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「フードロス大国」を変えるか クラダシの事業モデル

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貧困と飢餓をなくすことを第1、第2の目標に掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の機運の高まりとともに、食べられる食料品を廃棄する「フードロス」が世界的に注目を集めている。アジアで最悪とされるほど食品のムダが多い日本で最近、フードロス対策につながるサービスが始まっている。通常の流通ルートで販売することが難しい食料品を買い取り、消費者に低価格で販売するサイト「Kuradashi」を運営するクラダシ(東京・品川)はその先駆けで、会員は約39万人(2022年9月時点)に達する。

日本国内では年間522万トン以上の食料品が廃棄されている。国民1人ずつが毎日、茶わん1杯の米を捨てている計算になる。フードロスは将来的な食料危機につながる可能性があるほか、社会全体の経済的な損失や温暖化ガス排出量の増加にもつながる。

日本がフードロス大国となった理由はいくつかある。まず商品に少しの傷やパッケージ破れがあることを嫌う、きちょうめんな国民性がある。クリスマスや正月、バレンタインデーといった季節ごとの行事が多く、季節商品は時期が過ぎると廃棄される。食品業界全体に根強く残る「3分の1ルール」という商慣習の影響も大きい。食品の製造日から賞味期限までを3分割し、メーカーは製造日から3分の1の時点までに小売店に納入する商習慣である。この時点を過ぎると納品・販売できなくなる。

これらの「わけあり品」を値引きして売る転売業者は従来から存在するが、ブランド価値の低下やコンプライアンス(法令順守)に反することを懸念する企業は利用しづらく、多くの企業は廃棄しているのが現状だ。

 

「三方良し」の持続的ビジネスモデル

クラダシは、こうした商品を買取り、最大で97%引きの低価格で消費者に販売する「三方良し」のビジネスモデルを展開する。すなわち、利用者は安く購入でき、商品を提供する協賛企業は廃棄コストを低減しイメージアップできるメリットがある。サービスを利用すること自体がフードロス削減につながるだけでなく、購入金額の一部が社会貢献団体に寄付される。社会貢献団体にとっては、支援が安定していることが利点だ。「わけあり品」は継続的に一定数出るもので、企業のCSR(社会的責任)活動による寄付とは異なり、景気や企業の業績に左右されることが少ない。

参加する主体が社会貢献をしながら利益を得られるため、活動が将来にわたって継続されていくのがクラダシのビジネスモデルの特徴だ。同社の2022年6月期決算は売上高が約20億7000万円と前の期の約2.6倍に増えた。14年の会社設立以来、2期目以降は営業・経常黒字を計上している。クラダシの関藤竜也社長は、フードロス対策の要請は今後も強まっていくと予想しており、年間で約9000億円の市場を見込んでいる。

 

コロナ禍で会員・協賛企業が増加

事業を始めた当初は「わけあり品」の転売業者と誤解されたり、イメージアップの利点について理解が得られないなど協賛企業を集めるのに苦労した。

協賛企業数、会員数ともに伸びてきたのはここ数年のことだ。19年10月に「食品ロス削減推進法(通称)」が施行され、フードロスというキーワードが注目されるようになった。東京五輪に向けてSDGsの認知が広がったほか、新型コロナウイルス禍も影響した。電子商取引(EC)サイトを通じた食品の購買行動が一般化する一方で、飲食店で利用するはずだった食材が余った。在庫が膨らんだことで協賛企業が増え、20年に15万人程度だった会員は翌21年には倍増した。

若い世代でSDGsの認知が進んでクラダシの事業が肯定的に捉えられるようになり、インターン生の募集などでは、社会貢献を志望動機として応募する学生が増えた。SDGsの認知の高まりとともにクラダシのブランド価値が向上し事業の成長につながった。

 

利用しやすさを重視 ブランド向上狙う

今後の課題は、クラダシのブランド力を高めながら認知度を一段と高めることだ。社会的な信用を得るため、将来の株式上場も視野に入れている。このため、現在は人員の確保や広告、システム構築などに注力しているが、特に重視するのが会員の離脱率の抑制だ。

会員の離脱を防ぐためには、サイトやサービスのユーザビリティ(使いやすさ)が重要だという。例えば、上述したようにKuradashiの購入金額の一部は支援団体に寄付されるが、環境保護や海外支援、動物保護、災害支援などSDGsの17目標の達成に寄与する13団体のほか、クラダシ自体が社会貢献活動を行うための「クラダシ基金」が対象だ。利用者は商品を購入する際、自分の好きな支援先を選ぶことができる。

同社サイトの会員専用ページでは、支援した団体の履歴を確認でき、SDGsの17目標のうちどの団体にいくら支援したかを分かりやすく可視化した。利用者にとって、ショッピングや支援を増やす動機となる。22年7月にはアプリ版をリリースした。利用者の声を集める仕組みなどを構築してユーザビリティを一段と高める考えだ。

ECサイトを利用しない消費者層も利用できるよう、期間限定の実店舗も設けた。施設からの出店依頼をきっかけに、フードロスの問題をリアルでも啓発するために始めた。11月28日〜12月13日は丸井吉祥寺店(東京都武蔵野市)で開催している。

フードロス対策を目的とする同様のサービスは増えているが、関藤社長は「市場の拡大で活動が広がる」と肯定的に捉えている。先駆者ならではのノウハウを活用して競争力を維持する考えだ。例えば、仕入れ価格や販売価格の設定ノウハウの蓄積は重要だ。食料品が売れ残るとフードロス削減という目的を達成できないため、同社は値引きして必ず売り切るようにしている。また、商品は企業から直接配送するほか、各地に独自に倉庫を確保し、受注に応じて柔軟に配送している。

配送面ではこのほか、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に参画し、こども食堂への安定的な食材提供の仕組みづくりを進めている。この取り組みでは、タクシーを活用した食材配送の実証実験を行った。

クラダシのサービスは社会貢献といえどもビジネスである。競合のサービスが多数参入する中、同社が独自性を発揮し、利用者を拡大・維持し続けられるかが、今後の成長に向けた鍵となってくるだろう。

(ライター 圓岡志麻)

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