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パーソル、仮想空間で解消狙う 雇用ミスマッチの課題 自治体の求職者向けイベント支援 東京電力と中小事業者向け相談窓口

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総合人材サービスを提供するパーソルグループが仮想空間メタバースを活用し、人材ビジネスが長年抱える社会課題の解決に乗り出した。企業の営業支援、店舗・販売を支援するパーソルマーケティング(東京・新宿)は、メタバース内でアバター(分身)となって接客や販売ができる人材を、メタバース事業に参入した企業に派遣することを目指す。親の介護や子育てといった家庭の事情などを理由に外で働くことができなかった人材を生かす場として期待している。

自治体主催の人材マッチングの場に

2022年12月21〜23日。愛知県豊田市は市内の中堅・中小企業12社と求職者とのマッチングイベント「豊田市製造業フェアinメタバース」を開催した。事前に申し込んだ25人の求職者のアバターは、受付でパーソルマーケティングが派遣したアバターの田中マコさん、佐々木リクさんに面談を希望する企業ブースの場所を聞いて入場した。

豊田市が会場として借りたのは、世界で展開しているプラットフォーム「Virbela」を活用したメタバース空間「GAIA TOWN(ガイアタウン)」だ。ガイアリンク(長野県茅野市)が日本国内の代理店となっており、パーソルマーケティングは販売代理店として豊田市が実施した競争入札に応札してフェアのメタバース運営を受託した。

国内の自治体がメタバース空間を観光地や名産品のPRに利用するケースは少なくないが、求職者向けイベントに利用するのは珍しい。豊田市は21年度に同フェアをリアルとオンラインで1回ずつ開催したが、22年度は会場をメタバースだけに変更した。

同市産業部産業労働課主査の高井崇佑氏はメタバースを活用した理由について「新しいプラットフォームを使い、市内の企業の魅力を効果的に訴えたかった。メタバースは(移動にかかる)距離や時間の制約がないので誰でも参加しやすい。参加企業はメタバースを経験して今後の事業展開にも生かしてもらいたい」と話す。2月にも同様のフェアを開催。23年度は常設の求職者向けメタバース空間を構築する計画だ。

「サブスク」で気軽に利用

豊田市が利用したGAIA TOWNはメタバース空間の「島」としてすでに存在し、企業や団体が短い準備期間で利用できる。パーソルマーケティングの川内浩司メタバースデザイン事業部部長は「メタバースに挑戦してみたいが、オーダーメードでは時間とお金がかかりすぎると考える企業や団体に向いている」と話す。サービスはサブスクリプション(定額課金)で提供し、例えば、現在はアバターが10人入れる一番小さいフロアで月額2万円、最大200人が入れるフロアは月額40万円で貸し出している。

川内部長は「人口が減少する中でメタバース空間で新しいことをやりたい、という自治体は増えている」と今後の市場拡大を予想する。企業からの需要も期待する。新型コロナウイルス禍でオンライン会議が増える中、会議の進行役に偏った一方的なコミュニケーションの弊害を指摘する向きもある。1つの空間に複数のアバターが集まることで「コミュニケーションの場として利用できる」(川内部長)ことを売り込む。

実際、大手企業がメタバース空間を活用する兆しは見え始めている。東京電力エナジーパートナー(東電EP、東京・中央)は2月、店舗など低圧電力を利用する「小規模企業者」向けのメタバース空間を構築した。メタバース空間を活用し、顧客である事業者の省エネ・節電に関する窓口を設けてアバターが相談に応じる。また、企業の経営者が抱える様々な経営リスクに対応するため、弁護士や税理士、社会保険労務士といった専門家がアバターとなって必要な情報を提供する。パーソルマーケティングは仮想空間と現実空間を融合させるXR(クロスリアリティー)技術を有するシステム会社Mogura(東京・千代田)と組み、東電EPのメタバース空間構築を支援した。

パーソルグループがメタバース事業に参入した背景には、人材ビジネスが長年抱える課題を解決したいとの思いがある。具体的には大きく2つの課題があるという。

まず紹介できる仕事の偏りがある。パーソルグループに個人情報を登録する派遣スタッフは約11万人。ただ、求職者にスキルがあっても、高齢や育児中であることなどを理由に、顧客企業の就業条件にあわず紹介できないケースが少なくない。コロナ禍で求職者の働き方は多様化しているのにそれに見合った仕事が少ないのだ。川内部長は「メタバースなら時間と距離の壁を越えて身体的な課題を克服できる」と期待する。

2つめの課題は少子高齢化による労働人口の減少だ。内閣府の「高齢社会白書」(22年版)によると、我が国の生産年齢人口(15〜64歳)は1995年の8716万人をピークに減っており、21年は7450万人だった。将来推計では29年に7000万人を割り、現在より約500万人減る見通しだ。こうした状況下では「家にいながらでも、ベッドに寝ながらでも働ける労働環境を構築しないといけない」(川内部長)と危機感を強めている。

豊田市のフェアで受付を担当した田中マコさん(50代女性)は接客業に従事していたが、在宅介護をすることになってから仕事がなかなか見つからなかった。そこで「自宅に居ながら接客ができるメタバース空間に魅力を感じた」とアバターとして働くことを選択した。佐々木リクさん(30代男性)は飲食業界で勤務し店長の経験もあるが、「新たな働き方を模索中にメタバース就業に出会った」。就労条件に制約がある人や新たな働き方を求める人にとってメタバース空間の職場は魅力的に映りそうだ。

常設のメタバース空間拡大に期待

パーソルマーケティングはメタバース関連で3つの分野での事業領域を視野に入れている。第1の領域がメタバース人材の派遣だ。しかし、21年は「短期のイベントが多く、常設のメタバース空間を使っている利用者や参画企業はまだ少ない」(川内部長)のが実情だ。ただ、今後は常設のメタバース空間が増えるとみており、「当社に登録した人材を活用できる機会があれば、人員を供給していきたい」という。

第2の事業領域はメタバースへの参入を目指す企業向けのコンサルティングだ。この事業については現在、サービスを無償で提供してノウハウを蓄積している段階だ。

第3の領域は企業や団体のメタバースワールド(空間)の構築支援で、豊田市のイベントや東電EPのメタバース空間構築はこれに該当し、現時点で最も実績がある。

今後の事業展開について、川内部長は「人材の会社なので本来やりたいのは仮想空間で働く世界を作ること」として第1の事業領域拡大に意欲をみせる。そのきっかけと期待するのが25年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)だ。それまでにメタバースに取り組む企業が増え、メタバース空間で働くことができる人材へのニーズが拡大することを想定して人材の育成やノウハウ蓄積を進める構えだ。

(原田洋)

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