願いや未来への希望は、これまでの作品にも反映している。まだ世界を十分に楽しんでいない、未熟な存在である若者の声を社会に届ける手段としてのインターネットの意味を突き詰めて考えた時、行きつくのは「公共性」や「公平性」というキーワード。メタバースの閉塞感を打ち破り、発展を支える鍵もまた、公共性の追求にあるのかもしれない。

不自由さの中にある自由によって発想力や想像力が磨かれる

山田 自分で手を動かしてウェブサービスやページをつくる人が少しずつ増えていったWeb1.0やWeb2.0の時代を振り返ってみると、確かにインターネットは若者のものであったという印象がある。ただ、Web3.0時代を迎えた現在では、プレーヤーとしての企業の存在感が大きくなり、ビジネス的要素も色濃くなった。そうした意味で現在のインターネットは、公共性と距離があるように見受けられる。

細田 SNS(交流サイト)などを通じ、インターネットが若者の絶望をあおっている現実も目につく。希望あふれるインターネットやデジタルの姿が遠のく現状を変えなければならない。このネガティブな状況や抑圧感が、新しい価値観やクリエーティブの構築に向けたステップや、大きくジャンプする前の沈み込みとなればと願っている。やはり若い世代に、既存の価値観や概念を一蹴するような新しい世界の構築を期待したい。

テクノロジーがこれだけ発展して人間が様々な制約から解放された世界が実現しているのに、過去を凌駕(りょうが)するイマジネーションやクリエーティビティーがなかなか生まれてこないのはなぜだろう。作家がテクノロジーや情報の恩恵にあずかっていない過去の時代の芸術に、現代の芸術は太刀打ちできていない。人間の可能性とは何なのかと深く考えさせられる。

天野 便利さと引き換えに、自ら考え、失敗しながら能力を身に付ける過程や、経験に裏打ちされた、言語化できない職業人としての直感のようなものが育つ余地が失われていることも、イマジネーションが大きく伸びない原因かもしれない。例えば、メタバースで「不自由さ」を提供するのはどうだろうか。開発者も使いこなせないほど操作が複雑な楽器を提供した時、それをうまく演奏する一部のユーザーの登場が、まったく新しい音楽の創造につながるかもしれない。

細田 不自由さや生きづらさを乗り越えようとする思いは、クリエーティビティーを大きく伸ばす動機にもなる。人間は、自由で便利だから何でもできるのではなく、不自由さの中でこそ、自由な発想力や想像力が鍛えられる場面がある。目の前にある現実を変える、壁を乗り越えるという意思は、メタバースとの向き合い方にも前向きな影響をもたらすと考えたい。現実世界では解決できない問題を、まずメタバースで解決し、そこで得たヒントを現実世界にも生かしていくと、よりよい世界をつくる糸口が見つかるのではないか。

デジタルの意義は、現実世界に影響を与えるところにあると思う。現実に絶望しているから仮想世界に生きるのではなく、絶望するような現実があるけれども、仮想世界で心を遊ばせる、あるいは現実を変えるためにチャレンジすることで、再び現実に戻った時、何らかの希望を抱けるといったことが、私にとっての一つの理想だ。

【日経からのお知らせ】第2回日経メタバースシンポジウム(2022年12月14〜15日)の模様は日経チャンネルからアーカイブ動画をご視聴いただけます。
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