世界は今、様々な課題に直面している。なかでも深刻なのは、コロナ禍で一層深刻化する富の格差や気候変動問題だ。これらを解決するには、個人投資家を含めたESG(環境・社会・企業統治)投資の活発化と、環境・社会課題を解決するための資金供給手段であるサステナブルファイナンスの存在が欠かせない。日本はESG投資で先行するEU(欧州連合)から何を学ぶべきか。最新技術に裏付けされた「分散型金融」によって実現できる「富の民主化」はどのような役割を果たすのか。日米欧のサステナブルファイナンスを熟知する4人の登壇者がFIN/SUM2021(主催:日本経済新聞社、金融庁)で行ったパネルディスカッションでの議論を紹介する。
気候変動への危機感が原動力に
ブレント・ビアズリー氏 Vanguard Asset Management Head of Personal Investor
マーティン・グレヴェルディンガー氏 Avaloq Group CPO(Chief Product Officer)
竹田 達哉氏 三井住友フィナンシャルグループ 企画部サステナビリティ推進室長
■モデレーター
岩田 太地氏 NEC デジタルインテグレーション本部 主席ディレクター
岩田 世界市場においてESG投資に向かう資金はここ数年、右肩上がりで増加している。ある調査によれば、2020年第4四半期の世界のESG投資の金額は約1500億ドル(約16,3兆円)で、そのうち8割以上がEUからの投資だ。一方、日本からの投資額は全体の2%程度に留まっている。EUでは、何が原動力となって活発なESG投資が行われているのか。
ピアズリー 深刻化する気候変動問題への危機感が投資のモチベーションとなっており、個人や個々の企業による取り組みの限界から、体系的かつ組織的にこの問題に対処すべきだという共通認識を持っている。また、これからの金融のメインプレーヤーとなる40代以下の若い世代にESGへの高い関心をもつ投資家が増えていることも、ESG投資の活発化の一因だ。
グレヴェルディンガー 公的な取り組みや規制が果たす役割も大きい。地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定や、国連が進めるSDGs(持続可能な開発目標)などがあげられるが、達成には民間企業や民間資本の力が不可欠だ。だからこそEUの規制当局は、より多くの資金がESGに関連する企業やプロジェクトに集まるように数々の規制をつくってきた。その一例が、金融機関等を対象とする規制となるサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)だ。
竹田 SFDRに関して、EUで経済活動を行う日本企業も規制の対象となるため、金融機関を含む多くの企業がその対応に追われている。今年、金融庁が「サステナブルファイナンス有識者会議」を開催するなど、日本でも民間資金をサステナブルファイナンスに動員するための制度設計について議論が進められている。今後、ESG投資において先行するEUを参考にしながら、わが国に最適な仕組みを構築していく必要がある。
投資の"共通指標"構築が不可欠
個人投資家にも情報提供を
岩田 ESG投資をさらに加速化させるには、共通の価値尺度や指標の構築が不可欠だ。大きな期待がかけられているのが、どの産業分野や事業が環境対策にふさわしい資金の使い道かをあらかじめリスト化したEUタクソノミーで、EUでは気候変動緩和への企業の貢献度などを可視化するためのサステナブル活動の分類基準として公表されている。
ピアズリー 現在はESGやサステナビリティーへの貢献度を測る共通指標が確立されていないため、ESG投資を志向する個人や組織は、それぞれの価値基準に基づいて投資判断を行っている。共通の指標がない現状では企業の長期的な戦略にまで目を凝らし、慎重に投資判断をしなければならないが、そのために必要なコストや情報を読み解く専門知識を誰もが有しているわけではない。
グレヴェルディンガー 最新技術の活用は、サステナビリティーへの貢献度を測る共通指標としてのEUタクソノミーの利便性を、多くの人が享受できる環境構築に貢献する原動力となるだろう。こうした指標を個人投資家に提供することが重要だ。ESGに関する様々な情報を個人が簡単に収集、比較検討し、投資判断できる環境を整えれば、資金力や技術力に関わらず、情報へのアクセスが担保される。迅速かつグローバルなデータの共有は技術的に可能で、こうした環境は実現できる。
岩田 共通の価値尺度の不在はまた「グリーンウォッシング」を引き起こす一因にもなっている。グリーンウォッシングは、実際には環境への配慮がないにも関わらず、環境にやさしいことをうたう商品やサービスを指す。これにはどのように対応すべきか。