地方創生 〜アフターコロナの新しい形〜

政府や自治体、大学も取り組み 実装に入った地方創生

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テレワークの急速な拡大は、オフィス拠点の郊外や地方への拡散を後押ししている。そんな中、大学や地方自治体は何をすべきか。2月1日、東京・大手町の日経ホールで日経地方創生フォーラムを開催。「大学が果たす地方創生」「スーパーシティで実現する地方創生」をテーマに、識者が講演・議論した。なお、本フォーラムは新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から一般の来場を中止し、インターネットを通じて会議の模様を配信した。

■基調講演

産官学連携による新たな地域再生構想
「Kanagawa Wellness Corridor~ Center of ME-BYO~」始動
東海大学 学長 山田 清志 氏

産業界の関与が重要

東海大学は文部科学省の「地(知)の拠点整備事業」に採択されたことをきっかけに、2016年に東海大学型パブリック・アチーブメント教育を導入。学生のシティズンシップの体得などに取り組んできた。また以前より、地域との関連を深めるべく、キャンパス周辺の神奈川県平塚市、秦野市、伊勢原市等と包括的な協定を結び、地域発展への貢献を模索してきた。静岡市とは、市が20年代前半に開業を予定する「海洋・地球総合ミュージアム(仮称)」事業にも参画する予定だ。

しかし一方で、各自治体との連携の末に、残念ながらキャンパスを閉鎖した事例もある。大学が地域連携で心得なければいけないのは、(1)資金提供の誘惑に惑わされない(2)自治体の政権交代にきちんと対応する(3)地域の無料コンサルにはならないということだ。

コロナ後を見据え、昨年10月に一般社団法人「Kanagawa Wellness Corridor」を立ち上げた。キャンパス周辺の3市3町を構想エリアとして地域内外の企業を集め、プロジェクトを検討。各自治体参画のもと協議会も組織し様々な施策検討を行う。現在は日本版CCRCを検討する「高齢者部会」、来年開設予定の児童教育学部の連携を見据え「子育てとコミュニティ部会」など、7つのプロジェクトが動いている。

今後の地方創生は、産業界の関与が重要だ。大学がコアになることで、持続可能な地域の発展に貢献できると考えている。

■基調講演

SDGsを活用した集合知の形成と地方創生の実現
法政大学 デザイン工学部建築学科 准教授
川久保 俊 氏

産官学民の事例を集約

法政大学はSDGsの目標年であり創立150周年となる2030年に向けて長期ビジョン「法政2030」を掲げた。サステナブルな社会構築のための教育研究活動を進める。

SDGsを実践につなげる鍵は、SDGsの「ローカライズ・パーソナライズ化」だ。地域や自分ごとに捉え直すことで、課題などが明確になる。

「ローカルSDGsプラットフォーム」は自治体のSDGsを「見える化」するサイトとして立ち上げた。

自治体のSDGs達成に向けた取り組みや、成功事例の登録・検索・共有が可能。SDGsを反映した計画の策定・公開状況、担当者へのインタビュー記事などを閲覧できる。自治体の担当者が先行事例を参考に客観的に把握、戦略を立てられることがメリットだ。

ローカルSDGsプラットフォームは自治体関係者を対象にしていたが、実際は企業や教育機関、一般市民などのユーザーも多かった。そのため、産官学民すべての関係者が参画できるサイト「プラットフォーム・クローバー」を新たに開発した。SDGsに関する情報の発信や最新動向の把握のほか、空間や属性を超えたユーザー間のマッチング機能を実装予定。このコロナ禍においてもSDGsアクションを止めず、ニーズやシーズをマッチングさせてイノベーションを創出し、課題解決を促進する。皆さんのSDGsアクションをぜひ発信し、広く社会に共有していただきたい。

■リレートーク
大正大学の長期地域実習を振り返って

前・長野県小布施町長 市村 良三氏
大正大学 地域創生学部 地域創生学科准教授 林 恒宏氏
大正大学 地域構想研究所教授 北條 規氏
大正大学 地域創生学部 地域創生学科2年生 八頭司 和波氏

地域担う人材育成を

 北條 大正大学は東日本大震災の復興支援を機に、地域に軸足を置いた人材育成を始動。2014年に地域構想研究所を設立、16年に地域創生学部を設置した。現在は全国95の地方自治体と連携協定を結び、様々な地方創生活動をしている。

 市村 小布施町は04年に合併せず自立し、協働と交流のまちづくりを決意。住民と地場企業、大学・研究機関、若者らとの協働を掲げた。大正大学は小布施町を社会実験の場として地域実習を実施しており、画期的な協働が進んでいる。

 林 19年の小布施町の地域実習では、学生たちは稲刈りやスラックラインなどの地域交流と、課題に関する調査・研究を42日間にわたり実施した。地域の人々との交流を通じて、肌で感じる学びがあるのが当実習の強みだ。

 八頭司 私は小布施町の地域実習で、本音で語り合えるような関係性を築くことができた。将来は故郷での事業承継を考えており、実習で得た学びを大いに役立てたい。

■パネルディスカッション

スーパーシティで実現する地方創生
紀南を一体化、魅力倍増

●パネリスト
和歌山県すさみ町長 岩田 勉氏
ウフル 代表取締役社長CEO
園田 崇史氏

■コーディネーター
南紀白浜エアポート代表取締役社長 岡田 信一郎氏

 岡田 和歌山県は自然に恵まれ、ワーケーションや串本町の民間ロケット打ち上げなどで注目されている。一方で人口減少や所得の低さといった課題も抱えている。

 岩田 すさみ町は紀伊半島の南に位置する。人口3800人の約5割が65歳以上という少子高齢化が進む過疎の町だが、課題克服のためにスーパーシティ構想に名乗りを上げた。

 園田 15年前に、テクノロジーを活用し持続可能な未来の創生を志し創業した。地域課題解決のために和歌山県白浜町にR&Dオフィスを構えている。

 岡田 観光はどうか。

岩田 すさみ町には手つかずの自然と多くの人が楽しめる畑や海がある。まちとして何ができるか、社会の流れを見極めながらまちづくりに取り組みたい。

 園田 アクティビティーを楽しみながらワーケーションすれば、新しいことが生まれると感じている。すさみ町には素晴らしい温泉もある。

 岡田 東京・羽田から白浜空港まで90分で来れるのも利点だ。テクノロジーの活用について意見を聞きたい。

 園田 例えば、空港からすさみ町までのモビリティサービスや滞在型バケーションの仕組みづくりなどがある。すさみ町には伸びしろを感じている。

 岡田 密を気にせず伸び伸び生活できるのも利点だろう。

 岩田 5年ほど前から自然を生かしたまちづくりの準備をしてきた。コロナを機に都会からの移住者を受け入れる時期が到来したと感じている。

 岡田 テクノロジーを使ったコロナ対策はあるか。

園田 コロナの怖さは目に見えないことだ。様々なデータを連携して可視化し、次の手を考えることが最初のステップだ。

 岡田 防災はどうか。

 岩田 南海トラフ地震で想定される津波の高さは、和歌山県でも最大級の19メートルといわれている。津波対策として公共施設を安全な場所へ移し始めている。町民にも転居を促し、コンパクトビレッジ構想を進めている。各集落に自主防災のための補助金も出している。

 岡田 避難誘導や安否確認はテクノロジーの活用が必要だ。

 園田 居住者だけでなく来訪者も安心できる仕組みがほしい。台風への備えも大事になる。データや手続きがデジタル化していれば災害後の復旧が早くなる。災害と共生する心構えでソリューションを作りたい。

 岩田 職員には最悪を想定して最善を尽くすよう言っている。まち全体の質を高めるためにスーパーシティを活用したい。

岡田 紀南の良さは自治体が広域連携できることだ。

 岩田 紀南が1つにならなければ持続できない。各自治体の特徴を磨いて連携すれば今より何倍も魅力的な地域になれる。

 園田 課題は高齢化だ。うまくテクノロジーを使い住民の体のデータなどをリモートで高度な医療とひもづけ、予防的に仕掛けられれば、さらにまちが生き生きする。事業化できれば世界のモデルケースにもなり得る。

 岩田 急激に人口減少が進む時代は、企業と自治体が協働して地域を支えることが重要だ。昭和30年代の高度成長期は日本全体で目に見える変化があったが、今は特定の人だけが変化し、置き去りにされる人が出てきている。民間と共に地方を支えていきたい。

 岡田 企業から見た紀南の魅力は何か。

 園田 すさみ町はチャレンジ精神があるベンチャーコミュニティーだ。すさみ町と共に世の中を変えていきたい。

 岩田 過疎地では伝統文化が伝承されずに消えていっている。伝統文化の伝承者になってくれるような人々に足を運んでもらい、共に楽しめるまちづくりを目指したい。

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