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TikTokと映画活用 若い世代とコミュニケーション 『OBSESSION〜こだわり抜く力』 アマゾンジャパン前社長の経営論(下)

リーダー論 コミュニケーション Z世代

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「若い世代のモチベーションがあがらない」「コミュニケーションが難しい」――。職場でそんな悩みを持つ管理職は多い。その理由の一つとして、若い世代は、俗に言う「コミュニケーション障害」が多いという声がある。アマゾンジャパン前社長のジェフ・ハヤシダ氏は、その「障害」の原因は管理職側にあるのではないか、と話す。

著書「OBSESSION」(松本和佳との共著、日本経済新聞出版)ではハヤシダ氏の、デジタルネイティブな若者たちとの、ユニークなコミュニケーション術が紹介されている。若い世代に目線を合わせて対話する、彼らが関心を持っていることを知る努力をするといった、下の世代の付き合いの心得に耳を傾けてみよう。

「コミュ障」なのはリーダーの側

僕がこれまでに、どんな人をリーダーに選んできたのかを話そう。この人はやれるな、と直感する人に共通している資質とは何か。僕が重視しているのは、会話やミーティングにおいて話の「受け手」、つまりお客様や部下の視点で物事を話せるかどうかだ。

それも自分の思い込みで話すのではなく、なぜ受け手がそう思っているのか、を客観的に説明できる人だ。会社のリーダーならば、基本的に働く人の負担を減らすことを考えながら主義主張をする人でなければならない。

そして、リーダーになりたい、と言わない人を僕はリーダーにする。なぜなら、リーダーになりたい、という人は、たいてい自己承認欲求が先に立ち、何かを意見するのに先だって、「受け手」をじっくり観察しようとしないからだ。要するに、どんな局面でも相手の立場を考えられない人は、観察力や想像力に欠け、リーダーには向かない。相手の立場を理解するためにも、常日ごろのコミュニケーションが欠かせないのは自明の理といえる。

最もわかりやすいのが、どんな時代でも関心を集める「若者論」だ。今の世の中、「若い世代のモチベーションがなかなか上がらない」と悩む企業経営者は多い。顧みれば、かつて僕たちの世代だって「冷めている世代」と言われたものだ。だが、今の若者はそれ以上に冷めていると見られがちという。

もっとも、それは僕たち世代の価値観に照らし合わせて、そう感じられるだけなのだ。若者は、我々が普段は関心を寄せないようなことに情熱を寄せ、思考を展開させる。そのことを理解しようともしないで、若い世代への不満を口にするのは、ある意味傲慢ともいえるんじゃないか。

若者が冷めた態度を我々の前で示すのは、もしかしたら、自分たちのことを理解しようともしない上の世代に対して、静かに異議申し立てをしているのかもしれない。それとも諦めているのか。

それならば若い世代も上の世代も、お互いさま、ということになる。行き着くのは、世代間の対話の不在という、不毛な状況だ。

意外に思われるかもしれないが、僕は男性でも女性でも、20代の知り合いがけっこう多い。大学生の知り合いからはしょっちゅうLINEのメッセージが届く。なぜか。僕が彼らの世代に関心を持っているからだ。

以前、建設業の会社の人たちと銀座のクラブに飲みに行った時のことだ。年齢が思いっきり下のチーママやホステスさんに「僕はTikTokとかインスタとかよく見るよ。若い子が何を追いかけているのか興味あるんだよ」と言ったら、女の子がびっくりしていた。

「ジェフさん、TikTok見るんですか? マジ?ウケる〜」なんて言う。

「そりゃあ見るよ。はやっているダンスとかも踊れるよ」。そんな会話をしながら大いに盛り上がった。もちろん、僕がその子たちに話題を無理やり合わせたわけじゃない。じゃなきゃ話が続かないよ。最近は「(短尺の動画投稿)リール」への関心が高まっている。このYouTubeからの流れを見るといかに若い世代が視聴に時間をかけないかがわかる。

一方、同席していたおじさんは僕にこんなことを言った。「よくそんなことに時間と手間を割きますね」―。感心したのか、呆れていたのかはわからない。

でも僕はこう考える。せっかく年齢が2回りも3回りも下の世代と話す機会があったなら、漫然と上から目線の話をしているだけじゃもったいない、と。それじゃあ若い世代の感性や思考を引き出すことなんてできやしない。

最近の20〜30代はコミュニケーションが苦手、俗に言う「コミュ障」が多いと耳にする。そうなのかなぁ。僕はあまりそう思わないよ。コミュ障を克服しなければならないのはこちら側なのだ。

クラブで同席していたおじさんは、リーダーに求められるコミュニケーションのポイントを理解していなかった。リーダーは周囲の人がどうしたら成功し、喜べるかを考えられる人だ。一緒に仕事をしている若者がどのような価値観を持ち、何に喜んで、どんなことがはやっているのかを知っていて損はない。

部下の立場に立って考えられれば、彼らに刺さる話をすることができる。それが人格的な共感の端緒にもなる。

若い世代と心がつながる会話を

今度は銀座の別のクラブでの出来事だ。20代から30代前半のホステスさんたちと映画やアニメの話になった。ある女性が、ジェフさんはどんな映画が好きなんですか?と聞いてきた。これはちょっと難しい。自分が好きな映画の話をするだけなら簡単だけど、一方通行の解説で終わらせたくはない。

そこで彼女たちが今まで見てきた映画の情報と知識から、彼女たちが理解できる映画を想像してみた。まず僕が挙げたのは、いわゆるクラシックで有名な作品。見たらきっと面白いよ、という映画だ。「『ローマの休日』はいいと思うよ」と水を向けたら、「見たことある。ヘップバーンってきれいですよね。他にいい映画はあります?」ときた。少し反応があったようだ。

次に僕は、女性の心に訴えかけてくるような映画をいくつか選んで紹介してみた。グレース・ケリーの『裏窓』。サスペンス映画の傑作で、監督のヒッチコックが何よりも衣装にこだわった映画とも言われている。銀座の女性たちをとらえる要素がちりばめられている。

もう1つ、ソフィア・ローレンの『ふたりの女』。女性がどれだけ迫害されてきたのか、どれだけつらい思いをして生き抜いたのか、を描いた作品だ。レイプとか暴力とか目を背けたくなるような話だけど、かつての社会における女性の立場がよくわかる。

ふんふん、と興味深げに聞き入っていたホステスさんたちは、僕が紹介した映画をすかさずスマホにメモしていた。その後すぐに「ジェフズリスト」として仲間内で共有したという。次にお店に行った時には「あの映画見ました」「めっちゃ良かった」なんて感想を話してくれた。そして、ジェフズリストをアップデートしたいとせがんできた。さすが銀座の営業能力はすごい。つくづく頭が下がる。まんまと気を良くしていると、いつの間にかボトルが増えてる。

あるホステスさんが「ジェフさんってアメリカ人なんですか」と聞くから、今度はアメリカの社会を象徴する映画を挙げてみた。『グリーンブック』だ。ちょうど黒人に対する暴力や人種差別撤廃を訴えるBLM(BLACK LIVES MATTER)運動が広がっていた時で、差別とは一体どういうものなのか、が理解できる映画を見る価値はある。きっと何人かは、後日、鑑賞したことだろう。 

ヒーローはリーダーではない

様々な世代を率いるリーダーならば、若い世代に上から目線で一方的に話すのではなく、若い世代と心がつながるような会話をすべきじゃないか。その際、あらゆる媒体と技を駆使するコミュニケーション力と知恵が問われることになる。

リーダーとはどういうものなのか、を知るうえで、僕が深く影響を受けた本がある。大好きなアメリカの歴史家、スティーブン・エドワード・アンブローズのノンフィクション『バンド・オブ・ブラザーズ』だ。

第2次世界大戦時に実在した米軍の小隊の話で、そこに登場するリチャード・ウィンターズ少佐(1等兵で入隊、終戦までに少佐まで昇格、2011年に91歳で地元ペンシルベニアで亡くなる)は僕の永遠のヒーローであり、本物のリーダーだと断言できる。

極限状態の中でも常に部下全員の状況を把握し、細やかに面倒を見て、皆が生き抜く術を考えながら統率していった。バンド・オブ・ブラザーズはS.スピルバーグがテレビドラマでシリーズ化している。

僕はアマゾンジャパンのマネジャークラスにそのドラマを見せて、何を感じたかを話し合ったこともあった。注意しなければならないのは歴史の中から理想のリーダーを選ぶ時。日本の管理職は当然ながら日本の歴史上の人物から選ぶだろう。

しかしたいてい、近代史ではなく、織田信長や武田信玄といった近代以前のヒーローの話をする。ヒーローはリーダーではない。ヒーローになったリーダーはもちろんいる。どの時代、どの社会でも皆ヒーローの出現を求めるからだ。しかし、そのヒーローへの憧れで自分のチームと接するのは好ましくない。

成功の本質を伝えたいなら、その手法をして、相手が理解できる説明が必要だ。今の20代に突然、桶狭間の戦いの話をしても通じない。

ウィンターズ少佐の話に戻るが、彼が入隊した部隊の指揮官は箸にも棒にもかからぬ、まったく使い物にならない指揮官だった。しかしウィンターズは部下たちとその指揮官への愚痴や悪口を一緒に言って共感を得るようなことはしない。秩序を重んじて、規律と目的を唱え、粛々と部下たちを率いて行く。僕の彼への尊敬の念は言葉では表現できない。

リーダー論は、論点の中心に何を据えるかによって説く内容が大きく変わる。書店に並ぶ本の多くは、テクニカルなリーダーシップについて論じている。リーダーシップを育むためのトレーニングとか、部下への指示の出し方とか。または、自分がリーダーとしてどうあるべきか、という心構えについて論じる本も目立つ。

ただ、こうした本を読む前に、あらかじめ整えておかねばならないことがある。パッションを持って、部下たちとコミュニケーションを交わすだけの精神的な下地を作ることだ。

リーダーとは、チームのメンバーや部下の成功と喜びに、自分がどれだけ貢献できるのか、という問いを重ねながら努力すべき存在なんだ。その下地を備えた者だけが、ようやくリーダーとして人を導ける。

誰も「管理」はされたくはない。求めるのは、自分の立場を理解したうえで、成功と成長へと導いてくれる人なのだから。

(「OBSESSION」第3章から抜粋)

《著者略歴》
ジェフ・ハヤシダ CoEvo代表
米ポートランド州立大学を卒業後、自動車を含む複数のメーカー勤務を経た後に日本の家電メーカー、エプソンのポートランド工場長に就き、国内外工場の中でトップの品質と生産性を誇る水準に導いた。2005年アマゾンジャパンに入社しフルフィルメント事業部ディレクターとなる。11〜21年、アマゾン本社副社長兼アマゾンジャパン社長を務めた。

松本和佳(まつもと・わか)日本経済新聞シニア・エディター。23年4月からTHE NIKKEI MAGAZINE編集長。

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