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メタバースで多様化する働き方 日経メタバース・プロジェクト 第3回 未来委員会

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持続可能なメタバース空間の実現に向け、2022年3月にスタートした日経メタバースコンソーシアム。今年度最後となる3回目の未来委員会が2月6日に開催された。今回は「メタバース空間で多様化する働き方」をテーマに、メタバースだからこそ実現し得る働き方や、サイバーフィジカルの可能性などについて、有識者による活発な議論が展開された。

AI搭載アバターが相棒

――メタバース空間における働き方の現状と展望は。

三浦 メタバースは距離という制約をなくす。今いる場所を、職場に、居住空間に、コミュニティースペースに、必要に応じて変えることができる。仕事や教育、社交など、生活の場の多くがメタバースに移管されれば、経済原理に縛られない居住地選択も可能になり、地方創生の追い風にもなるだろう。

また、当社で実施した「メタバース生活者意識調査」では、メタバースがもたらす未来について、若年層に次いで60代女性も肯定的であることがわかっている。こうした層を対象にメタバースで新しい活躍の場を提供していくことも、普及促進の戦略となり得る。

岩花 メタバースの可能性と課題を探るため、社内で3000台の仮想現実(VR)ゴーグルを配布、メタバース空間でイベントなどを実施したところ、9割が満足したと回答。VRゴーグルを利用したほうが、通常のオンライン参加よりも高い満足度を得られることもわかった。メッセージの浸透度もVR利用のほうが高い。メタバース空間で働くことについては、過半数が良い影響を与えると答えた。とくにクリエーティブな業務で高い効果が期待される。

――2022年後半から、文章や絵画を生み出す生成人工知能(AI)の技術が急激な進化を見せ、話題になっている。どのような影響が考えられるか。

天野 会話感覚でやりとりができる「チャットGPT」といった生成AIの爆発的な進化は、メタバースの可能性をさらに広げる。こうしたAIを搭載したNPC(ノンプレーヤーキャラクター=自律型のキャラクター)の普及が期待されるところだ。

未来社会を展望し、国が策定した「ムーンショット目標」の一つが、身体、脳、空間、時間の制約から人が解放された社会の実現である。その核となる技術がアバターに、人間の身体能力や知覚能力を拡張する技術を加えたサイバネティック・アバターである。AI搭載のNPCはこれを補完する存在になると考えられる。

便利で快適な社会を実現するため、これからは一人ひとりが大量のデータを処理しながら、複数の業務を遂行することが求められる。メタバース空間で、複数のAI搭載型NPCを使いこなすような働き方が必要とされるだろう。人手不足が深刻な物流業界などが先陣を切るのではないか。

田中 メタバースを活用するための技術は日々進化している。例えば、当社では小売業向けの支援として、倉庫および在庫や配置の情報を、電子空間上に再現したデジタルツインをリアルタイムで連動させ、シミュレーションを行いながら最適な配置をスピーディーに実現していくといった取り組みを支援している。そのほか、AI搭載型アバターや生成AIなどの活用も、実現に向けて環境が整いつつあるところだ。

 

 

新たな顧客・人材の獲得が可能に

――メタバースによって生じる働き方の変化は、どのような効果をもたらすか。

半田 ゲームなどで描き出される高精細な世界は魅力的だが、誰もが高価なVRゴーグルを購入できるわけではない。ビジネスでメタバースを活用するには、スマホなどで簡易的に3D空間に入り込めるメタバースから導入し、まずは事業者もユーザーも体験してみることが重要だ。そうした普及帯のメタバースとして、当社はスマホで利用できるバーチャルショッピングモールアプリを提供している。一方で、色彩や質感の再現性の高いバーチャルショールームの構築についてもサポートしている。

こうしたさまざまな入り口を用意することで、新たな客層を獲得するなどの効果を得ている。メタバースを舞台にした事業が普及していけば、メタバース内のモールやショールームでアバターとして働くなど、働き方の選択肢も広がるだろう。定型的なやりとりは自律型アバターの自動応答に任せ、人はより生産的なサービスに注力していくことが可能になる。

人とAIがうまく役割分担をしていけば、企業、ひいては社会の生産性も向上していくはずだ。ただ、出社機会が減ると、デメリットも生まれる可能性がある。モチベーションの維持や教育については何らかの対策が必要だ。

宮川 ソーシャルアクションへの影響についても紹介したい。2019年にスタートした渋谷区公認スーベニア事業では、渋谷区の地域資源を生かしたオリジナルグッズの制作・展開を通して、社会的なムーブメントを起こしながら収益を上げ、その一部を来街者のゴミ問題など地域課題の解決に活用するという取り組みを行っている。このグッズ展開をメタバースでも行ったことで、事業者、自治体、地元企業の横のつながりが強まったという印象を持っている。

また、22年には、女性に対する暴力をなくすためのパープルリボン運動に賛同し、渋谷区立宮下公園と渋谷の2つの仮想空間でパープル・ライトアップを実施した。こうした社会運動を展開し、声を出す場所、熱が生まれる場所としても、メタバースは活用可能だろう。

――メタバースは競争ではなく、共創する場になり得るわけか。

沼倉 メタバースに関連する技術によって、距離や年齢による障壁が取り払われるだけでなく、メタバースやデジタルツインというバズワードをきっかけに、異業種の人材が連携し、新たなナレッジを見いだしていく動きがみられるのは興味深い。

また、メタバースが人とAIの協調作業、あるいはAIが人について大量のデータをもとに学習するのに最適な場であることにも注目したい。

人材獲得の面からもメタバースの存在は欠かせないものになるだろう。コロナ禍を経て、リモートワークの実施割合は世界的に高まっている。それに伴い、雇用される側も場所や時間に縛られない働き方を目指す意識が強まっている。その動きに応える手段の一つがメタバースだ。メタバースを活用すれば、「いつでも」「どこでも」「誰でも」働けるようになり、誰もが自分の状況に合わせた働き方が選べるようになる。

雇用側が時間や場所に縛られない採用をするようになれば、地域に縛られることなく、優秀な人材を世界中から雇用できるようになる。時差も踏まえつつ、新しい労働環境の整備を進めていきたいところだ。このように働き方の満足度を向上させることが、優秀な人材の定着率を高めることになり、企業の成長につながっていく。こうした点をおろそかにする企業は取り残され、成長が阻まれることになるだろう。

 

シニア世代の活力取り込む

――メタバース普及を目指し、国はどのような対応を検討しているのか。

高村 総務省では、「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」で、有識者と共にメタバースに関する課題の洗い出しを行っているところだ。メタバースが普及してユーザーの数が増えていけば、それに伴い、リテラシーやモラルの欠如によるトラブルの増加が予想される。そこからユーザーを保護するには何が必要なのか。そういう問題意識で政策目標を議論している。

高齢者の活躍についても検討している。かつてポケットベルを使いこなしていた世代がすでに40代、まもなく経営層になっていく。最先端の技術、ライフスタイルを切り開いてきた世代もやがてはシニアと呼ばれる年齢になるわけだ。今までの高齢者とは違うイメージで、政策を検討していきたい。

もう一つ、忘れられがちな課題が消費電力の問題だ。大量のデータの処理、高精細な描画には、多くの電力を消費し、二酸化炭素(CO2)排出を伴う。そこを念頭に置きながらメタバースやAIの活用を考えていく必要がある。

上田 メタバースをめぐる課題としては、まず、デバイスの性能そのものの向上だけでなく、普及しやすい価格や性能を追求していく必要がある。また、多様なコンテンツを提供していくには、人材の育成が欠かせない。行政に対して事業者サイドからは、ハードの普及やコンテンツ制作に関する資金や税制面での支援、人材育成に対する支援などが期待されている。これらをどのように実現していくか検討している。並行して、ガイドラインの整備や標準化といったルールメーキングについても議論を進めている。

内山 国土交通省では、3D都市モデル「プラトー」の整備と並行して、エンジニアを対象にした普及活動、開発者コミュニティーの育成、活用コンテストなどのイベントを数多く行っている。いつまでも国主導で進めるのではなく、国と民間と地域がフラットに連携しながらエコシステムを構築していくことが目標だ。メタバース普及に際しても、こうした動きを参考にしてもらえれば幸いだ。

――未来委員会の座長として本日の議論の振り返りを。

広瀬 メタバースは、高齢化がいち早く進んでいる我が国において、労働力不足を解決する一つの手立てとなり得る。高齢者一人ひとりは、体力面やスキルの硬直化などにより、通常の労働条件では活躍が難しい。しかし、そのポテンシャルは高く、全体としての労働力は非常に大きい。メタバースであれば、距離や時間の制約が取り払われるため、それぞれのスキルを因数分解し、再統合して活用することができるのではなかろうか。これまでは「1人が複数のアバターを使い分ける」ことが注目されてきたが、「複数人が1つのアバターとして活躍する」といった働き方もできるはずだ。

この先の国の発展を考えたとき、新しいフロンティアとなるのがメタバースだと改めて感じた。そうした位置づけで、産官学で取り組みたい。

日経メタバースプロジェクトは総務省、経済産業省、国土交通省が後援し、フェイスブックジャパン、ピクシブ(東京・渋谷)、NVIDIA(エヌビディア)、日本マイクロソフトの4 社の特別協力、PwCコンサルティング(東京· 千代田)、大日本印刷(DNP)、凸版印刷、博報堂 DYホールディングス4 社の協賛で運営しています。

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