社会課題解決に向けた優れたビジネスアイデアを表彰する「第4回日経ソーシャルビジネスコンテスト」。大賞にManasa Mora(マナサ・ムラ)、優秀賞はAGRIST(アグリスト、宮崎県新富町)とツナガリMusic Lab.(ミュージックラボ、神戸市)、学生部門賞にSustainable Game(サステナブル・ゲーム、東京・豊島)が選ばれた。6日には表彰式のほか、新型コロナウイルス禍で生じた課題の解決などをテーマにした2つの討論会が開かれた。
「コロナ禍による社会課題の顕在化と解決への道筋」
横田氏 コロナ禍で社会課題が顕在化している。もともとあったものもより大きくみえてきた。コミュニケーション不足や孤独、医療に格差社会、教育と挙げれば数限りない。アフター・ウィズコロナで社会はどう変化しているか。
村木氏 世界中の人が共通の問題の当事者になる時代が来たのに驚いた。ウイルスは平等で大統領や首相でも感染する一方、経済危機や社会不安は弱い人を直撃した。失業・自殺数をみても女性への影響が強く出ている。第3次産業、非正規雇用が直撃を受けている。日本社会の弱さがみえた気がする。
横田氏 国も雇用調整助成金をはじめ支援に動いた。ただ申請方法が分からない、情報が届かないという面もある。
村木氏 IT(情報技術)化の遅れが随分言われた。申請に多くの書類が必要なのもネックになっている。簡単な操作ですぐできるといい。ひとり親家庭への支援でも制度は用意しているのに届かないのが課題だった。ぜひ改善したい。
横田氏 コロナ禍で働き方改革が進んだ。
村木氏 変革もっと迅速に
村木氏 在宅での仕事や時差出勤は厚生労働省時代から働きかけてきたが、できない理由が100くらい返ってきていた。難しいと思っていたが、あっという間にできた。本当はもっと早く変革できると感じた。
更家氏 旅行や飲食など経済が随分ダメージを受けている。まずは回復していかなくてはならない。確かにデジタル化は進んだ。ハンコがいらなくなり、在宅勤務ができてと社会が変わってきている。生産性向上のためにも加速させなければいけない。サラヤでは手袋やマスク、消毒剤の不足に対応して必死につくったが、業界としてサプライチェーン(供給網)をきちんとしなければならない。我々もアフリカのウガンダで事業をしているが、日本だけでなく世界中で取り組む必要がある。
横田氏 様々な社会課題のなかで興味がある分野は。
村木氏 女性や若者はもともと経済基盤が弱く、打撃も大きいと心配している。私は今若い女性を支援する「若草プロジェクト」を進めているが、昨春ごろから対話アプリ「LINE」での相談が急増した。「1カ月仕事がない」「家にずっといないといけないので逃げ場がない」といった内容がくる。虐待を受けた子どもも児童養護施設や里親のもとにいるが、18歳を超えると自分で暮らすことになり、とても苦労している。なんとか支援していきたい。
更家氏 新たな仕事の場を
更家氏 若い人が日本の未来だ。企業人としては地方創生を含めて新しい仕事のできる場所をつくる必要がある。環境や地球温暖化、生物多様性、海洋汚染、貧富の差といった社会課題を解決するなかでビジネスが回る。そういった枠組みをつくりたい。ただ企業だけではなかなかできない。自治体やNPO(非営利組織)と互いに協力しないといけない。情報も大事だ。インターネットやスマートフォンを通じて過剰なものを足りないところと結び付けて移動させるなど素早く対応しないといけない。SDGs(持続可能な開発目標)に関するいろんな仕事に取り組んでいきたい。
横田氏 企業や他の団体に期待していることは。
村木氏 企業は資金力、人材、技術もスピードもある。活動を全国に広げようと思えば行政の力がいる。行政と企業とNPOがトライアングルでやれれば一番いい。
更家氏 我々はビジネスを通じて経済を活性化させ、社会課題も解決できればいい。若い人には自分たちで仕事をつくっていくという気概をもって取り組んでほしい。
更家悠介氏(さらや・ゆうすけ) 1976年サラヤに入社。98年から現職。日本青年会議所会頭なども歴任。
村木厚子氏(むらき・あつこ) 労働省(現・厚生労働省)入省。女性政策などを担当し2013年に厚労事務次官。退官後は女性や子どもを支える活動に携わる。