地方創生 〜アフターコロナの新しい形〜

地方創生フォーラム(上) 地方創生へ人材育成 住みやすさを発信

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コロナウイルスの感染拡大は、地方でのテレワークという新しい働き方を顕在化させた。高齢化や人口減少に直面する地方にとっては、課題解決に向けた大きな一歩になる可能性を秘めた重要なテーマだ。昨年12月10日、都内で「日経地方創生フォーラム~アフターコロナの新しい形~」を開催。多くの自治体・政府関係者、識者らが一堂に会し、地方創生に向けた様々な取り組みを紹介、議論した。本フォーラムは新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から一般の来場を中止し、ネットを通じ無観客で会議の模様を配信した。

● セッション1 地方移住、テレワークから考える地方創生

・基調講演 新しいライフスタイルの提案「リモートワークで秋田暮らし」
秋田県知事 佐竹 敬久 氏

新しい働き方をサポート

新型コロナウイルス感染症の拡大で、テレワーク、リモートワークがクローズアップされている。地方に移住、あるいは地方に滞在していても、東京や他の地域との通信環境さえしっかりしていれば、様々な仕事ができる。地方に暮らして、中央の仕事をする。そういう時代になった。

秋田県では、東京の上場企業を中心とする約4000社に対し、リモートワークによる移住への関心度や実現に向けた課題などを調査するアンケートを実施した。回答があったのは、559社。関東が6割、関東以外が4割。また、県内に事業所や関係会社がある企業は2割。秋田と縁のない企業が8割であった。

3分の1を超える202社がリモートワークを緊急避難的ではなく、新しい社員の働き方として拡大していきたいと回答。企業側のメリットとして、社員のワークライフバランスの充実、オフィスや通勤面でのコスト削減などを挙げた。

一方で、人事管理、労務管理、健康管理、社員間の情報の共有などの課題も浮き彫りになった。ただそれも、工夫次第で解決が可能だ。

最終的に、リモートワークで秋田に社員が移住する可能性があると答えた企業は63社。ワーケーションは、85社が可能性ありと回答した。

ただ、取り組み方には、各社ごとに違いもある。支援制度をつくるに当たっては、オーダーメードで、多くの企業に対応できる支援策、優遇措置が必要になる。各社が想定するリモートワークによる秋田暮らしの課題を理解し、それにどうお応えできるかが重要になる。

国でも相当問題意識を持っている。リモートワークによる地方移住を、単に一民間企業の仕組みづくりと捉えるのではなく、国全体として、地方と中央がどう役割分担するか、さらには、地方の様々な資源をどう生かすかという視点が重要である。

秋田は風力発電を中心に、すべての再生可能エネルギーがそろう。環境に負荷をかけない電力を、低価格で利用できる。農業県でもあり、食料や水が豊富であるほか、教育・研究機関も充実している。

また、クリエーティブな仕事をするためには、働きすぎは禁物だ。秋田は四季が明確で年間を通じて余暇を楽しむことができ、子育て環境も充実している。生活コストも低く、暮らしを豊かにする環境がある。家族仲良く、友人、知人と様々な面で触れ合える。こういうところからいい仕事、発想が出てくる。それは企業の生産性の向上にもつながる。

リモートワークは、コロナ禍に伴う緊急避難ではない。地方と中央の関係や役割分担を再構築し、新しい働き方を実現する。それは企業を発展させる原動力につながる。県と市町村が一体となり、しっかりサポートしていきたい。

・基調講演 「豊岡の挑戦」― Local & Global ―
兵庫県豊岡市長 中貝 宗治 氏

人口減でも元気なまちとは

豊岡市の最大の課題は、地方創生、人口減少対策だ。2015年に8万2250人だった人口は、40年には30%減って、5万7770人になると見込んでいる。人口減少を食い止めるのは困難で、市では、目標値を6万2000人と定めた。

私たちは、人口減少の量的緩和と併せて、まちのありようの質的転換を図ることによって、人口が減ってもなお、元気なまちを創る必要がある。その旗印に「小さな世界都市」の実現を掲げ、「突き抜けた豊岡に暮らす価値」の創造を目指している。

そのためのエンジンは3つ。まずは環境都市「豊岡エコバレー」をつくる。そのシンボルがコウノトリだ。1971年に豊岡で、最後の一羽が死んで、日本の空から野生のコウノトリが消えた。とどめを刺したのは農薬だ。

そこで豊岡では、農薬に頼らない「コウノトリを育む農法」を確立し、広げてきた。農薬にかかるコストなどを勘案すると、減農薬、無農薬でコメを作った方が、農家の実収入が多くなっている。これが後押しになり、コウノトリも住める豊かな自然・文化環境を取り戻しつつある。

2つ目の取り組みはインバウンドの促進。豊岡には観光地・城崎温泉があり、多くの外国人観光客が、日本の文化を楽しみたいと訪れている。世界各国からまんべんなく訪れる外国人観光客は、この8年間で45倍にまで膨れ上がった。

豊岡市では現在も、世界中のメディアに豊岡の情報を発信中だ。コロナ後も、昨年を上回るペースで発信している。これは、コロナ後に必ず功を奏すると信じている。

3つ目は、深さをもった演劇のまちづくり。城下町の出石には、1901年に築かれた、近畿に現存する最古の芝居小屋「永楽館」があった。長らく閉鎖されていたものを市が譲り受け、2008年に復活させた。

さらに城崎温泉にあった古いホールを城崎国際アートセンターとして劇団に無料で貸し出すことにした。世界中から一流のアーティストが集うようになり、平田オリザ氏を学長に、芸術文化観光専門職大学の開学も決まった。豊岡演劇祭も開催した。

豊岡演劇祭の観光消費額は4500万円、経済波及効果は約7500万円と推計している。

コロナの感染拡大を受け、市ではテレワークの誘致に取り組んでいる。城崎国際アートセンターには、KDDIが他の地方自治体に先駆けて、5G基地局を整備した。

さらに、その魅力を高める中期的な取り組みとして、トヨタ・モビリティ基金と協働して、豊岡スマートコミュニティ推進機構を設立した。今後、人々が多様性を受け入れ、フラットにつながり支え合うスマートコミュニティーを構築していく。

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