日経メタバースプロジェクト

健全なクリエーターエコシステム メタバース市場活性化 日経メタバースコンソーシアム クリエーターズ・ミーティング

メタバース AR・VR パネル討論

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2021年10月、米フェイスブックが「メタ・プラットフォームズ」へと社名を変更したことは、メタバース時代の本格的な到来を世界に印象づけた。わが国でも、バーチャル空間上で様々なサービスやソリューションを展開するクリエーターや企業、組織が急速に増加している。こうした状況を踏まえ、日本経済新聞社は「日経メタバースコンソーシアム」を組成した。国内外で進むメタバースの活用事例や、そこから見えてきた課題を整理し、将来に向けたビジョンを提示する会議体だ。22年11月14日には、「クリエーターズ・ミーティング」を初めて開催。メタバースのクリエーターや、クリエーターと共にコンテンツを制作する企業の担当者らが集まり、健全なクリエーターエコシステムの形成に向けて議論した。(文中敬称略)

●登壇者
宮川 尚氏 大日本印刷 ABセンター XRコミュニケーション事業開発ユニット ビジネス推進部 部長
半田 高広氏 凸版印刷 情報コミュニケーション事業本部 先端表現技術開発本部 クロスボーダー戦略部 部長
奥野 和弘氏 PwCコンサルティング 上席執行役員、Senior Officer
喜田 一成氏 スケブ/ポリゴンテーラーコンサルティング 代表取締役
清水 智雄氏 ピクシブ 執行役員/新規事業部 事業部長
千代田 まどか氏 Microsoft Cloud Developer Advocate/漫画家
坪倉 輝明氏 メディアアーティスト

 

クリエーターを「創作物の出力装置」にしないために

喜田 VR(仮想現実)やメタバースは近年、急激に盛り上がってきた市場で、クリエーターや消費者は10代後半から20代前半ほどの若年層が大半だ。若い世代の表現や活躍の場としての可能性を持つ一方で、クリエーターの若さに起因する課題がある。1つは、仕事としての創作活動の受注に慣れていないことだ。労務や税務の知識が乏しいクリエーターがかなりいる。2つ目は自身の創作物のクオリティーに自信をもてず、作品を破格の(安い)価格で販売してしまうクリエーターが多いことだ。

こうした現状を踏まえ、企業にはクリエーターを「創作物の出力装置」にしないように求めたい。特に若年のクリエーターに関しては、作品を納品したら終わりではなく、税務面などで支援してほしい。創作に携わったクリエーター一人ひとりのクレジットをきちんと表記するなど、リスペクトをもって接すべきだ。

坪倉 私自身、VRやメタバースのコンテンツを販売して生計を立てているが、周りを見ていて、クリエーターが軽視されていると感じる場面もある。クリエーター側の課題としては、セルフブランディングが確立できていないこともあるのではないか。自分の場合は、単なる作業者ではなくアーティストとして見てもらうため、「メディアアーティスト」を名乗っている。作品をSNS(交流サイト)などに出して、自分の強みや得意とする世界観を外部の人にも分かりやすく提示する工夫もしている。

企業側の課題としては、メタバースやVRに関する知識が十分でない企業がまだまだ多いと感じる。企業の知識が足りないと、打ち合わせなどのコミュニケーションがうまくいかず、クリエーターは創作しにくくなる。クリエーターと企業、双方にとって大切なのは、市場を今よりも拡大して収益を最大化することだ。そのためにも、今ある課題を乗り越えて利用者を増やさなくてはならない。

半田 企業としては、初めて仕事を依頼する個人のクリエーターに対しては「最後までやり遂げてもらえるのか」といった不安もあるのが正直なところだ。このあたりに、与信管理を重んじる企業の文化と、個人クリエーターを中心とするメタバースやVRの文化のミスマッチがある。企業はいま少し歩み寄る必要があるだろう。

また、若いクリエーターが多いということに関連して、労働基準法の順守といった課題も気になる。まだ10代のクリエーターが、熱中するあまり夜遅くまで創作に没頭することに問題はないだろうか。クリエーターには、時間などの制約に縛られず、自分の創作意欲に従ってクリエーティビティーを発揮する自由さも必要かもしれないが、企業としては睡眠時間を削ってまで体に負担をかけるような創作環境を是とはできない。今後、このあたりのルールづくりも必要ではないか。

 

健全なクリエーターエコシステムの形成に向けて

奥野 メタバース市場の活性化のためにも、少し長い時間軸の中で、日常的にアートに触れ、クリエーターを尊重する社会風土を育むことも必要ではないか。パリでは毎月の第1日曜日に多くの美術館が無料となり、多くの子どもたちが名画を模写しにやって来る。子どもの頃から芸術に触れる機会があると、アートやクリエーターへのリスペクトが自然と育まれ、文化の成熟を助けるだろう。

クリエーターが安心して創作活動に打ち込むための法整備も必要だ。例えば、歴史的な名画などを二次創作のモチーフとする場合、もしもパブリックドメイン(すでに著作権や知的財産権が消滅した芸術作品など)でないことが後から判明したら、クリエーターは、権利侵害で訴訟を提起されるリスクを背負う。日本には、クリエーターの創作意欲を刺激するクールな文化財などが数多くあるが、こうしたリスクのために二次創作の機会が奪われることはもったいない。

宮川 大日本印刷は以前、データ管理を請け負っているアート作品を創作用に利用できる権利を販売したことがある。二次創作の機会を広げることは作品の数を増やすことにも貢献するので、クリエーターエコシステムの形成においても重要な役割を果たす。様々な可能性を秘めたメタバースを、創作活動の民主化へとつながる開かれた場にしていきたいという思いがあり、メタバースにあまり親和性がないアーティストも、クリエーションに関われる仕組みづくりに注力している。普段は平面に絵を描いているアーティストとコラボレーションしてメタバースの世界を構築した際には、ペイントが動く、絵の中に潜れるなど、3D(3次元)ならではの表現ができるところが好意的に受け取られた。フィジカル(実空間)とバーチャルの境界を融解させ、様々な人をメタバースの世界に呼び込む取り組みから、創作の可能性が広がっていくと期待している。

千代田 創作の可能性や機会を広げる取り組みは歓迎すべきものだ。デジタルコンテンツが形成する経済圏には大きな未来がある。ただ、クリエーターが使いつぶされるような状況はよくないので、しっかりと対策を講じなければならない。誰もがクリエーターになれる時代だからこそ、著作権の知識や、ギャラの交渉や税務などのお金に関する知識、インターネットでのPRの仕方やリスクなど、クリエーターとして活動するのに必要な諸々の知識を身に付けるためのリテラシー教育が必要だと思う。10代から活躍する人も多いので、義務教育に組み込むことも検討してよいのではないか。

自分の過去を振り返っても実感するが、多くの若いクリエーターは、こうした知識が必要ということすら分からないだろう。本人が能動的なアクションを起こさなければ、必要な知識にたどりつけない状況を変えなければならない。

清水 健全なクリエーターエコシステムの形成を促す仕組みづくりは大切だ。ピクシブはまさにその課題に応える企業であり、クリエーターが創作技術を学ぶ場や、作品をアップロードしてファンを獲得する場、プロとしてデビューする場などを幅広く提供している。事業の根底には、クリエーターとしての腕を磨き、クリエーティブだけで生計を立てられるようになるまでを一貫して支援したいとの思いがある。

クリエーターとしてやっていくためには、自らをプロデュースするスキルも必要だ。作品の価格設定もプロデュースの一環だが、私から見ても「安すぎる」と思うケースが多い。多少強気の価格でも、本当に応援する気持ちのある人は購入してくれる。自信をもって創作活動を行うためにも、クリエーターには目指す将来像やつくりたい作品をしっかりと意識し、それをクリエーティビティーに反映させて、思い描くビジョンを実現してほしい。

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