日経SDGsフォーラム シンポジウム

日経SDGsフォーラム(上) 今こそ新常態生かし持続可能な経済探れ

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日本経済新聞社と日経BPは昨年11月26、27両日、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の達成へ企業を支援する「日経SDGsフォーラム」を都内で開催、会場の模様を日経チャンネルで中継した。政府関係者や企業経営者らは新型コロナウイルスとの戦いで生まれた「新常態」を社会のエコシステム構築に生かしつつ、持続可能な経済活動を探る姿勢を示した。

■講演
国連広報センター 所長 根本 かおる 氏

行動 世界につなげて

今年は国連誕生から75年という節目の年。大国間の反目や自国中心主義の強まりで、国連は危機克服に必要な影響力の結集を果たすため困難なかじ取りを迫られている。

国連が行った調査では、心強いことに87%以上が現代の課題の対応に国際協力が欠かせないと答え、74%以上が今後も国連の存在は不可欠だと評価した。

一方、先進14カ国を対象とした調査で、日本の国連への支持と評価が最低となり、国際協調への支持も日本は最下位だった。長らく国連や国際協力に好意的だった日本の世論が急激に変化してしまったことを憂慮するとともに、結果を真摯に受け止めて信頼回復に努めたい。日本の関係者の皆さんと一緒に国連が定める持続可能な開発目標「SDGs」達成のための行動を起こし、世界につなげることが大きな鍵になると確信している。

SDGsは人類が新型コロナウイルス危機を乗り越え、より持続可能な世界に転換するための羅針盤となるだろう。

■講演
JERA 代表取締役社長 小野田 聡 氏

「2050年脱炭素」に挑む

世界のエネルギー問題を解決するグローバル企業として、また国内最大の発電事業者として、地球温暖化問題への対応は経営の最重要課題だ。当社は2020年10月13日に「JERAゼロエミッション2050」を公表した。

50年に国内外の事業から排出する二酸化炭素(CO2)を実質ゼロとすることに挑戦し、持続可能な社会の実現に向けた責任を果たすため3つのアプローチを考えている。

1つ目は、再生可能エネルギーのみならずアンモニアや水素などのグリーン燃料を使う火力発電もあわせてゼロエミッションを実現すること。2つ目は、国や地域で大きく異なる経済の成長段階や地理的条件などに合わせたシナリオにより脱炭素を目指すこと。3つ目は、イノベーションによって活用可能なものから技術を導入し、低い技術リスクで円滑に脱炭素を実現することだ。

そのため、30年までの非効率石炭火力の停廃止、石炭火力におけるアンモニアと水素混焼の実現、洋上風力を中心とした再生可能エネルギーの開発・拡大、蓄電池による再生可能エネルギーの導入支援などを行っていく。

さらに燃料の上流開発から発電・販売まで一連のバリューチェーンに参画している強みを生かし、グリーン燃料のサプライチェーン全体の構築に参画するとともに、他の用途へのグリーン燃料の活用を視野に入れた事業展開を検討していく。既に色々な分野で利用され、バリューチェーンが確立しているアンモニアに注目し、サプライチェーン確保のため官民一体となって取り組みたい。

脱炭素に向けた最適な選択肢は国によって異なる。JERAは再生可能エネルギーとゼロエミッション火力を組み合わせながら、50年脱炭素にチャレンジする。

■講演
キリンホールディングス 代表取締役社長 磯崎 功典 氏

世界のCSV先進企業に

キリングループは100年以上の歴史の中で環境変化に柔軟に対応しつつイノベーションを創出してきた。祖業のビール事業から1970年代までに清涼飲料事業を拡大し、80年代には医薬事業へも本格的に参入。酒類事業でもジャンルを広げ新市場も創出した。2000年代には積極的に海外市場にも展開してきた。

主力であるビール事業も人口減など構造的問題や世界保健機関(WHO)のアルコール規制など環境が大きく変化した。その中で13年、社会との共生を目指すCSV(共有価値の創造)経営を掲げた。19年発表の長期経営構想で目指すべき指針を策定し、4重点課題を定めた。酒類メーカーの責任として、アルコールの有害摂取根絶に取り組むこと、未病・予防・治療の領域で人々の健康に貢献すること、地域社会・コミュニティーを発展させること。持続可能な地球環境を次世代につなぐことだ。

新型コロナウイルスの感染拡大が世界を覆う中では、健康事業の2番目のチャレンジが今だと考えている。免疫力が注目されるようになり、長年培ってきた発酵・バイオ技術が活用できる。医薬事業参入直後から免疫研究を進め、免疫細胞の司令塔を直接活性化する性質を持つ乳酸菌を発見し、独自に「プラズマ乳酸菌」として商品化した。

19年にはファンケルと資本業務提携を交わし、商品開発に加えて脳、免疫、腸内環境などに関する研究も始めている。サプリメントや飲料など摂取しやすい形で世界に供給することで、世界の人々の健康に貢献することが新たな成長につながっていくと考えている。

10年後の姿を「世界のCSV先進企業となる」と掲げている我々は、リスクを成長機会に変えて、社会課題を解決しながら新たな市場と価値の創造に挑戦し、持続的成長につなげていく。

■講演
三井不動産 取締役副社長 執行役員 小野沢 康夫 氏

共助の「日本橋モデル」広げる

三井不動産は三井創業の地である日本橋の街づくりに長年携わってきた。街づくりはSDGsそのものと考えており、その中心に「コミュニティー」がある。

日本橋には江戸の昔から続く事業やのれんを守り、発展させて次の時代へ受け渡す精神がある。当社を含めた三井グループにも、この精神がDNAとして受け継がれている。年を経て魅力が増すことを当社では「経年優化」と呼んでいる。

都市再生に英知を結集した「東京ミッドタウン」や公民学が連携した参加型街づくりの「柏の葉スマートシティプロジェクト」でも経年優化の思想を体現した。日本橋地区ではオフィス、商業ビル、ホテルのほか歴史ある福徳神社の社殿再興と憩いの場として福徳の森整備など地域貢献にも取り組んできた。

日本橋は明治から金融・経済の中心地で、火災や震災、戦火の下でも共助の精神で克服してきた。バブル崩壊や金融危機では強い危機感から地元の老舗や行政、企業が結束し、1999年に日本橋再興への強い絆を持つコミュニティー「ルネッサンス100年計画委員会」を創設し、20年後の今も活動を続けている。

2019年竣工の日本橋室町三井タワーはスマートシティープロジェクトの一環でガスコージェネレーションシステムを備え、日本橋各街区に熱電併給している。全エリアで二酸化炭素(CO2)排出量30%を削減し、この手法で豊洲地区や現在計画中の八重洲再開発でも首都強靭(きょうじん)化に貢献する。100年後に「先輩は良い遺産を残した」と言ってもらえる街づくりが目標だ。

日本橋に継承される粋や共助の精神は持続可能な社会実現の貴重なヒント。顔の見えるコミュニティーを維持発展させ、日本橋に根付く心意気で「日本橋モデル」を世界に広めたい。

■講演
デジタル改革相 平井 卓也 氏

幸福生むデジタル化主導

Society5.0の実現を目指す社会ではQuality of Lifeと幸福度、つまりWell beingが問われる。今後は様々な政策がSDGsの中へと収れんしていくだろう。

今までの日本のデジタル化は非常に中途半端で、国民の期待に応えられるようなパフォーマンスを出し切れていなかった。インフラがありながら使い切れていなかったことは反省せねばならず、これまで進めてきた色々なシステム化の構造そのものを見直すべき時代になった。そんな時代の要請を受け、異例のスピードでデジタル庁が発足する。

国が率先してデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むが、民間の皆さんのマインドセットも変えていただきたい。今までの日本は官民挙げてデジタル化の取り組みの本気度が足りなかったと思う。

デジタル庁が次の時代のシンボルとなる理由は、今までの霞が関の組織文化と決裂し、次代を担う官僚たちが自由にその力量を発揮できるよう、官民一体となって1つの目標へ進む協業のモデルであることだ。リモートを前提とした雇用形態も一部採用したいと考えている。誤解のないよう皆さんに伝えたいのは、デジタル技術は人間を幸せにするために駆使するのだということ。そのために全力を挙げる。デジタル化のプロセスを透明化し、柔軟に取り組んでいきたい。

デジタル庁のモットーは「徹底的に国民と向き合う」であり、極端に言えば国民しか見ない新しい役所をつくろうとしている。広く国民の意見を聞くアイデアボックスを常設し、議論を重ねたうえで多くの国民が支持する政策は全て実行に移したい。省庁縦割りの弊害を打破するために全体最適化を行い、国民にとって最も価値のあるサービスが提供できるシステムをつくる。国と地方自治体間でシステムを共同・クラウド化することも、デジタル庁が絶対にやらなければならない仕事の一つだ。

デジタル庁が目指すべきデジタル社会とは、知らないうちにとても便利になっていて、若者から高齢者まで色々な選択肢の中で新たな幸せを追求できる社会だ。デジタルは人と人、地域と地域をつなぐ力が大きい。人口減少による地方の疲弊といった課題もあるが、デジタル化のアイデアによって国全体で適正な分散と集中が進むだろう。

デジタルがもたらす新しい日本の形を我々がリードしていかなければならない。国民の皆さんには、それぞれの立場で次の時代を創るデジタル化に取り組んでいただきたい。

■講演
セールスフォース・ドットコム 代表取締役会長 兼 社長 小出 伸一 氏

変革のプラットフォームへ

当社は創業当時から社会貢献やイノベーションのリーダーとして取り組んできた。信頼、カスタマーサクセス、イノベーション、平等の4つのコアバリューをもとに、ビジネスと社会貢献の両立を実践している。この活動の象徴が「1-1-1モデル」であり、就業時間、株式、製品の各1%を社会に提供している。

組織は環境や平等、社会貢献等に関してそれぞれ責任者を決め、経営陣の役割を定めるユニークな体制を敷いている。社会・環境に有益な影響を与えるスタートアップ企業に投資をするインパクトファンドを自社で設立し、企業の成長を後押ししている。

ステークホルダーの中で忘れてならないのが社員だ。社員が働きがいを感じモチベーションが上がれば顧客へ良い提案ができて顧客の成功を支援できる。具体的には、健康維持増進を目的とした活動費用の補助や、養子縁組の費用も会社で負担。LGBTQ(性的少数者)や障害者ら多様なステークホルダーに向けた社員主導の支援も行っている。

新型コロナウイルスの感染拡大によりあらゆる分野でデジタルシフトが加速した。デジタルとリアルの融合を前提に企業活動を変化させる時代に入った。当社の日本の一般消費者へのアンケートでは、回答者の7割が「テクノロジーは気候変動問題で主要な役割を果たすべき」だと回答。企業はSDGs実現へ積極的に取り組むことが重要で、そのためには企業自身がデジタル変革を行い、データを可視化し、サステナブルなデジタルトランスフォーメーションを実現せねばならない。

企業は、すべてのステークホルダーにとっての成功とは何か、ビジネスが社会・環境に与える影響をどう考えるべきかを自ら問い直す必要がある。持続可能な社会をつくる変革のプラットフォームを目指したい。

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