瀕死の森を再生 地域社会も潤う
丸紅の若手社員が木肌を確かめ、生い茂る葉を見上げる。インドネシアに広がるユーカリ・ペリータの木々は、彼ら自身の手でたぐり寄せた未来だ。
首都ジャカルタから飛行機で1時間。さらに陸路で3時間走った先にその雄大な森林はある。東京都の1.3倍という大規模な植林事業を手掛けている。
8年前、この森は死にかかっていた。アカシアの木が病気で枯れてしまったのだ。危機を脱するため病気に強く、土壌に合う樹種に全面的に植え替える道を選んだ。苗の育成、植林の間隔、肥料の量。すべてゼロからの挑戦だった。材木の初出荷までに要した月日は5年。一つ一つ課題に取り組み、解決策を積み重ねることで見事、森を生き返らせた。
今も社員は森に住み込み、丁寧に木々を育てる。地域に雇用が生まれ、学校運営にも関わっている。
国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)。17あるゴールのうち、いくつもの目標達成に貢献できるのが植林事業だ。森は二酸化炭素(CO2)を吸収し、バイオマスの燃料や素材になる。産業として持続することで地域社会も潤う。だからこそ、丸紅は重要事業の1つに森林経営を据えている。
かつては、安価な南洋材を大量輸入していたのは商社自身でもあった。しかし地球は悲鳴をあげ、大量生産・大量消費は行き詰まっている。立ち止まった顧客や社会がそれに代わる解決策を求めている。
グループの三峰川電力が全国で手掛ける中小規模の水力発電も、紡ぎ出した解決策の1つといえる。地産地消型のクリーン電力だ。ただその影で石炭火力の縮小という難しい決断も下した。祖業でもある繊維事業ではリサイクル分野で新たな挑戦をする。
創業以来ずっと同じというビジネスは商社にはない。苦しい時代が何度もあった。しかし乗り越えてきたのは先を読み、顧客に寄り添い柔軟にビジネス機会を生み出すDNAがあるからだ。その中でもSDGsは特別な変化の波であり、時代の要請だ。
今の環境を破壊してまで成長を続けることはできない。「その生存本能を人間は持っている」と柿木真澄社長はいう。不便や負担を受け入れつつ、適切・適正・適量で生産し消費する社会へ、今までなかった解決策を切り開くことは、まさに「ジャーニー(旅)」。未来へとつながるビジネスをつくり出すことこそ商社の役目だ。
(編集委員 藤田和明)
社会のニーズや課題を先取りして自らのビジネスモデルを変革し、ソリューションを提供する。それが当社のDNAです。20世紀は「貿易」によって地理的なギャップを埋めてきたのが総合商社でした。21世紀は「投資」によって、将来的な価値と現在の価値のギャップを埋めていきます。そこには子供や孫の世代も超え、超長期に人類社会を考えるサステナビリティーの視線が必要になります。
SDGsの17の目標はそれぞれが絡み合い、1つのビジネスで複数の目標に貢献できることが多々あります。例えば当グループが取り組む中小型の水力発電事業は、地域社会と密着して環境に優しい電力を地産地消するビジネスです。インドネシアでは森を育て、雇用も生む持続可能な森林経営で実績を上げています。
SDGsの貢献へ、グループの事業活動に伴う温暖化ガスの排出量を2030年度までに18年度比で25%削減するのが目標です。同時に、気候変動対策に貢献するビジネスを「グリーンレベニュー」とし、23年度に1.3兆円規模にしたいと考えています。17年度のほぼ2倍です。
様々な角度で課題に寄り添い、顧客や社会とともに考え、新しいビジネスを生み出していく。この「イノベーション・ジャーニー」が当社が目指す挑戦です。すべての人が笑顔になれる社会へ貢献していきたいと思っています。