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アマゾン幹部が恐れる ベゾス氏からの「?」メール 『OBSESSION〜こだわり抜く力』 アマゾンジャパン前社長の経営論(上)

経営 リーダー論 EC

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約10年にわたりアマゾンジャパン社長を務めたジェフ・ハヤシダ氏はユニークな経歴を持つ。人生の大半をアメリカで過ごし、現地資本の企業や日系企業で、人種や言葉が異なる様々なバックグラウンドを持つ人たちと働いた。次第に組織を動かすうえで最も重要なのは、だれもが理解できる「仕組みづくり」だと確信する。

メディアにはこれまであまり登場しなかったハヤシダ氏が、初めての著書『OBSESSION』(松本和佳との共著、日本経済新聞出版)で次世代のリーダーに向けてメッセージを送る。本書に通底するのは、アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏にも通じる「こだわり抜く」姿勢だ。日本では「おかしな前例主義とルール」が非効率を招いていると指摘し、それらをどのように打破してきたのか、実体験をもとに語る。

アマゾンの稼ぐ仕組み「フライホイール」

アマゾンの創業者、ジェフ・ベゾス氏はぶっとんだ天才であり、世界で一番面倒くさい、アマゾンの顧客だ。ベゾス氏は常に、何か行動するうえでの工程や時間をものすごく大切にする人なんだ。たとえ簡単な事柄であっても、それをするための時間を無駄に費やすことが大嫌い。だから、1993年にアマゾンをスタートした時から一貫して、「お客様の負担を減らせ」と繰り返し言い続けてきた。

僕も2005年に入った時から、「お客様の負担を減らせ」といつも上層部から言われていた。それこそが、いわゆるCX(Customer Experience=顧客体験)重視の姿勢だ。アマゾンの普遍的な稼ぐ仕組み(ビジネスモデル)である「フライホイール(flywheel=弾み車)」効果において、加速装置となるのがこのCXなのだ。決してCS(Customer Satisfaction=顧客満足)ではない。 

CSがモノ・サービスに対する満足度であるのに対して、CXはモノ・サービスを通じた体験に対して顧客が感じる価値のことを指す。ベゾス氏の「お客様の負担を減らせ」という指示は、そもそも自分の体験に根ざしたものだ。単なる掛け声やスローガンといった精神論で僕たちを動かそうというのではない。ベゾス氏は自らアマゾンで年がら年中モノを買っている、掛け値なしのヘビーユーザーだ。そこでの気づきをもとに言葉を発しているから、誰も反論などできない。

幹部たちが恐れているものに、ベゾス氏の「?」メールがある。 

ある日、オペレーションの幹部全員に画像付きのこんなメールが回ってきた。でっかい箱に緩衝材の空気枕が大量に詰め込まれ、小さな注文の品がポツンと中央に置かれた画像。「こんな状態で自分の家に荷物が届いたんだが」という証拠だ。そして書き込まれたメッセージは「?」マークだけ。これが「?」メール。一体、何を表現しているのか。ちょっと考えればすぐにその真意がわかる。

配送用の箱は種類が少ないほど、我々の資材調達の面で効率が高いし、お客様に納品するまでの物流効率も高い。倉庫のスペースに荷物を収容する時、箱の種類が少ない方が整理して置きやすい。輸送する際も積載に無駄が生じにくい。だが、輸送する商品自体の大きさは様々だ。

箱の種類が少なすぎたら、ベゾス氏が添付した写真のように、商品と箱のミスマッチを想起させるような事態が起きてしまう。お客様の立場からすれば、なんて無駄なことをしているんだろう、小さな商品にはもっと小さな箱を使えばいいのに、と思うはずだ。この課題は常にアマゾンが取り組んでいることだ。

つまり、ベゾス氏はこの1枚の写真と「?」マークだけで、「この無駄な箱の使い方、どうなってるの? これでいいと思う?」と我々に問いかけたんだ。まったく言葉を使っていないだけに、かえってゾッとするよね。 

この「?」メールが届いて、社内は大騒ぎになった。まあ、いつも大騒ぎなんだけど。ベゾス氏が今回アメリカで買った商品について、日本での配送はどうなっているか、ヨーロッパはどうなっているか、と世界中で「?」マークが共有され、各エリアで点検、修正が始まった。 

もし大企業の社長からこんなメールが届いたら、そこの幹部たちは僕らと同じような気持ちになるだろう。でも、これは決して高圧的なメールとは言えない。だって意思表示は一切ないんだから。説教も批判もない。「鶴の一声」でもない。「?」はベゾス氏の体験に基づいた、素朴な疑問の表れでしかないんだ。

 

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