最近、よく耳にする「ワーケーション」という言葉。
「ワーケーション」とは英語のWork(仕事)とVacation(休暇)の合成語で、職場以外の場所で働きながら休暇も取ることを意味する。働く場所の自由度が高まるだけでなく、環境や時間が縛られることなく多種多様な働き方が可能になる。
新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワークが普及し、オフィスや自宅以外での働き方にも注目されるようになったことが背景にあり、関心が高まっているのだろう。
私が勤めるニットでも企業としてワーケーションを行った実績がある。今回は、テレワークを推進する企業に対し、実際の体験をもとに新しい働き方としてのワーケーションを提案していきたい。
ワーケーションの落とし穴を理解した取り組みを
テレワークはプライベートの時間を確保しやすく、通勤時間がなくなることによるストレスの低減などのメリットがある。一方、デメリットとしては、直接的な人との関わりが減りやすい。また、パソコンやスマートフォンなどのブルーライトを長時間浴びる人が増えており、デジタル疲れを癒やすデジタルデトックスなどのリフレッシュが必要なのではないか。これらのデメリット解消にワーケーションが有効だと考えている。
2021年3月にクロス・マーケティングが「直近1年以内にワーケーションを経験した」人の中から1000人を対象に、どのようなワーケーションを行ったのか、またどのような実感を得たのかについて調査した。その中で、今後ワーケーションを(再び)行いたいかについて聞いたところ、半数以上がまた「行いたい」と回答している。ワーケーションの効果を実感したことで、引き続き興味・関心を持った人が多いのではないだろうか。
一方でネガティブな意見としては、「ONとOFFの切り替えが難しい」や「コミュニケーションが円滑にいかない」「ネットワーク環境が意外とネック」といった内容が見られた。ワーケーションの効果を最大限に発揮するためには、企業としてはメリットだけでなく、デメリットも理解した上で導入・実施を検討していくべきだろう。
イメージだけでは失敗
オフィス出社ではなかなかできない体験ができるのがワーケーションの魅力だ。しかし、ワーケーションを企業の取り組みとして導入する場合は、事前のプラン設計が肝であることを意識しなければならない。「どこか景色が良くて観光もできる場所で社員に仕事をしてもらいたいなぁ」というような漠然としたイメージだけではうまくいかないだろう。
ニットは過去に企業として沖縄県の久米島、長野県小布施町で計2回のワーケーションを実施してきた。その経験を踏まえて、企業側・社員側それぞれにとってのメリットとデメリットを説明しながら、事前のプラン設計のポイントをお伝えしたい。
<企業側のメリット・デメリット>
1.オフィス勤務以上の事業貢献が可能
事前にプランをしっかり立てれば、会社の事業にとってオフィスで働いている時より良い効果を発揮することができるのがワーケーションの魅力である。
まずは「なぜワーケーションを実施するのか」「ワーケーションを終えた後にどのような状態になってもらいたいか」を決める。つまり、「目的」と「ゴール」の設定だ。
たとえば、「普段と異なる環境で仕事をすることで、新しい商品開発のアイデアや企画立案を行うため」「新チームであるため、コミュニケーション活性化と信頼関係の構築を図るため」など、企業に合った目的やゴールを定めることで、ただの「楽しいワーケーション」ではなく、「企業の事業へ貢献するためのワーケーション」にすることができる。
また、ワーケーションの制度をいきなり導入するのではなく、国や自治体の助成や支援を活用してワーケーションの知見、経験を増やして、試行錯誤しながら自社に合った制度設計を検討していくことをおススメする。
企業の制度として取り入れる場合は、「3年目研修」「部の合宿研修」といった2~3日の日数を要するプロジェクトなどチームで取り組む内容にも適していると私は考えている。
2.複数人で行うことで組織活性化につながる
ワーケーションは、できれば複数人、チーム単位で行うことをおススメする。普段とは異なる環境に行くことで、オフィス以上にリフレッシュやリラックスがしやすくなる。
その際に、未来に向けてどういうことをやっていくのかといった、ポジティブな発想を生むようなブレインストーミングやディスカッションをすることで、メンバー同士のコミュニケーションが活性化しやすい。その他、新しい商品開発のアイデアや企画立案などワクワクするものについて考えるのもおススメだ。
仕事だけではなく、バケーションを通じて人生がより豊かになる体験を実践できることで、社員のエンゲージメントも高くなる。
3.現地の自治体との協力で企業ブランディングにつながる
ワーケーションは現地の人とリアルに交流できることも魅力の一つだ。また、現地の自治体と協力し、何かを成し遂げることは企業ブランディングにつながりやすい。
さらにコロナ禍になり、テレワークなどの働き方を積極的に導入しているかどうか企業の取り組みが注目されることも増えている。そのため、「ワーケーション」という新しい働き方を実施している企業は採用面でも「働き方の多様性を認めている企業」として捉えられ、企業イメージの向上へつながるだろう。
上記のようにワーケーションのメリットは多くあるが、一方でデメリットもある。中でもコスト面を懸念する企業は多いだろう。ワークとバケーションの両方を含むのがワーケーションであるため、どこまで企業が負担するかも決める必要がある。もし複数人の宿泊費・交通費を全額会社が負担するとそれなりの金額になる。
「なぜワーケーションを行うのか」「ワーケーションを通じて何をしてもらいたいか」を参加する全員が意識しなければただのバケーションで終わってしまう。
社員に事前にスケジュールの計画・提出をお願いし、ワーケーション後にプレゼンテーションの機会を設定するなどアウトプットを求めるプランを設計し、成果を意識してもらうと良いだろう。
また、ワーケーションを実現するためには企業側としては「勤怠はどうするの?」「成果があがらなかったらどうするの?」などという疑問も多いだろう。
これはリモートワークを導入しはじめた企業の方に向けたアドバイスと似ているのだが、従来のようにプロセスを評価するのではなく、これからは成果で判断すべきだ。
下記の図のように、「高い生産性でチームとしての成果を出す」ことを企業としての評価軸の一つにすることをおススメしている。
そのためにもワーケーションをスタートする前に「目的」「ゴール」を決めることが重要なのだ。